建築物外壁内欠陥の検出に成功!
ドローン搭載ミリ波レーダの小型軽量化と1ミリ秒での測定技術を開発
研究成果のポイント
- ドローン搭載用ミリ波帯超広帯域レーダの小型軽量化と高速化技術の開発に成功
- これまでの技術では不可能だった建築物外壁内の欠陥を非接触で検出することに成功
- 様々な建築物やインフラ構造物への応用に期待
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の永妻忠夫教授、易利(イー・リー)助教、大学院生の小藪庸介さん(博士前期課程)、王 雅珩さん(研究当時:博士前期課程)らとJFE商事エレクトロニクス株式会社の共同研究グループは、東京電力ホールディングス株式会社、清水建設株式会社の協力のもと、ドローン搭載用ミリ波帯超広帯域レーダの小型軽量化と高速化に成功しました。このレーダを用いて、建造物外壁の内部欠陥(タイルとモルタル層の間の空隙やコンクリート躯体とモルタル層の間の空隙等)を、非接触で直接可視化することが可能になりました。
研究グループは、ドローン搭載のための超広帯域ミリ波レーダ技術の開発を推進してきました。2021年に第1号機(プロトタイプ)を発表(https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210528_1 2021年5月28日)後、実用化に向けて技術改良を行ってきました。今回、2021年に発表した第1号機に対して大きく進化した点は、以下の2点です。
1点目は、ドローンに搭載するミリ波レーダ部の重量です。これまでの1300gから435gに軽量化し、これによって、重量6.3kgの大型ドローンから重量1.4kgの小型ドローンへの搭載が可能になりました。一般に大型ドローンはより大きな揚力を必要とするため、外壁に近接させた場合、ドローン自身が発生する風によって安定な飛行が困難になります。今回、小型ドローンの使用によって、ミリ波レーダのアンテナを壁に対して10cm~30cm程度まで近接できるようになり、内部欠陥の検出を高感度に行うことが可能になりました。
2点目は、測定時間です。第1号機では測定箇所1点あたり数秒かかっていましたが、今回、数千分の一の約1ミリ秒で欠陥情報を得ることができるようになりました。一般にドローンは、空中で静止中でも微小に揺らいでいます。1ミリ秒の測定時間は、この揺らぎよりも十分短いため、より精密な測定が可能になりました。
今後、ミリ波レーダを搭載したドローンやロボットを建造物に対して2次元平面で広域走査するための技術開発を進め、様々な構造物やインフラ設備の診断への実利用を進めます。
本研究成果は、2023年12月5日(火)から12月8日(金)まで台湾で開催される国際会議「アジア・パシフィックマイクロ波会議(Asia-Pacific Microwave Conference: APMC2023) 」において発表されました。
図1. (a)小型ドローンに搭載したミリ波レーダの外観。(b)外壁試験体に近接させて測定している様子。
研究の背景
ドローンに高精細カメラや赤外線カメラを搭載し、構造物の点検や診断を行う例が増えています。可視光や赤外線(レーザ光も含む)は、構造物の表面を観察することには適していますが、物体の内部を調べるためには、物質に対する透過能力を有するマイクロ波、ミリ波といった電波を用いることが必要です。
一方、タイル等で覆われた外壁内部の欠陥(タイルとモルタル層の間の空隙やコンクリート躯体とモルタル層の間の空隙等)があると、タイル含む外壁の剥落、落下の危険性が高まります。そのため、これまで外壁調査の主な手法として、打診調査、赤外線調査、ドローンに搭載したカメラによる空撮画像が用いられてきました。しかしながら、いずれも欠陥を直接検出する手法ではないため、測定精度に課題がありました。
研究の内容
