骨と軟骨の形成に必要な遺伝子を発見

鎖骨頭蓋異形成症などの遺伝子骨疾患の診断や治療法への応用に期待

2021-10-19生命科学・医学系

研究成果のポイント

  • 骨および軟骨の形成に、Smoc1, Smoc2の両遺伝子が必要であることを発見した。
  • Smoc1とSmoc2両遺伝子を欠損したマウス(ノックアウトマウス)を作成すると、そのマウス頭蓋、四肢と下顎の骨の形成が損なわれた。
  • 骨を造る細胞である骨芽細胞は、コラーゲンなどの基質にカルシウムを沈着させ骨を成熟させ石灰化させるが、骨芽細胞でSmoc1とSmoc2遺伝子の発現を抑制すると骨芽細胞の骨を成熟させる機能が阻害された。

概要

大阪大学大学院歯学研究科の高畑佳史助教、西村理行教授らの研究グループは、Smoc1とSmoc2遺伝子が骨および軟骨の形成に重要な遺伝子であることを発見しました。

これまでの研究で、転写因子の一つであるRunx2という遺伝子が骨の形成と軟骨の成熟に必要であり、Runx2のノックアウトマウスでは全く骨が形成されないことが知られていました。またRunx2遺伝子の異常が鎖骨頭蓋異形成症という遺伝性骨疾患を引き起こすことも明らかにされています。しかしRunx2遺伝子によってコントロールされ、骨や軟骨の形成に関わる遺伝子群については良く分かっていませんでした。今回、本研究グループは、Runx2がコントロールする遺伝子を網羅的に探索し、Runx2にて誘導されるSmoc1とSmoc2遺伝子を見出しました。Smoc1とSmoc2の両方の遺伝子を欠失させたノックアウトマウスを作製し解析したところ、そのマウスは全身が小さく、頭蓋、四肢と下顎の骨の形成が阻害されることを明らかにしました。本研究は、下顎の骨の形成に関する歯科領域のみならず、全身の骨および軟骨の形成メカニズムの解明に貢献し、鎖骨頭蓋異形成症などの遺伝子骨疾患に対する治療法や診断への応用も期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Communications Biology」に、10月19日(火)18時(日本時間)に公開されました。

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図1. Smoc1およびSmoc2の双方を欠失するダブルノックアウトマウスでは、頭蓋骨が欠失する。

研究の背景

ヒトおよびマウスの遺伝学的研究により、転写因子Runx2が骨と骨芽細胞の形成と軟骨の成熟に必須的役割を果たしていることが明らかにされています。生化学的な研究により、Runx2がコントロールする遺伝子が見つかっていますが、これら遺伝子と骨の形成や軟骨の成熟との関係は不明でした。またRunx2は、変形性関節症などの軟骨・関節疾患の病因の一つとしても注目されています。

本研究グループは、最新の遺伝子工学技術を駆使して、Runx2がコントロールする遺伝子を網羅的に探索し、その役割を解明して、骨と軟骨を形成するメカニズムの解明に迫ることを目的として研究を開始しました。

研究の内容

本研究グループは、遺伝子発現を網羅的にスクリーニングするRNA-seqという解析手法を用いて、Runx2でコントロールされる遺伝子として、Smoc1およびSmoc2を発見しました。Smoc1のノックアウトマウスおよびSmoc2のノックアウトマウスを作製し解析した結果、各々の骨あるいは軟骨の形成への影響は軽微でした。しかしながら、Smoc1とSmoc2の双方を欠失するダブルノックアウトマウスを作製したところ、同マウスでは、全身の骨格が小さく、頭蓋骨が欠失し、顎骨の形成が損なわれていました。さらに、骨を造る骨芽細胞のSmoc1とSmoc2遺伝子を抑制すると、骨芽細胞が骨組織を造る機能が損なわれていました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、骨の形成と軟骨の成熟に関与する重要な遺伝子を発見し、骨や軟骨の形成のメカニズムの理解に大きく貢献すると見込まれます。本研究の成果を基盤として、骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性関節症などの骨および軟骨疾患の新規治療法の開発に寄与することも期待されます。さらに、鎖骨頭蓋異形成症などの遺伝性骨疾患の病態解明や診断にも貢献したいと希っています。

特記事項

本研究成果は、2021年10月19日(火)18時(日本時間)に英国科学誌「Communications biology」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Smoc1 and Smoc2 regulate bone formation as downstream molecule of Runx2”
著者名:Yoshifumi Takahata, Hiromasa Hagino, Ayaka Kimura, Mitsuki Urushizaki, Sachi Kobayashi, Kanta Wakamori, Chika Fujiwara, Eriko Nakamura, Kayon Yu, Hiroshi Kiyonari, Kana Bando, Tomohiko Murakami, Toshihisa Komori, Kenji Hata and Riko Nishimura
DOI:https://doi.org/10.1038/s42003-021-02717-7

参考URL

用語説明

Smoc1, Smoc2

SPARC related modular calcium binding 1。 SPARC関連タンパク質のファミリー遺伝子としてSmoc1とSmoc2が知られており、両者ともにカルシウムと結合する細胞外基質タンパク質。

転写因子

様々な細胞の増殖や分化、組織の発生や形成に必要な遺伝子群の発現をコントロールし、司令塔として機能するタンパク質。

Runx2

runt-related transcription factor 2。骨および軟骨の発生に必須であり、骨格形成に不可欠である転写因子の一つで、この遺伝子のノックアウトマウスは骨が全く形成されない。

鎖骨頭蓋異形成症

鎖骨と頭蓋骨の欠損あるいは形成不全を来たす遺伝性骨疾患。原因遺伝子として、Runx2遺伝子が同定されている。