生命科学・医学系

2019年6月19日

研究成果のポイント

・難治性肺がんの発症に関与するタンパク質SRRM4の発現を抑制する新規核酸医薬を開発
・加えて、患者血液中のマイクロRNA(miRNA)に着目し、核酸医薬の効果を評価するコンパニオン診断薬につながる新たな診断法の開発にも成功
・効果的治療法が少なく、長年、進展のなかった難治性肺がんの治療法開発に新展開をもたらす成果
・SRRM4を標的とする核酸医薬とmiRNAを利用するコンパニオン診断薬を用いた新しい医療に期待

概要

大阪大学大学院薬学研究科の下條正仁特任准教授(常勤)、小比賀聡教授らの研究グループは、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、関西医科大学のグループと共同研究で、難治性肺がんである小細胞肺がん※1発症に関与するタンパク質SRRM4(Serine/Arginine repetitive matrix protein 4)の発現を特異的に抑制するアンチセンス核酸医薬※2を世界に先駆けて開発し、がん細胞死を誘導することを動物モデルにおいて証明しました(図1)。今回開発した核酸医薬は、大阪大学で開発した人工修飾核酸AmNAを用いており、生体内での安定性が高く、SRRM4発現を特異的に抑制します(図2)

また、同グループは、小細胞肺がん患者血液中に高濃度で検出されるマイクロRNA※3(miR-4516等)が、腫瘍の退縮に応じて、検出量が減少することを見出し、核酸医薬の効果を評価する新たな診断法の開発にも成功しています。世界保健機構(WHO)は、PM2.5を肺がん発症リスク因子と認めており、miR-4516はPM2.5による大気汚染地域の健常者の血液中に増加していることから、従来の診断法とは異なる早期診断法、さらにこれまでにないコンパニオン診断薬※4としての利用が考えられます。

小細胞肺がんの治療薬開発は30年以上の間、なかなか進んでいませんでしたが、本研究グループが開発した核酸医薬と、コンパニオン診断薬を用いた新たな治療戦略は、肺がんの画期的な治療法になるものと期待されています。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、5月20日(月)に公開されました。

図1 アンチセンス核酸投与後のがんモデルマウス

図2 アンチセンス核酸の作用機序

研究の背景・内容

2018年、世界の推定肺がん罹患数は200万人を超え、死亡数は180万人と予想されており、肺がんは全がん腫の中で死亡数第一位です。一部の肺がんには分子標的薬が開発されてきましたが、肺がんの中でも悪性腫瘍である小細胞肺がんには、その標準的治療法が約30年も大きく変わっていませんでした。我が国の小細胞肺がん全体の5年生存率は10%未満と不良であり、新規治療薬の開発が強く期待されてきました。小細胞肺がんの発症は、喫煙との関係が高く、PM2.5などの大気汚染も発症リスクとして考えられています。近年、大気汚染の高い地域では肺がん発症率が急激に増加しており、特に子供の肺がん発症は大きな問題と考えられています。小細胞肺がんは診断時点で肺以外に転移している進展型として発見されるケースが多く、さらに、既存の抗がん剤が効かなくなる薬剤耐性が問題であり、早期診断法及び効果的な治療薬が期待されていました。

下條特任准教授(常勤)らの研究グループは、悪性腫瘍の小細胞肺がんの進行にはSRRM4が重要であることを世界に先駆けて発見しており、このSRRM4発現を特異的に抑制する手法として小比賀教授が開発した人工修飾核酸AmNAを用いたギャップマー型アンチセンス核酸を開発しました。AmNAは、最近、大阪大学大学院医学系研究科のグループが発表したパーキンソン病治療薬の核酸医薬としても注目されています。

さらに、同グループはこれまでに、小細胞肺がん患者血液中に特異的に検出されるmiRNAを発見し、核酸医薬の効果を評価する新たな診断法の開発を進めていました。これは小細胞肺がんの新規診断法として、2019年1月大阪大学の特許として認められ、コンパニオン診断薬としての利用が期待されるものです(図3)