本研究プロジェクトでは、光通信技術を活用したレーダシステムの開発を行ってきました(図2)。システムでは、まず光通信波長(1.55μm)帯において、2つの異なる波長の光信号を発生させます。これを光ファイバーで伝送し、光信号を電気信号に変換する光電変換器に与えることにより、2つの光信号の波長差に対応した周波数の電波を発生させることができます。光波長を精密にコントロールすることにより、およそ4GHzから40GHzの範囲で任意の帯域の電波を作ることが可能です。この電波の周波数を変えながら対象物に照射し、そこから反射して戻ってきた電波と元の電波との振幅位相関係を計算することにより、外壁内部の欠陥の位置を知ることができます。今回、4GHzから40GHzの周波数範囲を高速に変化させる技術を開発し、わずか1ミリ秒でレーダを照射したポイントの欠陥の情報を得ることに成功しました。
本システムにおいてドローンに搭載する部分は、図2に示すように光電変換器、レーダ回路、ならびにアンテナ(送受信で共有)のみで、ドローンのペイロード(搭載機器)を大幅に軽量化しています。光信号の発生や信号処理を行うための制御機器は地上に置かれ、ドローンとは、軽量の光ファイバケーブルと低周波電気信号ケーブルで繋がれています。第1号機では、プロぺラを除くサイズが810mm x 670mm x 430mm(長さ×幅×高さ)で重量6.3kg、ペイロード2.7kgの大型ドローンを用いていましたが、今回開発したシステムでは、290mm x 290mm x 196mm(同)で重量1.45kg、ペイロード500gの小型ドローンを用いています。
開発したシステムの有用性を実証するため、図3に示すように、建造物外壁の内部欠陥を模擬した試験体で実験を行いました。図3(a)は、タイルとモルタル層の間に1mm幅の空隙を部分的に設けた試験体の断面構造です。ドローン上のアンテナを、図1(b)で示したように試験体表面から約15cmの距離に保ち、アンテナを水平方向に走査すると、図3(b)に示すような断面画像が得られ、空隙の可視化に成功したことが分かります。その他、0.5mm幅の空隙や、モルタルとコンクリート躯体とモルタル層の間の空隙についても検出が可能であることが分かりました。
図2. 開発したドローン搭載型ミリ波レーダシステム。(a)外観。(b)システム構成のブロック図。地上に設置した制御システムにおいて、光通信技術を活用して光信号を光ファイバケーブルでドローンまで伝送し、ドローン上でミリ波信号に変換する。ミリ波信号はレーダ回路に供給され、レーダ回路で検出された信号は、電気ケーブルで地上の信号処理システムに送られる。
図3. 測定結果の例。(a)試験体の断面図。タイルとモルタルとの間に1mmの空隙を作り、タイルの剥離の原因となる欠陥を模擬している。 (b)ドローン搭載レーダにより欠陥を可視化した例。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
長寿命化の使命を負う建設・インフラ分野においては、点検、修理のための資金や人手不足が課題となっています。高性能レーダ技術とドローンとの融合により、点検作業の経済性、効率性、安全性が高められるだけでなく、肉眼では見えなかったリスクの可視化が可能になります。
特記事項
・実証実験場所:株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)大型電波暗室。
・試験体の提供:東京電力ホールディングス株式会社、清水建設株式会社。
・ドローンの操縦:Social Drone。
・本研究成果は、2023年12月5日(火)から12月8日(金)まで台湾で開催される国際会議「アジア・パシフィックマイクロ波会議(Asia-Pacific Microwave Conference: APMC2023) 」において発表されました。
参考URL
永妻忠夫教授 researchmap
https://researchmap.jp/tn-1958
SDGsの目標
用語説明
- ミリ波レーダ
ミリ波とは波長がmm単位となる30GHz〜300GHz帯の電波のことを指す。Gは109の単位。ミリ波を対象物に照射してセンシングを行う機器がミリ波レーダであり、対象物の距離や角度といった位置情報、対象物との相対速度を計測することができる。国内では、24GHz(帯域0.2GHz、理論分解能75cm)、60GHz(同7GHz、2.14cm)、77GHz(同1GHz、15cm)、79GHz(同4GHz、3.75cm)が車載レーダ用に使われている。