文豪・夏目漱石のアンドロイド「漱石アンドロイド」が完成
日本初、授業を行うアンドロイドを目指して
本研究成果のポイント
・日本を代表する文豪・夏目漱石のアンドロイドが完成。漱石作品の朗読や講演の再現等のプログラムを搭載し、教育現場で活用するアンドロイドを日本で初めて製作した。
・今後更に、漱石文学や漱石の性格、動作の特徴を研究し、アンドロイドに搭載するプロ グラムに反映させることで、一つの「漱石像」を形作るという、文学研究の新しい領域を開拓する。
・教育現場で活用しながら、人間社会におけるアンドロイドの受容性を研究する。
リリース概要
学校法人二松学舎の二松学舎大学大学院文学研究科と国立大学法人大阪大学大学院基礎工学研究科(石黒研究室)は、共同研究として、夏目漱石(以下、漱石)のアンドロイド「漱石アンドロイド」を製作し新たな文学研究やアンドロイドの受容性について研究する「教育現場にかかわる人間型ロボットの創成と活用に関する研究」を行っており、この度、漱石作品の朗読や講演の再現が可能な「漱石アンドロイド」を完成させました。
アンドロイドが、授業や講義を行うという試みは日本初のことであり、誰もまだ経験したことのない教育をめぐる実験です。多くの日本人に、文豪として広く知られている漱石が、人間に限りなく近い形のアンドロイドとして姿を現し、漱石作品の朗読や講演を行うことにより、教育現場においてどのような効果をもたらすのか、さまざまな教育現場での活用を通じて、検証していきます。
今回完成した「漱石アンドロイド」本体は、石黒浩大阪大学大学院基礎工学研究科教授監修のもと、二松学舎大学大学院文学研究科の教員で構成された研究チームが、多くの人にとって馴染み深い、旧千円札に描かれた漱石(45歳頃)をモデルに、伝記的・身体的調査を実施し製作したものです。
今後は、完成した「漱石アンドロイド」に搭載するソフトウェア(授業・講義用プログラム)を開発する中で、漱石文学や漱石の話し方の特徴や動作などの研究を深め、「漱石像」を実際に形作る、という新しい文学研究を進めていきます。また、教育現場で運用していく中で、「漱石アンドロイド」が社会にどう受け入れられ、どういった存在になっていくのかということを検証し、アンドロイドの活用に関する研究を行っていきます。
研究の背景
二松学舎では、創立140周年記念事業として、本学の卒業生であり、本年没後100年、来年には生誕150年を迎える夏目漱石(以下、漱石)を、アンドロイドとして甦らせる「漱石アンドロイドプロジェクト」を立ち上げ、大阪大学大学院基礎工学研究科(石黒研究室)と共同研究を行うこととなりました。このプロジェクトは、「漱石アンドロイド」を製作することで、大学や高校、中学などの教育現場でアンドロイドを活用しながら、文学研究の新たな領域へのアプローチ方法を探るとともに、人間社会でのアンドロイドの受容性を研究することを目的としています。
制作過程、手法など
「漱石アンドロイド」の製作は、共同研究者で、アンドロイド研究の第一人者である石黒浩大阪大学大学院基礎工学研究科教授監修のもと、漱石のご子孫の夏目房之介氏と朝日新聞社にもご協力頂き、二松学舎大学大学院文学研究科の教員で構成した研究チームで行いました。
アンドロイドの外見は、大正元年、漱石が45歳の頃に撮影された写真の姿に基づき、立体的な頭部製作には、朝日新聞社所蔵の「デスマスク」を3Dスキャンして得られたデータを使用しています。胴体や手足については、「デスマスク」のサイズを基準とし、アンドロイド製作の目標年齢に近い漱石の写真何枚かと比較、顔のサイズの比率から各部位のサイズを導きだしました。また、「東北大学デジタルコレクション漱石文庫データベース」で公開されている身体検査のデータ資料も参考にしています。音声は、夏目房之介氏の声を収録し、録音した声を音素に分解、再合成して人工音声を創作しました。洋服は、当時の写真と文献資料から考察を進める一方、早稲田大学理工学術院石川研究室(石川博教授、飯塚里志研究院助教、シモセラ・エドガー研究院助教)に、AIによるモノクロ写真のカラー化を依頼、その画像を基に生地の色を決めました。
また、今回、漱石の身体的特徴や足跡を辿る調査として、広島県安芸太田町にある加計家を学生とともに訪れ、漱石の声が録音されている「蝋管」を確認させていただくと共に、愛知県の博物館明治村も訪れ、漱石が当時着ていた洋服などの実物に触れるというフィールドワークも行いました。
アンドロイド本体及び機構部は、株式会社エーラボが製作を担当しました。皮膚は株式会社エーラボオリジナルリアルスキンを採用し、44か所に空気圧アクチュエーター を埋め込むことで、首や両腕が稼働し、表情を変えることができる動作仕様となっています。
アンドロイドの制御(動き)は、主だった動作を事前にプログラムし、タッチパネル式のPCで操作する「リアルタイム」の遠隔操作と朗読や講演プログラムを事前に登録し「再生する」操作で行います。
今後の展開
今回完成した「漱石アンドロイド」は、教育現場での活用はもちろん、今後、二つの研究の基盤となるものです。一つ目は、新たな文学研究、人物研究です。これから講義・授業用のプログラムを開発していきますが、その開発過程の中で、漱石文学や漱石の話し方の特徴や動きなどの研究を深め、プログラムに取り入れ、搭載することで、一つの焦点としての「漱石像」を探求し、形作っていきたいと考えています。また、一つの焦点としてのアンドロイドの「漱石像」と個々の漱石文学研究者が抱いている「漱石像」との相違等も研究対象として参ります。
二つ目は、人間社会におけるアンドロイドの受容性の研究です。形作られた「漱石アンドロイド」を教育現場で運用することで、「漱石アンドロイド」が社会にどう受け入れられ、どういった存在になっていくのかということを検証していきます。まずは、大学・高校・中学での講義・授業の際、受講学生・生徒に対して、詳細なアンケートを実施し、アンドロイドに対する受容性などのデータを年齢別、男女別に取り、研究に活かしていく予定です。
「漱石アンドロイド」の仕様
高さ:130センチメートル(座位モデル/立位での使用は想定しない)
※実際の漱石の身長は159cm
動作箇所:44か所(頭部動作13か所、頸部動作3か所、左手腕部動作12か所、右手腕部動作12か所、胴体部動作4か所)※片目に眼球カメラを搭載。
アクチュエーター:空気圧アクチュエーター
皮膚素材:株式会社エーラボオリジナルシリコン樹脂
頭髪素材:人毛鬘、一部植毛
参考URL
大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻知能ロボット学研究室(石黒研究室)HP
http://www.irl.sys.es.osaka-u.ac.jp/
用語説明
- 空気圧アクチュエーター
圧縮空気を利用した駆動装置。アンドロイドの体の部位を動かすために用いられる。