体成分分析を活用した サルコペニア肥満予備群の簡便スクリーニング法を開発
研究成果のポイント
- サルコペニア肥満(sarcopenic obesity: SO)予備群の体成分分析の活用によるスクリーニング法を発見
- これまで早期のSOに焦点を当てた研究はなく、その病態は十分に評価されてこなかった
- SO予備群は健康群と比較して、握力、中性脂肪、LDLコレステロール、インスリン抵抗性指標 (HOMA-R)などに有意な差が見られた
- SO予備群への早期介入、将来のSOへの進展予防に期待
概要
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの石橋千咲助教、中西香織准教授らの研究グループはサルコペニア肥満(SO)予備群のスクリーニング法を新たに見出しました。SOは様々な健康障害との関連が知られ、その早期発見・介入が重要ですが、これまで早期のサルコペニア肥満に焦点を当てた研究はなく、その病態は十分に評価されてきませんでした。
今回の研究で、女性健診受検者において、体成分分析に基づき骨格筋量指数 (skeletal muscle mass index: SMI) < 5.7kg/m2かつ体脂肪率 (percent body fat: PBF) ≥ 30%を満たす群をSO予備群、SMI ≥ 5.7 kg/m2かつPBF<30%を満たす群を健康(H)群と定義したところ、SO群でH群より中性脂肪やLDLコレステロールなどの代謝指標が高値であることが明らかとなりました。すなわち体成分分析で定義されたSO 予備群において代謝疾患になりやすい可能性が示唆され、SO予防の観点から体成分に注目することの重要性が示されました。
またSO予備群では、SOで高値になるとされる血清ミオスタチン濃度が逆に低値であることが見出され、ミオスタチンが病期によって異なる働きをする可能性が示唆されました。
本研究成果は、米国科学誌Scientific Reportsに、11月19日(火)に公開されました。
図1. サルコペニア肥満は見かけ上の肥満も痩せも呈しにくく見逃されやすい
研究の背景
肥満は一般にBody mass index (BMI)によって定義されますが、BMIによる肥満評価では骨格筋量減少と体脂肪増加を同時に有する状態であるサルコペニア肥満(SO)予備群を見逃されやすいことが問題となります(図1)。SOはメタボリックシンドロームや心血管リスクとの関連が知られているため、SOを早期に、つまりSO予備群の段階でスクリーニングし適切な介入を行うことが重要です。しかしながら、通常の健診では体成分の評価が行わないことなどから、SOのリスクが見落とされる現状があります。
研究の内容
大阪大学で定期職員健診を受検した30-59歳の女性職員432名(受検年度2022年)を対象に体成分分析 (InBody 270)を施行、骨格筋量指数 (SMI) < 5.7kg/m2かつ体脂肪率 (PBF) ≥ 30%を満たす群をサルコペニア肥満(SO)予備群、SMI ≥ 5.7 kg/m2かつPBF<30%を満たす群を健康(H)群と定義し、各臨床指標をH群とSO予備群で比較検討しました。また、健診での測定項目に加え、血清インスリン及びミオスタチン濃度を測定、比較検討しました。
その結果、BMIや腹囲については両群で差がなかった一方、握力についてはSO予備群で有意に低値、中性脂肪、LDLコレステロール、インスリン抵抗性指標 (HOMA-R)についてはSO予備群で有意に高値でした(図2)。
また、血清ミオスタチン濃度はSO予備群においてH群と比較し低値でした(図3)。一般に血清ミオスタチンはサルコペニアや肥満の状態では高値となることが知られていますが、本研究では逆の結果でした。このことより、ミオスタチンが病態の進行度によって異なる働きをする可能性が示唆されました。
図2. サルコペニア肥満(SO)予備群と健康(H)群の臨床指標の比較
図3. サルコペニア肥満(SO)予備群と健康(H)群の血清ミオスタチン濃度の比較
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究で、体成分分析に基づくサルコペニア肥満(SO)予備群がすでに様々な代謝指標で好ましくない方向に有意差を認めていること、特に握力低値がSO予備群を特徴づける重要な因子であることが明らかとなりました。今回のSO予備群の方々は、見た目の肥満を呈していません。多くの人が美容の観点から痩せ願望を持つ傾向がありますが、SOのリスクを見落とすことなく疾患を予防するためには、見た目ではなく体の組成に目を向けることが重要と考えます。そのために今後、健康診断などの場面で体成分分析や握力測定の導入が進むことを期待します。また、早期サルコペニア肥満の病態解明のため、ミオスタチンを含めた関連因子について今後の更なる検討が望まれます。
特記事項
本研究成果は、2024年11月19日(火)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Myostatin as a plausible biomarker for early stage of sarcopenic obesity”
著者名:Chisaki Ishibashi, Kaori Nakanishi, Makoto Nishida, Haruki Shinomiya, Maki Shinzawa, Daisuke Kanayama, Ryohei Yamamoto, Takashi Kudo, Izumi Nagatomo and Keiko Yamauchi-Takihara
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- サルコペニア肥満(sarcopenic obesity: SO)
骨格筋量減少と体脂肪増加を併せ持ち、さらに筋力低下や身体機能低下を合併する病態。本研究では筋力低下や身体機能低下を基準に含まず、サルコペニア肥満に至る前段階の集団と考えられることから、本文中に示す骨格筋量減少と体脂肪増加の基準を満たす群をサルコペニア肥満予備群と定義した。
- 体成分分析
体を構成する成分である水分量、骨格筋量、脂肪量などを推定する検査。一般に体に微弱な電流を流した際の流れやすさを計測することで体成分を推定する原理の測定機器が用いられ、本研究においても同原理の機器を使用。
- ミオスタチン
細胞間のシグナル伝達を担うサイトカインの一つ。骨格筋増殖抑制作用と脂肪蓄積作用を併せ持ち、サルコペニア肥満との関連が示唆されている。