保健指導に役立つAIを新開発

保健指導に役立つAIを新開発

大阪府60万人規模の健診ビッグデータで生活習慣病因子の因果関係を読みとく新技術

2020-12-24生命科学・医学系
キャンパスライフ健康支援センター特任教授土岐博

研究成果のポイント

  • 今回大阪府の60万人規模の健診ビッグデータをつかい、因果関係の推定を可能とするAIを開発した。これまでは統計が少なかったために相関関係の予測にとどまっていた。
  • このAI技術を用いた因果ダイアグラムで、生活習慣病の原因因子間の関係を可視化。例えば、HDLの増加はBMI、中性脂肪、血糖値を改善する要因であることが顕著となり、BMIは血糖値や肝臓悪化の指標であるGPTに悪影響を持つことなどが明らかに。
  • 今後、生活習慣病の保健指導などエビデンスに基づいた助言が可能になり、活用の幅が広がっていくことが期待される。

概要

大阪大学キャンパスライフ健康支援センターの土岐博特任教授らの研究グループ(受託研究代表者:守山敏樹センター長)は、帝京大学大学院医療技術学研究科診療放射線学専攻の古徳純一教授らの研究グループとの共同研究において、大阪府の60万人規模の個人が確定できないように個人情報を削除した健康診断データ(大阪府保険者協議会及び大阪府国民健康保険団体連合会提供)から生活習慣病の原因因子など自動的に因果関係を推定できる人工知能を開発しました。

この研究成果は、医療ビッグデータ解析において、今後のAI技術応用のキーとなる研究であり、生活習慣病を始め、様々な疾患を防ぐためのエビデンスに基づいた保健指導などへの活用も期待されます。この研究成果は日本時間2020年12月24日4時付(米国東部時間2020年12月23日14時付)で米国科学誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究の背景

これまでAI研究は、現代社会において様々な分野で応用されていますが、基本的に予測能力の高さを競うものがほとんどで、予測に用いられるモデルは必ずしも因果関係を反映しているものではなく、相関関係の記述にとどまっていることが大半でした。

データから因果関係を自動的に推定する方法は因果探索と呼ばれ、これまで様々な数理モデルが提案されてきましたが、データの規模が小さいと因果関係の推定精度が悪くなるため、現実の医療データに適用した成功例はこれまで報告されていませんでした。

本研究グループでは大阪府の60万人規模の国民健康保険の健診データという、これまでにない規模の医療ビッグデータに因果探索のAI技術、特にDirect LiNGAMと呼ばれる数理モデルを用いることで、健康診断で取得されたデータ間の因果関係の自動的な構築を行いました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本件研究により、これまでの経験値をもとにした保健指導から、AIの解析に基づいた保健指導による健康指標改善が具体性をもって「可視化」されるようになります。これにより保健指導の実施がエビデンスに支えられ、受ける側にも説得力をもって受け入れられるというメリットにつながります。

開発したAI技術を用いて、健康診断データから因果ダイアグラムを構築することで、生活習慣病因子の間の相関関係が明らかになりました(図参照)。例えば、HDLの増加はBMI、中性脂肪、血糖値を改善する要因であることが顕著となりました。BMIは血糖値や肝臓悪化の指標であるGPTに悪影響を持つことも明らかになりました。さらに、中性脂肪や血糖値の悪化は肝臓の悪化に大きく影響することも明らかになりました。これらの結果から、生活習慣病の保健指導などにエビデンスに基づいて活用できる可能性が示されました。

20201224_1_fig1.png

図 健康診断データ項目の因果関係を表したダイアグラム。各項目同士が矢印で結ばれているところは、矢印の根元(原因)から先端(結果)に因果関係が推定されている。原因が1単位変化すると結果が何単位変化するかをカラーで示している(暖色は正の寄与、寒色は負の寄与)。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「PLOS ONE」(オンライン)に日本時間2020年12月24日4時付(米国時間2020年12月23日14時付)掲載されました。

タイトル:Causal relations of health indices inferred statistically using the DirectLiNGAM algorithm from big data of Osaka prefecture health checkups
著者名:Jun’ichi Kotoku, Asuka Oyama, Kanako Kitazumi, Hiroshi Toki, Akihiro Haga, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Miyae Yamakawa, Sakiko Fukui, Keiichi Yamamoto, Toshiki Moriyama

なお、本研究は、大阪府保険者協議会及び大阪府国民健康保険団体連合会からの委託事業研究の一環として行われ、大阪大学キャンパスライフ健康支援センター長の守山敏樹教授の協力を得て行われました。

SDGs目標

sdgs_3.png


用語説明

因果関係

健康に関わる生活習慣病因子は多数あるが、それらの中で、何が悪くなれば、何が影響を受けるかという原因と結果を与える関係である。

HDL

生活習慣病因子であり、高比重リポタンパクで善玉コレステロールと呼ばれている。

BMI

生活習慣病因子であり、BMIは肥満度を表す。

GPT

生活習慣病因子であり、GPTは肝臓の状態を表す酵素である。

LiNGAM

LiNGAM法は線形非ガウス非巡回モデルという日本語名を持っており、対象とする変数が正規分布からずれることを利用して因果関係を構築する人工知能である。