図3 本研究成果の概要

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、核酸医薬を用いた新たな小細胞肺がんの治療薬及びコンパニオン診断薬の誕生が期待されます。さらに、薬剤耐性が問題である去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)及び一部の悪性乳がんにおいてもSRRM4が関与していることが考えられており、本研究成果のSRRM4に対する核酸医薬は、前立腺がん治療等においても大きく期待されています。

研究者のコメント

PM2.5による大気汚染が問題となる地域で、多くの子供たちが肺がんを発症しているというニュースがありました。視界を遮るほどの大気汚染の映像から、子供の頃見た出身地長崎市の原爆直後の状況を思い起こしました。原爆では、多くのものが破壊され、細かい粉塵が多くの人の呼吸を妨げ、肺がん発症数が著しく増加したようです。当時、子供の存在は大人の希望であり、大きな夢を持って生きてほしいと大人は願っていたと聞いています。私もまた、創薬を通じて、子供達が笑顔になるような、夢を抱ける社会の実現を願っています。

がんは早期発見が大切だと言われますが、小細胞肺がんは、診断時にはかなり進行しており、主に抗がん剤治療と放射線治療が行われます。「がんを早期に発見したい!」「副作用の少ない効果的な治療薬を開発したい!」「医療費の削減に貢献したい!」という思いから、私たちグループは研究を進めてきました。今回の発表は、多くの方の協力のもと得られた一歩ですが、患者さんへ薬を届けるにはさらに多くの試験を行ってさらに大きく前進しなくてはいけません。今回の結果をもとに、安全性・有効性を高めて臨床試験を実施し、1日でも早く患者さんのもとへ届け、患者さんはもとより多くの人を笑顔にして心をほっと和らげるように開発したいと考えています。

特記事項

本研究成果は、2019年5月20日(月)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】
“A gapmer antisense oligonucleotide targeting SRRM4 is a novel therapeutic medicine for lung cancer”
-Scientific Reports 9, 7618 (2019)-
【著者名】
Masahito Shimojo1, Yuuya Kasahara1,2, Masaki Inoue2, Shin-ichi Tsunoda2, Yoshie Shudo3,Takayasu Kurata3 & Satoshi Obika1,2
【所属】
1. 大阪大学 大学院薬学研究科
2. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
3. 関西医科大学

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬支援ネットワーク(研究開発課題:小細胞肺がん治療を目的とした核酸医薬の探索:DNW-14028)として開始され、大阪大学 Innovation Bridge Grantの支援、及び革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業(AMED)の一環として行われました。

用語説明

※1 小細胞肺がん(SCLC)
肺がんの中でも特に進行が早く、再発率が高い。発症は、喫煙との関係性が高く、PM2.5など大気汚染との関係も報告されている。5年生存率が最も低く、標準治療法を変えるような治療薬が30年以上登場していない。

※2 アンチセンス核酸医薬
デオキシリボ核酸(DNA)に人工修飾核酸を導入して開発され、標的物質mRNAを特異的に分解することで、タンパク質の合成を抑え、病気の発症を抑制する作用をもつ。最近、いくつかの核酸医薬は上市され神経筋疾患への治療応用が進んでいるが、抗がん剤としてはまだ上市されていない。

※3 マイクロRNA(miRNA)
20数個前後から構成されるRNA(リボ核酸)であり、遺伝子発現を調節する機能などを有する。最近、がん細胞など様々な細胞が分泌しエクソソームと呼ばれる粒子に内包されている。細胞-細胞間の情報伝達などに関わり、がんの増悪や転移に深く関係することが明らかになってきた。

※4 コンパニオン診断薬(CDx)
医薬品の使用に際して使用される体外診断薬で、医薬品の効果が最も期待できる患者を特定し、医薬品の使用において重篤な有害事象のリスクが大きい患者を特定するものである。さらに、治療法の最適化(治療スケジュール、用量、等)を可能とする。

参考URL

大阪大学 大学院薬学研究科 生物有機化学分野
http://www.phs.osaka-u.ac.jp/homepage/b007/index.html

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