消化管の複雑な形態が作られる仕組みを解明

消化管の複雑な形態が作られる仕組みを解明

単純な形態変化を組み合わせる生物の戦略

2024-10-25生命科学・医学系
理学研究科教授松野健治

研究成果のポイント

  • 複雑な消化管の形が単純な形態変化の組み合わせで作られることを発見
  • これまでは個別の形態変化しか調べられてこなかった
  • 再生臓器の形態制御への応用に期待

概要

兵庫県立大学大学院理学研究科の稲木美紀子教授、大阪大学大学院理学研究科の松野健治教授らの研究グループは、消化管の複雑な形態が作られる仕組みを解明しました。消化管の左右非対称なねじれと前後方向への伸長が、それぞれ別の遺伝子によって制御され、それらが同時に起こることによって複雑な形状を作り出していることがわかりました。本研究成果は、国際科学誌PLOS Genetics誌に掲載されました。

研究の内容

消化管の形態は高い再現性でつくられ、遺伝的に厳密に制御されています。消化管は左右非対称な形態に加えて、長い管状の構造をとっており、このような複雑な形態が生物の発生過程でどのような細胞の動きによって作られるかは、あまりわかっていませんでした。稲木教授らの研究グループは、発生過程を生きたまま観察できるショウジョウバエの卵を用いて消化管が伸びて左右非対称な形になる際の細胞の動きを観察しました。細胞スライドと呼ばれる細胞が一方向に移動する運動と細胞インターカレーションと呼ばれる細胞同士の割り込みが、それぞれ、消化管の左右非対称なねじれと前後方向への伸びを導くことがわかりました(図1)。遺伝子突然変異体を用いた結果、これらの細胞の動きが別々の遺伝子によって制御されることがわかりました。このように、生物は比較的単純な形態変化を、異なる遺伝子を用いて同時に起こすことによって複雑な臓器の形状を作り出していると考えられます。これは、目的地に到達するために難しい手法をもちいて直接向かうのではなく、単純な移動の組み合わせを用いる、生物のもつ合理的な機構だと考えられます(図2)。本研究成果は、臓器を再生する際の形態制御への応用が期待されます。

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図1. 消化管の形は形態変化の組み合わせによって作られる

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図2. 目的地に到達するために単純な移動を組み合わせる生物の戦略
目的地に達するために新たな手段を導入する(左)のではなく、既存の手段の組み合わせを用いる(右)。

特記事項

本研究成果は、2024年10月7日に国際科学誌「PLOS Genetics」に掲載されました。

題名:Distinct cellular and junctional dynamics independently regulate the rotation and elongation of the internal organ
著者名:Mikiko Inaki, Takamasa Higashi,Satoru Okuda, Kenji Matsuno

なお、本研究は、科研費(21K06188、24H01285)、資生堂サイエンスグラント、成茂動物科学振興基金、内藤記念科学振興財団の助成を受けたものであり、金沢大学ナノ生命科学研究所の奥田覚准教授の協力を得て行われました。

用語説明

細胞スライド

細胞が少しずつ一方向に相対的位置を変える移動で、一方向に進むことによって左右非対称な変形を生み出している。

細胞インターカレーション

細胞が細胞同士の間に割り込む現象で、中心方向に割り込むことで、垂直な方  向に細胞のシートを伸ばすことができる。体の前後の伸長にも働いている。

遺伝子突然変異体

ある遺伝子に傷がつき、その遺伝子の働きがない、もしくは異常となった個体。