工学系

2019年12月2日

研究成果のポイント

・テラヘルツ波※1を検出可能な小型電子デバイスである共鳴トンネルダイオード※2のテラヘルツ波検出感度を同期検波によって、1万倍向上
・テラヘルツ波は、超高速無線通信、高分解能センシングなどの応用が期待されているが、その発生、検出技術が未熟であるという課題があった
・共鳴トンネルダイオードを用いた世界最高速のテラヘルツ無線通信実験に成功
・次世代無線通信、分光分析、非破壊検査、セキュリティカメラ、高分解能レーダなどへの応用が期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の冨士田誠之准教授、永妻忠夫教授、西田陽亮(当時:博士前期課程学生)、西上直毅(博士前期課程学生)、Sebastian Diebold博士(当時:特任助教)らは、ローム株式会社と共同でテラヘルツ波の検出が可能な小型電子デバイスである共鳴トンネルダイオードのテラヘルツ波の検出感度を1万倍という大幅な向上を実現しました(図12)

電波と光の中間領域の周波数を有する電磁波であるテラヘルツ波は、超高速無線通信、高分解能センシングなどの応用が期待されています。しかしながら、その発生、検出技術が未熟であるという課題があり、各種応用を切り拓くためには検出感度の大幅な向上が必要です。

本研究グループは、テラヘルツ帯で動作可能な電子デバイスである共鳴トンネルダイオードに着目しました。共鳴トンネルダイオードを発振器として動作させ、検出対象のテラヘルツ波と同期させることでテラヘルツ波の検出感度を1万倍向上させることに成功し、併せて、30ギガビット毎秒の世界最高速無線通信を実現しました。

これにより、テラヘルツ波を利活用した超高速無線通信や分光分析、非破壊検査、計測、セキュリティ応用、高分解能レーダなどの実用化に向けた動きが加速することが期待されます。

本研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に2019年12月2日(月)午後7時(日本時間)にオンライン出版されました。

研究の背景

近年、携帯電話など、電磁波を用いた情報通信応用が進んでいます。電磁波を特徴づける値として、周波数と波長があります。一般に周波数が高いほど大容量の情報を伝送することが可能なため、次世代の携帯電話の規格である5Gでは、28ギガヘルツ帯や39ギガヘルツ帯の電磁波(ミリ波)の利用が検討されています。一方、5Gを超えた超高速無線通信の実現を目指したより高い周波数の電磁波、テラヘルツ波に関する研究が進展しています。テラヘルツ波を利用した応用システムの実用化に向けて、小型集積化が可能な電子デバイスによるテラヘルツ波発生器および検出器の開発が期待されていますが、テラヘルツ帯は電子デバイスの高周波極限に相当するため、高出力デバイスの開発は困難です。大阪大学とロームの研究グループでは、2011年に世界で初めて共鳴トンネルダイオードと呼ばれる小型の電子デバイスでのテラヘルツ無線通信に成功し、世界に先駆けた研究開発を行ってきました。共鳴トンネルダイオードは基本波でのテラヘルツ発振が可能であり、トランジスタと比較して回路構成が簡単にできるため、低消費電力動作が可能という特徴があります。しかしながら、共鳴トンネルダイオード送信器から出力されるテラヘルツ波の出力が不十分であったため、その通信速度は9ギガビット毎秒に制限されていました。

研究の内容

冨士田准教授らの研究グループでは、検出器としての共鳴トンネルダイオードに着目しました。通常、動作電圧を負性抵抗領域に設定した場合、共鳴トンネルダイオードは発振しますが、検出器としての動作は不安定になります。一方、外部から到達し、共鳴トンネルダイオードにて検出されるテラヘルツ波と前述の発振周波数が十分に近い場合、共鳴トンネルダイオードの発振状態は外部からのテラヘルツ波と同期し、その発振出力が検出動作に援用されることを見いだしました(図1)。このようにして、共鳴トンネルダイオード単体での同期検波をテラヘルツ帯で実現し、本方式と従来の直接検波方式を比較したところ、1万倍の感度の向上が得られました(図2)。また、350ギガヘルツ動作の共鳴トンネルダイオード送信器からの出力をオンオフ変調方式にて無線伝送したところ、本研究の同期検波方式を利用した共鳴トンネルダイオード受信器にて復調することで高い信号強度が得られ、30ギガビット毎秒の通信に成功しました(図3)。この通信速度は、電子デバイス送受信器を用いた誤り訂正なしのエラーフリー無線通信として、過去最高の値であり、非圧縮スーパーハイビジョン映像(8K Dual Green 方式)の伝送も可能です。

