AI機能を搭載したがん放射線治療計画支援装置を開発

AI機能を搭載したがん放射線治療計画支援装置を開発

がんの放射線治療開始までをスムーズに

2023-8-25生命科学・医学系
医学系研究科特任助教(常勤)秋野祐一

概要

大阪大学大学院医学系研究科の秋野祐一特任助教(常勤)、沼崎穂高准教授、小川和彦教授、西尾禎治教授らの研究グループは、(株)ひょうご粒子線メディカルサポート(以下、HIBMS)との産学共同研究において、がんの放射線治療のために、AI機能を搭載した放射線治療計画支援装置(プログラム)Ai-Segを開発しました。AI活用により、CT、MRなどの医療画像上の臓器等の領域の正確な自動抽出を可能とします。

開発されたAi-Segの最大の特徴は、大阪大学医学部附属病院放射線治療科及び兵庫県立粒子線医療センターで実際に治療した計画画像及び放射線治療専門家によって抽出された約1500症例の様々な臓器等の領域データをAIの深層学習機能の教師データとして活用している点です。その特徴を生かし、放射線治療に特化した臓器等の領域データを短時間で正確な抽出情報を提供することができます。

医療画像データから臓器等の領域情報を抽出する技術は、放射線治療に関する医療従事者の経験年数などに依存しますが、本Ai-Segを活用することで、その依存性が低減され、全ての患者へ同等の高品質医療の提供が期待できます。また、放射線治療の計画を行う上で、医療従事者が最も時間を割くのは領域抽出作業で、患者当たりの平均で数時間にも及びます。本Ai-Segはわずか1、2分という短時間でこれらの作業を実施することができるため、医療従事者への負担減、更には医療提供可能な患者数の増加にも貢献することが期待できます。

本Ai-Segは、国内の医療機器薬事承認を2023年6月28日に取得しました(30500BZX00161000)。AIによる臓器等の領域抽出を主な機能とする放射線治療計画支援装置としては、国内2件目の薬事承認医療機器となります。

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図1 Ai-Seg自動抽出(左)と医療従事者手入力(右)医療従事者が描画した前立腺(上)と肝臓(下)で Ai-Segは遜色ない精度で輪郭を自動作成する

研究の背景

放射線治療計画では、がんの周囲の健康な組織を放射線から保護するため臓器の領域データを描き照射線量の評価をおこなっています。近年の放射線治療では、腫瘍の形状に合わせ正確に照射し、かつ周辺の正常臓器への線量を低く抑えることが可能となっているため、照射線量の評価の重要性が高まっています。しかし、臓器の領域データの作成は、医療従事者間でもばらつきが生じる複雑な作業であり、患者当たり数時間程度要するため、医療従事者にとって大きな負担になっています。がん診断から放射線治療開始までの時間を短縮するためには、臓器の領域データの作業の均てん化と負担軽減することが必要になっています。

研究の内容

西尾教授及び小川教授らの研究グループとHIBMSでは、大阪大学医学部附属病院及び兵庫県立粒子線医療センターの実際に治療した計画画像及び放射線治療専門家によって抽出された症例を用いて頭頚部、胸部、腹部、骨盤部の主要臓器を自動で作成するモデルを開発しました。開発環境には、NVIDIA社のオープンソフトウェアであるClara Imagingを使用し、モデル学習を行いました。肝臓モデルを使用した例では、輪郭作成に要する時間は、従来手作業では30分以上要したものがAi-Segを用いると5分程度(臨床利用ための人による修正時間も含む)まで短縮することができました。図1に示すように医師とAi-Segが作成したものを比較しても違いがわからないほどの水準にまで達しています。薬事取得後もさらなる精度向上を図るため、モデルの開発・評価体制の強化や学習に使用する症例数を増やし、本Ai-Segを使用する病院のニーズを満たす開発を継続していきます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、がん患者の待ち時間を短縮することができます。また、医療従事者は、患者ケアに時間を割くことができるようになり、放射線治療の品質向上につながると考えられます。

特記事項

本放射線治療計画支援プログラム:Ai-Segは、2023年6月28日に国内の医療機器薬事承認として承認番号30500BZX00161000を取得しました。

尚、本装置開発は、HIBMS、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻医学物理学研究室(西尾禎治教授)及び同医学専攻放射線治療学教室(小川和彦教授)の共同研究として行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

深層学習

従来の機械学習で必須であった特徴量の設計を不要とし、大量データから自動で特徴量を抽出し、学習していくAI技術。