
低ホスファターゼ症(HPP)の歯科症状を新解明
重症度に応じた集学的歯科治療法の確立へ
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院歯学研究科成長発達歯学系部門小児歯科学講座の大川玲奈准教授、仲野和彦教授らの研究グループは、重症型低ホスファターゼ症(HPP)の歯科症状を世界で初めて明らかにしました。
HPPは、骨を作る酵素が生まれつき少ないため、骨が弱くなる病気です。
重症型HPPの患者は、歯が生えるまでの生存が困難であることから、その歯科症状については解明されていませんでした。
2015年にHPPの全身治療法が世界に先駆けて日本で承認され、重症型のHPP患者の生命予後が大幅に改善されました。これにより、特に重症型のHPP患者の歯科受診が可能になりました。しかし、HPPの歯科症状は、「乳歯が通常の生えかわり時期よりも早く抜けてしまうこと」以外に解明されていない部分が多く、根本的な歯科治療法も確立されていない現状にあります。
今回、研究グループは、日本におけるHPP患者の歯科症状に関する大規模な実態調査を行うことにより、HPP患者の歯科症状として新たに「歯の形成不全」、「歯並びと咬み合わせの異常」、「口腔習癖」や「摂食嚥下障害」が認められることを解明しました。これにより、矯正歯科治療を含め、重症度に応じたHPPの集学的歯科治療法の確立につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Scientific Reports」に、2月25日(火)(日本時間)に公開されました。
図1. 軽症型HPP患者さんの口腔内写真
図2. 重症型HPP患者さんの口腔内写真
研究の背景
これまで、HPPは乳歯が生えかわり時期よりも早くに抜けるとともに、全身の骨が弱い病気であることが知られていました。近年、この疾患の認知度が向上し、歯科受診からHPP診断につながるケースも増えてきました。HPP患者の矯正治療のニーズも高まってきていますが、矯正治療法は確立されていません。
2015年に全身の治療法が世界に先駆けて日本で承認され、重症型のHPP患者の生命予後が大幅に改善されました。それに伴い、HPP患者の歯科受診が可能になりましたが、HPP特有の歯科的問題点は明らかにされておらず、根本的な歯科的対応法も確立されていないという課題がありました。
研究の内容
研究グループは、HPP患者の歯並びと咬み合わせに焦点を当てた全国歯科実態調査を実施しました。歯科を有する総合病院609施設を対象として、30施設から103症例のHPP患者情報を収集しました。収集した情報を分析した結果、HPP患者は、「歯(エナメル質)の形成不全」、「歯並びと咬み合わせの異常」、「口腔習癖」、「摂食嚥下障害」を伴うことが解明されました。特に重症型のHPP患者では、それらの歯科的問題点も重度であることが明らかとなりました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果を生かし、小児歯科医と小児科医が連携することで、HPP患者一人ひとりの症状に応じた歯科治療法の確立につながることが期待されます。また、小児歯科医と矯正歯科医が協力して、HPP患者の歯並びと咬み合わせの問題を解決することの重要性が示されました。
特記事項
本研究成果は、2025年2月25日(火)(日本時間)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Japanese nationwide dental survey of hypophosphatasia reveals novel oral manifestations”
著者名:Rena Okawa, Tamami Kadota, Hiroshi Kurosaka, Hirofumi Nakayama, Marin Ochiai, Yuko Ogaya, Takuo Kubota, Takashi Yamashiro and Kazuhiko Nakano
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-025-91043-7
なお、本研究は、大阪大学未来基金クラウドファンディング基金「低ホスファターゼ症の子どもたちへの先進的な歯科治療法の開発を」の一環として行われました。
参考URL
大川玲奈准教授
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/a3a667475cede57e.html
大阪大学クラウドファンディング「低ホスファターゼ症の子どもたちへの先進的な歯科治療法の開発を」
https://readyfor.jp/projects/hpp
(2020年1月~4月実施。ご寄付:443名、17,010,000円)
SDGsの目標
用語説明
- 低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia: HPP)
アルカリホスファターゼという骨を作るのに必要な酵素が生まれつき少ないために、骨が弱くなる病気。歯の症状としては、乳歯が生えかわりよりも早くに抜けることが知られている。この歯の症状をきっかけにしてHPPの診断につながることもある。
- 歯の形成不全
歯が顎の骨の中で作られる過程で、歯が薄くなったり、もろくなったり、変色を認める状態。
- 口腔習癖
日常生活で無意識に行なっている口の癖で、指しゃぶりや口呼吸などがある。口腔の発達に影響し、歯並びや咬み合わせの異常につながることがある。
- 摂食嚥下障害
食べること、飲み込むことの障害で、食事や水分がうまく摂取できない状態。