今後の展開

本研究をさらに発展させることにより、将来的には、100ギガビット毎秒を超える超高速通信も可能です。動作周波数を2テラヘルツ程度まで向上させることも期待でき、通信応用だけではなく、紙や衣服といった誘電体を透過し、特定の物質で吸収および反射されるテラヘルツ波の特性を生かした分光分析や非破壊検査、ガスや水分量の計測、セキュリティ応用および、ミリ波よりも短い波長を有するというテラヘルツ波の特長を生かした高分解能なレーダ応用なども期待できます。

特記事項

本研究成果は、2019年12月2日(月)午後7時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Terahertz coherent receiver using a single resonant tunnelling diode”
著者名:Yousuke Nishida, Naoki Nishigami, Sebastian Diebold, Jae-Young Kim, Masayuki Fujita, and Tadao Nagatsuma

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」研究領域における研究課題「共鳴トンネルダイオードとフォトニック結晶の融合によるテラヘルツ集積基盤技術の創成」(研究代表者:冨士田 誠之)の一環として行われました。

用語説明

※1 テラヘルツ波
およそ100ギガヘルツ(0.1テラヘルツ)から10,000ギガヘルツ(10テラヘルツ)の電波と光の中間領域の周波数を有する電磁波。電波の透過性と光の直進性をあわせもつ。発生、検出技術が未熟なため、未開拓電磁波領域と呼ばれている。

※2 共鳴トンネルダイオード
異なる半導体材料からなるヘテロ接合により形成された2つの極薄のエネルギー障壁層と、その間の量子井戸層から構成される電子デバイス。量子井戸の両側の障壁層が十分に薄い構造では、井戸中の電子はトンネル効果により障壁層の外側に抜けることができる。一方の障壁から電子が入射した場合、量子井戸に形成されている量子準位に対応してもう一方の障壁を透過していく確率が入射電子のエネルギーにより共鳴的に増大する。この効果が共鳴トンネル効果であり、これをダイオードとして利用したデバイスで高速動作が可能。利得として働く負性微分抵抗特性を有し、共振回路と組み合わせることで発振動作する。

参考図

図1 共鳴トンネルダイオードを用いた同期検波方式の説明図。
負性微分抵抗領域に動作電圧を設定することで共鳴トンネルダイオードが発振する。直接検波(従来方式)と比較して、発振出力が検出動作に寄与することで検波出力が増大する。その際、外部から到達し、検出されるテラヘルツ波の周波数と発振周波数が一致する必要があるが、注入同期現象によって、共鳴トンネルダイオードの発振状態が外部からのテラヘルツ波と同期して周波数が一致し、その発振出力が検出動作に援用されることになる。注入同期現象とは、発振器が外部からの注入信号を受けると、元々の発振周波数ではなく、その注入信号と振動のタイミングである位相がそろい、同じ周波数で発振を起こす現象のことである。同期現象一般は、17世紀にオランダの科学者Christiaan Huygensが壁に掛けた2つの振り子時計が近くに設置されるとその振動が壁を伝わり、2つの振り子の揺れがそろうことを通じて発見された。注入同期の場合、1つの振り子が発振器(ここでは共鳴トンネルダイオード)、もう1つの振り子が外部からの周期的な信号(ここでは受信されるテラヘルツ波)に相当する。

図2 同期検波(本研究)と直接検波(従来方式)のテラヘルツ波検波特性の比較。
ここでは同一の共鳴トンネルダイオードに対して、動作電圧を変化させることで、同期検波もしくは、直接検波の条件で動作させた。1万倍の検波感度向上が得られた。

図3 無線通信実験の結果。
30ギガビット毎秒までビット誤り率が10-11以下(映像が乱れずに実用的にエラーフリーな伝送可能)の通信を実現した。理論上誤り訂正可能な通信速度としては、56ギガビット毎秒まで得られた。挿入図は作製した共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode: RTD)デバイスの写真。

参考URL

大阪大学 大学院基礎工学研究科 永妻研究室(情報フォトニクスグループ)
http://ipg-osaka.com/index.html

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