工学系

2019年1月30日

研究成果のポイント

・電気・電子回路内で生じる電磁ノイズの発生メカニズムを数値計算で求めることができるアルゴリズムを考案
・信号線路間の干渉だけでなく接続する部品との関係にも依存する複雑な電磁ノイズ発生メカニズムを電磁気学と回路理論を組み合わせた手法で計算が可能
・電磁ノイズだけでなく、ノイズによる熱の発生、メタマテリアル、アンテナ解析のような、電磁ノイズ以外の様々な応用への利用が可能

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の阿部真之教授と土岐博特任教授(大阪大学名誉教授)は、電気・電子回路内に発生する電磁ノイズを記述する計算アルゴリズムの開発に成功しました。

これまで、伝送線路※1や電子機器に発生する電磁ノイズ(干渉ノイズ)は得体の知れないものとして考えられてきました。ノイズ低減のための方法として、フィルタや受動素子を加えるなどの対症療法が行われてきました。いくつかの分野では回路の幾何学対称性によって電磁ノイズが低減できるといった経験的な低ノイズ化が行われています。

本研究成果は任意の数の伝送線路に任意の集中定数回路※2を接続した電気回路のコンピュータシミュレーションの手法に関する成果です。伝送線路の解法は偏微分方程式を用いることで行われますが、集中定数回路では常微分方程式を用います。2つの異なる微分方程式を接続するために、回路理論におけるインシデンス行列※3と新たな概念である時間ドメインのインピーダンス※4を導入し、課題を解決しています。これにより、これまでは伝送線路を集中定数回路と置き換える方法が用いられてきましたが、本手法ではその必要がなく、より現実的な計算が可能になりました。

今回、本研究では電磁気学と回路理論の手法を駆使し、1次元伝送線路内に生じる電磁ノイズの発生を数値計算することが可能となりました(図1)。これまでも電磁気学を用いた電磁ノイズの定性的な説明がなされてきましたが、今回開発したアルゴリズムでは、電磁ノイズの時間領域および周波数領域解析だけでなく、電磁ノイズによる熱発生や省電力化、各種デバイスの計算といった様々な応用への可能性があります。

本研究成果はこれまでとは全く異なるアプローチをしており、電子回路で生じる電磁ノイズの問題に正面から取り組むことが期待されます。すでに、阿部教授らの研究グループは、本研究成果のアルゴリズムを使った計算結果を用いて、3線対称の電子機器の対称配置によりノイズをなくすことができることを示しました。

また、本研究成果は1次元の多導体伝送線路に関する計算手法ですが、すでに2次元・3次元における計算アルゴリズムも開発しており(特許出願済み)、応用研究を進めることが可能です。さらに、従来のシミュレータでは計算が難しいノイズ(および信号)の遅延効果の計算にも発展可能であり、現在その計算アルゴリズムを開発しています。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、1月15日(火)に公開されました。

図1 本研究成果の実施例。伝送線路内に生じるノイズ(左)を伝送線路の配置と回路部品の接続方法を工夫することでノイズのない信号伝送が可能になる(右)。

本研究成果の今後の展開

阿部教授と土岐名誉教授は電磁ノイズのないノイズレスインフラを実現し、機器の性能改善だけでない、「超低消費電力」で「超低廃熱」という高付加価値の機器を利用できる社会の実現を目指しています。具体的には、ノイズレスな構造を理論的に明らかにし、「電磁ノイズの革新的低減による低消費電力化にブレークスルーをもたらすことができる」というPOC(Proof Of Concept)の実証を目指しています。本手法が先端技術を汎用技術へと展開し、ノイズレスインフラの考えが、社会的・経済的にインパクトのある事業に育つための指針を得ることに挑戦しています。

ノイズレスインフラの実現に向けた活動を積極的に進め、基礎研究としての電磁ノイズの研究と、社会実装に向けた電磁ノイズが低減される機器に関する応用研究を行いたいと考えています。ノイズレスインフラの考えは社会のあらゆる場面でいろいろなアイデアが出てくることを期待しており、基礎研究の段階から大阪大学産学共創本部と協力しながら、多くのパートナーを探していきたいと考えています。研究だけでなく知的財産権取得に向けた取り組みを今後も積極的に行います。

特記事項

本研究成果は、2019年1月15日に国際論文誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Theoretical Study of Lumped Parameter Circuits and Multiconductor Transmission Lines for Time-Domain Analysis of Electromagnetic Noise”
著者名:Masayuki Abe and Hiroshi Toki
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-36383-3

本研究は、ニチコン株式会社との共同研究のもと、大阪大学共創機構産学共創本部Innovation Bridgeグラントの支援を得て行われました。

【研究者のコメント】阿部真之教授

本研究は、電磁気学と回路理論という学問体系から大きく外れることなく、計算アルゴリズムを開発しました。この手法は、これまでとは異なる全くアプローチをしており、電子回路からの電磁ノイズの問題に正面から取り組むことができると考えています。本研究成果は1次元伝送線路に関する成果ですが、すでに2次元・3次元における計算アルゴリズムも開発しており(特許出願済み)、応用研究を進めることが可能です。また、従来のシミュレータでは計算が難しいノイズ(および信号)の遅延効果の計算にも発展可能であり、現在その計算アルゴリズムを開発しています。

用語説明

※1 伝送線路
信号をある位置から別の位置へ送信するための配線のこと。信号には伝わる速度(伝搬速度)があり、伝送線路を信号が伝わる場合、信号は場所と時間の関数によって表される。伝送線路の信号は偏微分方程式である電信方程式で記述される。電力信号や高周波信号の伝送に関して用いられる。

※2 集中定数回路
電気・電子回路のサイズが、取り扱う信号の周波数の波長よりも十分小さい場合、部品間の信号の伝播による遅延が無視できると考えて良い。このとき、信号は時間の関数のみによって記述することができ、このような回路を集中定数という。上記の伝送線路は分布定数回路と呼ばれている。

※3 インシデンス行列
集中定数回路において、回路を構成する素子間の接続を表すために導入される行列。素子の電圧ー電流特性とインシデンス行列で回路内の状態を記述できる。

※4 インピーダンス
交流回路においてある素子や節点間での電圧と電流の比のことを示す。抵抗と同じ単位で表される。

参考URL

大阪大学 大学院基礎工学研究科 附属極限科学センター 阿部研究室
http://www.ae.stec.es.osaka-u.ac.jp/wp/

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