細胞核の「丈夫な構造物」という新機能の発見

細胞核の「丈夫な構造物」という新機能の発見

内臓を左右非対称な“形”にする細胞で一番「堅い」特性

2021-4-29生命科学・医学系
理学研究科教授松野健治

研究成果のポイント

  • 細胞が整列することが内臓の左右非対称な形づくりに必要なことを発見
  • これまで生きた組織の細胞で核の動きを測定できなかった
  • 再生器官の形の制御への応用に期待

大阪大学大学院理学研究科大学院生の申 東善さん(博士後期課程)、稲木美紀子講師、松野健治教授らの研究グループは、細胞の核が整列して並ぶことが、内臓が左右非対称な形になるために必要なことを世界で初めて明らかにしました。

細胞の中に存在する細胞内小器官のうちで最大なのが核です。核には、遺伝子であるDNA(デオキシリボ核酸)が存在するため、これまで、遺伝子の貯蔵が核の役割であると考えられてきました。

今回、本研究グループは、ショウジョウバエの消化管を覆う筋肉細胞の核が、前後方向に整列し、密集して並ぶことが、消化管の形が正常に左右非対称になるために必要なことを明らかにしました(図1)。ヒトの内臓器官と同様に、ショウジョウバエ消化管も、左右非対称な形をしています。筋肉細胞の核が整列しなくなる突然変異では、内臓の左右非対称性がランダムになってしまいます。核は、細胞の中で最も硬い構造であることから、核が整列することで支柱のような役割を果たしていると考えられます。例えて言えば、整列した核はテントのポールのように消化管の構造をささえながら、左右非対称な構造の変化を助けていることになります。

これらの研究によって、核の機能は遺伝子の貯蔵だけではなく、物理的な強度を利用して内臓の形態変化を制御していることを解明しました。この結果は、再生器官の形態を制御する技術として応用できることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Development」に、4月29日(木)20時(日本時間)に公開されました。

20210429_1_fig1.png

図1. 核は物理的な強度が高いため、整列すると支柱の様にはたらく。この支柱は、消化管の構造を支え、左右非対称な形の変化を助ける。

研究の背景

これまで、細胞の核の役割は、遺伝子であるDNAを貯蔵することであると思われてきました。一方、核の物理的強度は細胞内小器官の中で一番高いことから、「建築資材」として機能する可能性も予測されていました。

研究の成果

本研究グループでは、生きたショウジョウバエの胚で核の移動を計測する映像解析方法を開発することにより、消化管の筋肉細胞の核が、密集し、前後方向に整列することを明らかにしました。さらに、消化管の左右非対称性がランダム化する突然変異を用いた研究によって、核の整列が、消化管を左右非対称にするために必要であることを示しました。これらの研究によって、核の機能は遺伝子の貯蔵だけではなく、物理的な強度を利用して内臓の形態変化を制御していることを解明しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、再生器官の形態を制御する技術として応用できることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年4月29日(木)20時(日本時間)に英国科学誌「Development」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Collective nuclear behavior shapes bilateral nuclear symmetry for subsequent left-right asymmetric morphogenesis in Drosophila”
著者名: Dongsun Shin, Mitsutoshi Nakamura, Yoshitaka Morishita, Mototsugu Eiraku, Tomoko Yamakawa, Takeshi Sasamura, Masakazu Akiyama, Mikiko Inaki, and Kenji Matsuno

なお、本研究は科研費(18H02450)の助成を受けたものであり、明治大学先端数理科学インスティテュート秋山正和准教授の協力を得て行われました。

参考URL

松野健治教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/3c57903c1cd5ad19.html

SDGs目標

sdgs_3_9.png


用語説明

真核生物の細胞を構成する細胞小器官のひとつ。細胞の遺伝情報の保存と伝達を行う。

細胞内小器官

細胞の内部で特に分化した形態や機能を持つ構造の総称である。細胞小器官が高度に発達していることが、真核細胞を原核細胞から区別している特徴の一つである。

DNA(デオキシリボ核酸)

DNA(デオキシリボ核酸)は、核酸の一種。地球上の多くの生物において遺伝情報の継承と発現を担う高分子生体物質である。

突然変異

生物がもつ遺伝物質の質的・量的変化。