ムーンショット型研究開発事業「アバター共生社会」プロジェクトの オフィシャルCGアバターを開発

ムーンショット型研究開発事業「アバター共生社会」プロジェクトの オフィシャルCGアバターを開発

誰もが自在に活躍できる次世代アバター社会の実現を目指して

2022-6-20工学系
基礎工学研究科教授石黒浩

発表のポイント

  • ムーンショット型研究開発事業の「アバター共生社会」のオフィシャルCGアバターを作成
  • 自律動作と遠隔操作を両立し、存在感と生命感を備える、受け入れられやすいデザイン
  • 社会実験や企業コンソーシアム、展示会等での幅広い活用を目指す

概要

名古屋工業大学大学院工学研究科 工学専攻(情報工学領域)李晃伸教授らの研究グループは、大阪大学大学院基礎工学研究科 システム創成専攻(システム科学領域)石黒浩教授らの研究グループと共同で、ムーンショット型研究開発事業 の一環である「サイバネティック・アバター基盤」の研究開発を推進するための「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」(アバター共生社会)プロジェクトのオフィシャルCGアバター2体を作成しました。性別を感じさせない見た目のデザインによって、多くの利用者が受け入れやすいアバターになっています。本CGアバターは「アバター共生社会」プロジェクトにおける基礎研究や実証実験に用いられるほか、2025年日本国際博覧会をはじめとした展示会など実社会における幅広い活用を目指します。

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図1. CGアバターによる案内会話の様子

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図2. CGアバターによる施設案内の様子

研究の背景

コロナ禍においてコミュニケーションのオンライン化が進み、モニターを介したテレコミュニケーションが急速に浸透する中、内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」におけるムーンショット目標1「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」の達成に向けた研究開発プロジェクトのテーマの1つとして“アバター共生社会の実現”が掲げられています。李教授らの研究グループでは、石黒浩教授がプロジェクトマネージャーを務める「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」の研究開発の一環として、画面の中にありながら人と自然に会話できるリアリティと生命感を持つCGアバター(CG-CA)の開発を進めています。特に、人工知能技術を用いて自動応対する自律動作モードと、オペレータが遠隔地から操作しつつ会話を行うアバターモードを、シームレスに融合したシステムの研究開発を行っています。

李教授らの研究グループでは、これまで名古屋工業大学内に設置された双方向音声案内デジタルサイネージ「メイ&タクミ」をはじめとした実環境音声対話エージェントの研究開発およびキャンパス内での運用を行ってきました。本CGアバターはその長年にわたる実運用で得られたCGキャラクターの見た目の設計に関する知見をもとに開発されたもので、個性の表出を控えめにした見た目と高い表現能力によって、自律動作モードとアバターモードのどちらでも違和感のないデザインになっています。また、性別を感じさせない見た目によって、公共・商業施設や教育施設、イベント会場などの場において、子どもから大人まであらゆる人に受け入れられ利用されやすいデザインとなっています。

研究の内容・成果

今回、CGエージェントの受け入れられやすさの調査・研究を行い、「ジェネリック型」「キャラクター型」「着ぐるみ型」の3類型を見いだし、このうち特に個性の表出を抑えて汎用性を重視した「ジェネリック型」の3G-CGモデルおよび2D-CGモデルを開発しました。

3D-CGモデルはUnreal Engineを利用した高精細なグラフィックスで表現され、「誰でも使え、誰でもない」中性的で端正なルックスを備えたモデルとして設計されており、人としてのリアルな質感、CGらしい豊かな表現力を備えています。呼称は “Rubica”(ルビカ)です。

2D-CGモデルの呼称は「ジェネ」といい、子どもや若年層にとって親しみの深いアニメ調の表現で、老若男女に受け入れられやすい中性的なルックスを持ちます。アニメ調の豊かな表情および動作表現を持つモデルであり、ノートPCやスマートデバイスなどの端末で軽快に動作します。

いずれも案内対話や接客対話、傾聴対話といった多様な対話タスクのための表現をカバーする34種のCGらしい表情豊かな会話アクションを備えるほか、音声信号と同期した自動リップシンクやフェイストラッキングのための顔パーツの詳細な変形パターンが定義されており、自律動作モードとアバターモードの両方において大きな存在感とリアルな生命感、豊かな表現を実現します。

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図3. 3D-CGアバター Rubica(ルビカ)

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図4. 2D-CGアバター 「ジェネ」

今後の展望

本CG-CAは、同プロジェクトで開発中の基盤システムと合わせて、多くの実証に取り組み、さらには社会実装を目指します。

今後も李教授と石黒教授らは、本CGアバターと音声合成技術や対話応答生成技術を組み合わせ、人間に近い高度な音声対話システムの研究開発を行い、同時に、プロジェクトで連携する企業とともに、実用化にも取り組みます。

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図5. サイバネティック・アバターの解説図

用語説明

ムーンショット型研究開発事業

超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進する事業。ムーンショット目標1.2.3.6.8.9については科学技術振興機構が担当。大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩教授がプロジェクトマネージャーとして推進しているプロジェクト「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」の一環として、ロボットやCGを含めた多様なアバターの様態を活用したCA 基盤と CA 生活の実現を目指し、サイボーグやアバターとして知られる一連の技術を高度に活用して、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張する研究開発を推進しています。

サイバネティック・アバター

(Cybernetic Avatar、以後CA と略す)とは、「身代わりとしてのロボットや映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するICT 技術やロボット技術を含む概念」で、Society 5.0 時代のサイバー・フィジカル空間で自由自在に活躍するものを目指しています。CAは図5のように、身体、脳、空間、時間の制約から解放するために様々な機能や形態が考えられています。