
よく噛めない子どもは肥満になりやすい!
大阪市の小学校4年生1,403人を対象にした大規模調査で判明
研究成果のポイント
- 学童期の子どもにおいて、「食べ物を細かく噛む力」が肥満に関係していることを新たに解明。
- 児童の肥満を予防するためには、「食べ方」と「噛む力」の両面に着目したアプローチが必要。
概要
大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学講座の髙阪貴之助教、池邉一典教授、小児歯科学講座の大継將寿助教、仲野和彦教授らの研究グループは、 大阪市の小学校4年生1,403人を対象に調査を行い、学童期に咀嚼能力(食べ物を細かく噛む力)(図1)が低い場合、肥満になりやすいことを世界で初めて明らかにしました。
学童期の肥満は、成人期の肥満へと移行することが多く、健康上のリスクとなります。これまで、肥満には「早食い」や「口いっぱいに食べる」などの食べ方や咀嚼能力が影響すると考えられてきました。しかし、学童期の子どもにおいて、これらが肥満とどのように関連するかを詳細に検討した研究はほとんどありませんでした。
今回、研究グループは、大阪市教育委員会、大阪市学校歯科医会、株式会社ロッテと連携し、大阪市小学校4年生1,403人のデータを分析しました。その結果、学童期において、食べ方や噛む能力がいずれも肥満と関連していることを明らかにしました。本研究の成果は、学童期の肥満対策において、「どのように食べるか」と「どの程度しっかり噛めるか」の両面からのアプローチすることの重要性を示唆しています。
本研究成果は、国際科学誌「Journal of Dentistry」に、2025年3月14日に公開されました。
図1. 本研究で用いた咀嚼能力評価法(咀嚼チェックガム)
研究の背景
近年、硬い食べ物を噛めない、うまく飲みこめないなど、口の機能に問題を抱える子どもが多くいます。その中でも咀嚼能力は、必要な栄養をしっかり摂取し、成長や健康を維持する上で重要です。一方で、学童期の肥満は成人期の肥満に移行しやすく、その要因として食べ方や咀嚼能力が関係すると考えられています。しかし、学童期の子どもにおいて、食べ方や咀嚼能力が肥満とどのように関連しているのかは、十分に解明されていません。
研究の内容
研究グループは、大阪市教育委員会、大阪市学校歯科医会、株式会社ロッテと2023年4月に連携協定を締結(図2)し、大阪市の小学校4年生1,403人を対象に大規模調査を実施しました。食べ方については質問票を用いて調査し、咀嚼能力については咀嚼能力測定用のガム(キシリトール咀嚼チェックガム,株式会社ロッテ)を用いて評価しました。肥満の評価には、身長と体重から肥満度を算出しました。
全体の解析では、肥満に対するオッズ比は、「早食い」が1.54倍、「口いっぱいに入れて食べる」が1.73倍、「咀嚼能力が低い」が1.50倍であることが分かりました。男児のみで解析した場合、肥満に対するオッズ比は、「早食い」が1.84倍、「口いっぱいに入れて食べる」が1.59倍、「咀嚼能力が低い」が1.63倍と、いずれも肥満との関連が認められました。一方で、女児のみの解析では、これらの要因と肥満との関連は認められませんでした。
さらに、「早食い」と「咀嚼能力が低い」の両方に該当する場合、全体および性別ごとの解析のいずれにおいても、肥満との関連が認められました。特に男児では、この条件に該当すると肥満に対するオッズ比は3.00倍となり、本研究の中で最も高い値を示しました。
図2. 本研究における協力体制
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、学童期の肥満対策として、「どのように食べるか」と「どの程度しっかり噛めるか」の両方を重視した指導や対策の重要性を示しており、学校や家庭における食育の新たな指針となる可能性があります。全国の学校や歯科医師に学童期における咀嚼能力の大切さを伝えることで、子どもの健やかな成長や口の健康意識の向上につながることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、国際科学誌「Journal of Dentistry」に、2025年3月14日に公開されました。
タイトル:“Chewing habits and masticatory performance are associated with obesity in 9- to 10-year-old children: A cross-sectional study from the Osaka MELON Study”
著者名:Takayuki Kosaka, Risa Hiramatsu, Masatoshi Otsugu, Masayuki Yoshimatsu, Tatsuya Nishimoto, Norimasa Sakanoshita, Yuki Murotani, Kazuhiko Nakano, and, Kazunori Ikebe
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jdent.2025.105666
本研究の発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはありません。
参考URL
池邉一典教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0cb4cd7825160081.html
仲野和彦教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/4914a008eeba8fd0.html
髙阪貴之助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0c5d776e98c6af13.html
大継将寿助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/f87c97a2d1b5a55b.html
株式会社ロッテ「噛むこと研究室」
https://www.lotte.co.jp/kamukoto/
SDGsの目標
用語説明
- 肥満度
子どもの肥満の程度を評価するために用いる指標の一つ。標準体重(年齢・性別ごとの平均的な体重)と実際の体重を比較し、どの程度差があるかを示す。(実測体重-標準体重)÷標準体重×100で計算され、+20%以上を肥満と判定する。
- オッズ比
ある条件があるときに、特定の出来事がどの程度起こりやすいかを示す数値。