生命科学・医学系

2019年3月27日

研究成果のポイント

・加速器を用いて、がん治療効果の高いアルファ線を放出する治療薬の製造に成功。
・体外から放射線を当てることなく、注射薬で全身のがん病巣の外来治療が可能に。
・通常の治療が効かない転移性甲状腺がんに対する画期的な治療となることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の渡部直史助教、畑澤順教授(核医学)らの研究グループは、本学核物理研究センターの加速器※1ならびに同放射線科学基盤機構の設備を利用して、高エネルギー粒子であるアルファ線を放出する注射薬(アスタチン※2化ナトリウム([At-211]NaAt))の製造に成功しました。これまで、主にベータ線という放射線を用いて、がんに対する治療が行われてきましたが、十分な治療効果が得られないことがありました。

今回、開発したアスタチン製剤を分化型甲状腺がん※3のモデルマウスに投与したところ、著明な腫瘍退縮効果が確認されました(図1)。今後、多発転移のある進行甲状腺がんにおける画期的な治療法となることが期待されます。現在、大阪大学医学部附属病院での医師主導治験に向けて、準備が進められています。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of NuclearMedicine」に、2月22日に公開されました。

図1 アスタチン製剤の投与による腫瘍縮小効果(左)と腫瘍モデルマウスにおける腫瘍への高集積画像(右)

研究の背景

これまでの放射性医薬品を用いた治療においては、ベータ線という放射線を用いた核医学治療が主に行われてきました。しかし、ベータ線は比較的エネルギーが弱く、治療効果が十分でないことがありました(図2)。近年、より治療効果が高く、周囲の正常細胞への影響が少ないアルファ線を用いて、進行がんに対する治療が注目を集めており、これまで大阪大学はアルファ線核種であるアスタチンの製造で世界をリードしてきました。

図2 アルファ線とベータ線の違い

本研究の成果

研究グループでは、大阪大学核物理研究センターの大型加速器を用いて、荷電粒子をターゲットに照射することでアルファ線放出核種であるアスタチン(At-211)を製造し、同学放射線科学基盤機構の設備を利用して、分離精製を行いました。その後、安定剤等の処理を行い、甲状腺がんに集まりやすい状態にすることで、アルファ線を放出する注射薬(アスタチン化ナトリウム([At-211]NaAt))の製造に成功しました。本製剤を分化型甲状腺がんのモデルマウスに静脈内投与したところ、薬剤は腫瘍に特異的に集積し、明らかに腫瘍サイズが減少しました。

大阪大学の渡部助教を中心とする開発チームは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との治験相談を開始しており、今後の大阪大学医学部附属病院での医師主導治験に向けて準備が進められています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

アルファ線核医学治療は注射薬による全身治療であり(図3)、多発転移のある進行がんにも用いることができます。本研究成果として開発に成功したアスタチン化ナトリウム注射液は、難治性甲状腺がんにおける画期的な治療法となることが期待されます。

図3 放射線治療(外照射)と核医学治療の違い

特記事項

本研究成果は、2019年2月22日に米国科学誌「Journal of Nuclear Medicine」(オンライン)で掲載されました。

【タイトル】“Enhancement of astatine-211 uptake via the sodium iodide symporter by the addition of ascorbicacid in targeted alpha therapy of thyroid cancer.”
【著者名】Watabe T1*,Kaneda-Nakashima K2,Liu Y1,Shirakami Y1,Ooe K1,Toyoshima A3,Shimosegawa E4,Fukuda M5,Shinohara A6,Hatazawa J1.(*責任著者)
【所属】
1.大阪大学 大学院医学系研究科 核医学
2.大阪大学 大学院理学研究科附属 基礎理学プロジェクト研究センター 医理連携教育研究拠点
3.大阪大学 放射線科学基盤機構
4.大阪大学 大学院医学系研究科 医薬分子イメージング学寄附講座
5.大阪大学 核物理研究センター
6.大阪大学 理学部 化学科

本研究は、科学技術振興機構(JST)産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)の一環として行われ、大阪大学核物理研究センター、同放射線科学基盤機構の協力を得て行われました。

用語説明

※1 加速器(サイクロトロン)
プラスの電荷を持った粒子を電磁力で秒速4万kmまで加速させ、ターゲットに照射することで、新たな原子を製造する装置。

※2 アスタチン
原子番号85番の元素(元素記号:At)。ハロゲン元素の1つで、ヨウ素に似た性質を示す。安定同位体が存在せず、まだ詳しくわかっていない部分も多い。

※3 分化型甲状腺がん
甲状腺がんの中でも正常の甲状腺細胞と同様にヨウ素を取り込む性質を有するがん。乳頭がん、濾胞がんなどを指す。

研究者のコメント(渡部助教)

本薬剤の臨床応用が実現できれば、従来の治療が効かない進行がんであっても、良好な治療効果が期待できます。また外来通院で投与できるため、患者さんの負担が少ない治療になることが見込まれます。難治性甲状腺がんの患者さんにとって有効な治療選択肢となるように早期の医師主導治験の開始と臨床応用を目指します。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 核医学講座
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/tracer/index-jp.htm

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