関節リウマチの新たな発症メカニズムの発見

関節リウマチの新たな発症メカニズムの発見

関節疾患に対する新規治療ターゲット“セマフォリン4D”

2022-11-2生命科学・医学系
歯学研究科講師村上智彦

研究成果のポイント

  • 関節リウマチの発症の新しいシグナル経路を発見
  • 神経軸索ガイダンス因子セマフォリン4Dが関節軟骨の破壊を直接誘導する新たな作用を発見
  • 関節リウマチや変形性関節症などの新規治療法への応用に期待

概要

大阪大学大学院歯学研究科の村上智彦講師、西村理行教授らの研究グループは、神経軸索の伸長や方向性を決定するセマフォリン4D (Sema4D)が関節軟骨に直接作用し、関節リウマチを引き起すメカニズムを世界で初めて明らかにしました。Sema4Dは関節の軟骨細胞の炎症応答を活性化させ、関節軟骨破壊を誘導します。

これまでSema4Dは、神経軸索ガイダンスや免疫・骨代謝系での働きが知られていましたが、関節破壊への直接的関与については不明でした。

今回、村上智彦講師らの研究グループは、関節軟骨の破壊を誘導する新規因子を探索する中でSema4Dを見出しました。Sema4Dによる関節軟骨の破壊メカニズムを解析したところ、Sema4Dが炎症性サイトカインとして関節軟骨細胞に作用し、関節軟骨破壊を直接誘導することを解明しました。さらに、Sema4Dが活性化する細胞内シグナル経路を遮断すると、関節軟骨破壊が抑制されました。これらの発見により、関節リウマチや変形性関節症などの新規治療法への応用が期待されます。本研究成果は、米国科学誌「Science Signaling」に、11月2日(水)午前3時(日本時間)に公開されました。

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図. Sema4Dによる関節軟骨破壊
マウス大腿骨頭器官培養にSema4Dを投与後、組織解析を行った。
Sema4Dにより軟骨基質(赤色)が脱落し、関節軟骨破壊が生じている。

研究の背景

超高齢社会を迎え、関節リウマチや変形性関節症などの関節破壊を伴う疾患が増加しています。特に、関節軟骨は再生能や修復能に乏しいことから、その破壊は歩行障害などの重篤な病態に直結します。しかしながら、関節軟骨破壊を直接抑止する治療法や再生療法は確立されていません。

関節軟骨の破壊には、老化、自己免疫、機械的刺激に伴う炎症が関与します。炎症反応により活性化された、リンパ球、マクロファージ、滑膜細胞などは炎症性サイトカインを産生します。この炎症サイトカインは、関節軟骨を破壊する細胞外マトリックス分解酵素の発現を誘導し、関節疾患の発症と進行に深く関与します。そこで本研究では、関節軟骨の破壊と炎症に関与する新規炎症性サイトカインの同定と分子作用機序の解明を目指しました。

研究の内容

炎症を誘導したマクロファージの培養上清に含まれるタンパク質を質量分析し、関節軟骨破壊作用を有するタンパク質を探索したところ、分泌型セマフォリン4D(Sema4D)を同定しました。マウス関節軟骨表層細胞にSema4Dを作用させると、細胞外マトリックス分解酵素の発現が顕著に誘導されました。また、マウス関節軟骨器官培養にSema4Dを添加すると、関節軟骨組織が破壊されました(図)。さらにSema4D KOマウスは、関節リウマチモデルに対して抵抗性を示しました。解析の結果、このSema4Dシグナルは、細胞膜から核へシグナルを直接伝達することで、関節軟骨破壊作用を誘導していることがわかりました。今回発見したSema4Dの関節軟骨細胞内のシグナルや遺伝子発現機構を遺伝子あるいは薬理的に阻害することで、Sema4Dによる関節軟骨破壊が抑制できることも見出しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、Sema4Dによる関節軟骨破壊の新経路が判明しました。この新経路を創薬ターゲットとして、関節リウマチや変形性関節症などの新規治療法への応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年11月2日(水)午前3時(日本時間)に米国科学誌「Science Signaling」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Semaphorin 4D induces articular cartilage destruction and inflammation in joints by transcriptionally reprogramming chondrocytes”
著者名:Tomohiko Murakami, Yoshifumi Takahata, Kenji Hata, Kosuke Ebina, Katsutoshi Hirose, Lerdluck Ruengsinpinya, Yuri Nakaminami, Yuki Etani, Sachi Kobayashi, Takashi Maruyama, Hiroyasu Nakano, Takehito Kaneko, Satoru Toyosawa, Hiroshi Asahara, Riko Nishimura
DOI:https://doi.org/10.1126/scisignal.abl5304

本研究は、科学研究費助成事業、内藤記念科学振興財団、武田科学振興財団などの支援を受け、大阪大学大学院医学系研究科 蛯名耕介特任准教授、大阪大学大学院歯学研究科 口腔病理学教室 廣瀬勝俊助教 豊澤悟教授、東京医科歯科大学医歯学総合研究科 浅原弘嗣教授などの協力を得て行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

セマフォリン4D (Sema4D)

神経軸索ガイダンスに加え、免疫系や骨代謝への関与が知られており、関節リウマチ患者の滑液中で上昇していることが報告されている。分泌型と膜貫通型が存在する。

関節軟骨

骨とともに関節を構成する主成分である。特に、関節の最表層にある関節軟骨表層は互いに接することから、関節軟骨表層は運動や滑液からの刺激に常に曝されている。

炎症性サイトカイン

主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞の受容体に結合し、炎症反応を促進する。IL-6やTNFなどの炎症性サイトカインが知られており、そのシグナルに対する分子標的薬が開発されている。

質量分析

分子をイオン化し、分子の質量を測定する分析法であり、本研究ではタンパク質の同定に用いた。

細胞外マトリックス分解酵素

軟骨基質などの細胞外タンパク質を分解する酵素で、軟骨を分解・破壊する。