簡単!うがいでできる糖尿病改善!

簡単!うがいでできる糖尿病改善!

薬用マウスウォッシュを用いたうがいによる糖尿病の病態改善

2024-2-19生命科学・医学系
歯学研究科教授仲野和彦

研究成果のポイント

  • 2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行うことで、口腔内に存在する悪性度の高い歯周病菌が減少するとともに、血糖コントロール状態が改善することを発見
  • 糖尿病の合併症の1つである歯周病は歯周病菌によって引き起こされる疾患であり、クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいにより歯周病菌が減少することが知られていた。しかし、2型糖尿病患者がうがいを行うことによる口腔及び全身への影響は明らかにされていなかった
  • 2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいによる口腔ケアを行うことで、口腔内の環境改善だけでなく、歯周病によって惹起される血糖値上昇の改善にも繋がることが期待される

概要

大阪大学大学院歯学研究科口腔全身連関学共同研究講座の又吉紗綾特任講師(常勤)、伊藤直人招へい教員、仲野和彦教授らの研究グループは、2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行うことで、口腔内に存在する悪性度の高い歯周病菌種が減少するとともに、血糖コントロール状態が改善することを明らかにしました。

糖尿病の主要な合併症の1つに歯周病があり、相互に悪影響を及ぼすことが知られています。歯周病は歯周病菌によって引き起こされる疾患であり、これまでにクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいを行うことで歯周病菌を減少させることが報告されています。一方で、2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行うことによって、歯周病及び糖尿病の病状にどのような影響を及ぼすかは明らかにされていませんでした。

今回、研究グループは、2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行うことで、歯周病菌の中でも悪性度の高い菌種が減少するとともに、血糖コントロールの状態も改善することを明らかにしました。これにより、2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいを行うことで、歯周病の改善だけでなく、「歯周病によって引き起こされる血糖値上昇の改善」にもつながることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に2月2日(金)(日本時間)に公開されました。

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図1. うがいによる糖尿病の改善メカニズム

研究の背景

歯周病は歯茎に炎症が生じる疾患ですが、近年、歯周病に罹患することで糖尿病にも悪影響が生じることが明らかになりました。歯周病は歯周病菌によって引き起こされることから、歯科医院での歯周病の治療や、歯磨きやうがいなど家庭での口腔ケアによって歯周病菌を減少させることで歯周病を抑制できることが知られています。

これまでに、歯科医院での治療によって、歯周病の改善だけでなく糖尿病患者の血糖コントロール状態も改善することは報告されていました。一方で、2型糖尿病患者がクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいを行うことによって、口腔及び全身の状態にどのような影響を及ぼすかについては明らかにされていませんでした。

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図2. クロルヘキシジン配合マウスウォッシュうがいによる悪玉歯周病菌種の減少および糖尿病マーカー(HbA1c)改善の1例

研究の内容

又吉特任講師らの研究グループでは、大阪府内の糖尿病クリニックを受診中の2型糖尿病患者173人(参加者が半分ずつになるよう「69歳以上」と「68歳以下」に区分して比較)に対して、半年間は水道水でうがいを、その後半年間はクロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行ってもらい、歯周病菌種数の変化と血糖値の変化を評価しました。その結果、クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いてうがいを行うことで、口腔内に存在する悪性度の高い歯周病菌種が減少するとともに、「68歳以下」の比較的若い2型糖尿病患者において血糖コントロール状態が改善することが明らかになりました。

※「研究の内容」について、発表後社会のみなさまからの反響がありましたので、より分かりやすく、誤解のないようにするため詳細を追記しました。(2024.4.3追記)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいは、家庭で行うことのできる口腔ケアの中でも簡便であることから、日々の習慣に取り入れやすいものです。本研究成果を啓発することにより、2型糖尿病患者が歯科医院でのプロフェッショナルケアに加えて、クロルヘキシジン配合マウスウォッシュを用いたうがいを積極的に日常の口腔ケアへ取り入れていただくことで、歯周病の改善だけでなく、歯周病によって惹起される血糖値上昇の改善にも繋がることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年2月2日(金)(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Effects of mouthwash on periodontal pathogens and glycemic control in patients with type 2 diabetes mellitus”
著者名:Saaya Matayoshi, Fumikazu Tojo, Yuto Suehiro, Makoto Okuda, Misato Takagi, Marin Ochiai, Maika Kadono, Yusuke Mikasa, Rena Okawa, Ryota Nomura, Yoshito Itoh, Naoto Itoh and Kazuhiko Nakano
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-53213-x

なお、本研究は、ウエルテック株式会社からの資金提供により行われました。

参考URL

用語説明

2型糖尿病

膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンの分泌低下やインスリンへの抵抗性増加により血糖が増加する疾病。2型糖尿病に罹患する要因として、遺伝の他に過食、運動不足、肥満といった環境要因が挙げられる。

HbA1c

糖化ヘモグロビンの1つであり、糖尿病患者において血糖コントロール状態の評価を行う上での指標となる血液検査値である。