よく噛めない男性はメタボになりやすかった!

よく噛めない男性はメタボになりやすかった!

4年間の追跡調査により世界で初めて判明

2021-12-21生命科学・医学系
歯学研究科教授池邉一典

研究成果のポイント

  • 無作為抽出した50-70歳代の都市部一般住民599人を4.4年間追跡したこと。
  • 「ものを細かく噛む能力」を客観的な方法で測定したこと。
  • その結果、他のリスク因子の影響を調整しても、男性においてのみ、「よく噛めない」ことがメタボのリスク因子となることを明らかにしたこと。

概要

新潟大学大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野の小野高裕教授、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野の池邉一典教授、国立循環器病研究センター健診部小久保喜弘特任部長らの研究グループは、無作為抽出した都市部一般住民を対象に、規格化された方法で測定した「咀嚼能率」(ものを細かく噛む能力)とメタボリックシンドローム(メタボ)罹患との関係を探る研究を行なってきました。このたび、50-70歳代の男女599人を平均4.4年間追跡した結果、男性においては咀嚼能率が低い場合メタボの新規罹患率が2.2倍高く、特に血圧高値、脂質異常、高血糖のリスクが高いことが明らかになりました。興味深いことに、こうした傾向は女性では見られませんでした。つまり、「よく噛めない」ことは生活習慣病リスクになりますが、そこには性差があることに注意が必要と言えます。

研究の概要(図1)

大阪府吹田市の地域住民から性年代階層別に無作為抽出された吹田研究の対象者のうち、2008年以降に健診受診された50~70歳代に歯科検診を実施しました。調査期間内に2回受診された937名のうち、初回検査時にメタボでなかった599人(男性254人、女性345人)を分析対象にしました。咀嚼能率の測定は、専用に開発されたグミゼリーを30回噛んで増えた表面積を算出する方法(図2)を用い、下位1/4を「低値群」、それ以外を「非低値群」としました。フォローアップ検査時の新規メタボならびにその構成要素(血圧高値、高血糖、脂質異常、肥満)の罹患について、年齢、喫煙、歯周病の影響を調整した解析を行って「非低値群」に対する「低値群」のリスクを男女別に算出しました。

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図1. 研究方法の概要

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図2. 咀嚼能率の測定方法

研究の成果

追跡期間は平均4.4年で、この間に88名が新たにメタボに罹患しました。男性の場合、「非低値群」に対する「低値群」のメタボ罹患率は2.24倍で統計学的にも有意でしたが、女性の場合は1.14倍で統計学的に有意ではありませんでした。メタボの構成要素の新たな罹患率についても同様に男性においてのみ有意なリスク比が得られ、その値は血圧高値で3.12倍、高中性脂肪血症で2.82倍、高血糖で2.65倍でした。

 すなわち、男性の場合、規格化された方法で測定した咀嚼能率低値群で、将来において血圧高値、高中性脂肪血症、高血糖ならびにメタボに罹患するリスクが、咀嚼能率非低値群と較べて2倍以上高いということが示され、2016年に発表した横断解析の結果を裏付けたと言うことができます。我々は、そのメカニズムとして、従来指摘されて来た咀嚼能率の低下による食物・栄養摂取への影響が介在していると考えています(図3)。性差については、女性の場合閉経期以降のホルモンの変化による影響が大きく、また食習慣の違いなどから、男性と比べて咀嚼能率低下の影響が出にくかったのではないかと考えています。

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図3. 咀嚼能率低下がメタボリックシンドローム罹患を促進するメカニズム

今後の展開

本研究で用いた咀嚼能力測定法は、簡便に実施することができるため、本研究の結果を踏まえてメタボ予防のヘルスプロモーションが可能になります。また今後、咀嚼能率の低下と食習慣との関係を明らかにしていくことによって、より具体的な指導や改善プログラムが提案できるものと期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年11月26日、Frontiers in Cardiovascular Medicine誌に掲載されました。

論文タイトル:Lower masticatory performance is a risk for the development of the metabolic syndrome: the Suita study
著者:伏田朱里1, 高阪貴之1, 中井陸運2, 來田百代1, 野首孝祠3, 小久保喜弘4, 渡邉 至5, 宮本恵宏6, 小野高裕1,7, 池邉一典 1

1大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野
2国立循環器病研究センター オープンイノベーションセンター 情報利用促進部
3大阪大学
国立循環器病研究センター 4健診部、5予防医療部、6オープンイノベーションセンター
7新潟大学大学院医歯学総合研究科 包括歯科補綴学分野
doi:10.3389/fcvm.2021.752667

本研究は、文部科学省科学研究費補助金 (20390489、23390441、26293411、17H04388) ならびに国立研究開発法人国立循環器病研究センター循環器病委託研究費(22-4-5、27-4-3)の支援を受けて行われました。

用語説明

メタボリックシンドローム(メタボ)

血圧高値、高血糖、脂質異常、肥満などの生活習慣病が重なった状態を呼び、日本人の死因の第2位を占める動脈硬化性疾患(脳卒中、心筋梗塞など)に繋がる病態と定義され、その予防を目的に40歳台以上を対象とした特定健診が実施されている。

吹田研究

我が国の循環器疾患予防対策を推進するため、国立循環器病研究センターと大阪府吹田市医師会により平成元年から開始された研究。