原発事故後の福島とコロナ禍後で生活習慣病と精神疾患が増加

原発事故後の福島とコロナ禍後で生活習慣病と精神疾患が増加

同一データセットに見る災害やパンデミック後の二次的な健康被害の特徴

2022-12-15生命科学・医学系
感染症総合教育研究拠点特任教授(常勤)村上道夫

研究成果のポイント

  • 長期間にわたる同一のデータセットを用いて、東日本大震災での原子力発電所の事故による福島県における一連の災害(以後、福島災害)および新型コロナウイルス感染症(以後、新型コロナ) 禍前後における高血圧症、脂質異常症、糖尿病、精神疾患の有病率の変化を解析した
  • 福島災害や新型コロナ禍後、これらの疾病の有病率が増加したことが分かった
  • 疾病が特に増加しやすかった性別・年齢階層は、福島災害では女性の40–74歳だったのに対し、新型コロナ禍後では、男性の0–39歳であった
  • 災害やパンデミック後に生じる二次的健康影響に対する支援に向けた知見を提供できた

概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点の村上道夫特任教授(常勤)らの研究グループは、福島災害や新型コロナ禍後に、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、精神疾患の有病率が増加することを明らかにしました。

これまでも、福島災害や新型コロナ禍後に心身の影響が生じることが知られていましたが、今回、長期間にわたる同一のデータセットを用いて福島災害と新型コロナ禍前後でのこれらの疾病の有病率の変化を解析しました。その結果、福島災害後9年間にわたって高血圧症、脂質異常症、糖尿病の有病率が福島県全域で増加していたこと、精神疾患の有病率が福島県浜通り地域において増加していたことがわかりました。一方、新型コロナ禍後においては、日本全体でこれらの疾病の有病率が増加していました。特に、福島災害では女性の40–74歳においてこれらの疾病の有病率の増加が顕著だったのに対し、新型コロナ禍後では、男性の0–39歳において特に増加しており、影響の生じた性別・年齢階層が異なることが明らかになりました。これらの知見は、災害やパンデミック後において、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、精神疾患といった二次的健康影響も考慮する必要があること、並びに、災害やパンデミックの特性に応じて健康支援を行うことが重要であることを表しています。

本研究成果は、オランダ科学誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」に、

2022年11月29日に公開されました。

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図1. (a)福島災害後の各疾病の有病率の変化(福島県)、(b)新型コロナ禍後の各疾病の有病率の変化(全国)。誤差線は95%不確定区間を表す。

研究の背景

これまで、福島災害や新型コロナ禍後に、避難や行動制限といった規制措置にともなって、糖尿病のような生活習慣病や精神疾患といった心身への影響が生じることが知られていました。しかし、福島災害と新型コロナ禍といった複数の災害・パンデミックを対象に、同一のデータセットを用いて、このような二次的な健康影響がどのように発生しているのか、これらの影響が顕著に生じる性別・年齢階層は何かを評価した研究はありませんでした。

研究の内容

研究グループでは、JMDC社から提供をうけた2009年1月から2020年12月までの全国のレセプトデータを解析し、福島災害や新型コロナ禍前後における、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、精神疾患の有病率の変化を評価しました。

その結果、福島災害後9年間にわたって高血圧症、脂質異常症、糖尿病の有病率が福島県全域で増加すること、精神疾患の有病率が福島県浜通り地域において増加することがわかりました。また、新型コロナ禍後においては、日本全体でこれらの疾病の有病率が増加していました。顕著な有病率の増加が生じた性別年齢階層は、福島災害では女性の40–74歳であったのに対し、新型コロナ禍後では男性の0–39歳であり、福島災害と新型コロナ禍で影響の生じた性別・年齢階層が異なることが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、災害やパンデミック後において、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、精神疾患といった二次的健康影響が生じることが明らかとなりました。災害やパンデミック後において、このような二次的健康影響を考慮することの必要性を示しています。さらに、そういった影響が生じやすい性別・年齢階層が災害やパンデミックによって異なったことから、災害やパンデミックの特性に応じて健康支援を行うことが重要であると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2022年11月29日にオランダ科学誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Annual prevalence of non-communicable diseases and identification of vulnerable populations following the Fukushima disaster and COVID-19 pandemic”
著者名:村上 道夫, 野村 周平
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2022.103471

なお、本研究は、科研費(JP20H04354)の一環として行われました。

参考URL

村上 道夫特任教授(常勤) 
https://www.cider.osaka-u.ac.jp/researchers/murakami.html

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

福島災害

東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所事故における一連の災害のこと。

有病率

ある時期において、対象の疾病を有している人の割合のこと。

レセプトデータ

医療機関が発行する診療報酬明細書のことで、疾病のデータなどが提供される。本研究では、JMDC社の提供するレセプトデータ(集計値)を用いており、組合管掌健康保険(大手企業等の従業員およびその扶養家族が加入する保険;74歳以下)を対象としている。JMDC社では、約900万人をカバーしている。