体内のマイクロRNAの働きを抑制する「小さな核酸医薬」の治療効果を数百倍に増強し、実用化に大きく前進

2021-6-11生命科学・医学系

研究成果のポイント

  • 肝臓で特異的に発現するマイクロRNA (miRNA-122)に対する阻害薬は、C型肝炎や脂質異常症などの様々な治療標的となりうる
  • 肝臓表面受容体を活用したデリバリー技術により「小さな核酸医薬」の肝臓指向性を大幅に向上させることに成功した(図b)
  • 約300-500倍の活性増強を実現し、薬剤の投与量を大きく減らすことが可能となった(図c)
  • 肝臓以外の組織への望まぬ移行を抑え、副作用を低減できる可能性が期待される(図d)

概要

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)の山本剛史准教授、大阪大学大学院薬学研究科の小比賀聡教授、国立循環器病研究センター研究所の斯波真理子医師らの共同研究グループは、マイクロRNAを治療標的とする「小さな核酸医薬」として知られる「tiny LNA」の体内動態を制御し、その効果を約300-500倍増強することに成功し、未だ開発途上の抗マイクロRNA治療薬の実用化に向けた大きな一歩を遂げました。

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図 miRNA-122に対する肝臓指向型小さな核酸医薬
(a)開発した核酸医薬の肝臓内取り込み機構の模式図、(b)色素標識した核酸医薬の体内動態比較、(c)肝臓組織中でのmiRNA-122阻害活性の比較、(d)投与後マウスにおける詳細な臓器分布解析

研究の背景

マイクロRNAは、20塩基程度の低分子量RNA分子で、ヒトの体内では2,000種ほどが知られています。マイクロRNAは、タンパク質をコードするmRNAに作用し、その転写後調節・翻訳調節を担っており、発生や分化のみならず種々の疾患への関与が示されています。今回我々が注目したmiRNA-122は、肝臓における様々なイベントに関与することが知られており、この阻害薬は、C型肝炎や脂質異常症などをはじめとする多様な疾患の治療につながることが期待されています。

マイクロRNAに対する阻害剤として、塩基配列に応じた分子設計が可能な核酸医薬が注目されています。中でも、マイクロRNAに対して非常に強力にかつ特異的に結合することが可能なtiny LNA(人工核酸よりなる8塩基程度の小さな核酸医薬)が2011年、Susanna Obadらにより開発されました。しかし、その「小ささ」ゆえ、すぐに尿から排泄されてしまうため多量の薬剤を投与しなければならないという弱点がありました。

今回得られた成果

今回、我々はtiny LNAの体内動態の改善を目的に、肝臓指向性を高めるための糖分子を結合したtiny LNAを開発し、実際にマウスを用いた実験により高い肝臓移行性と特異性を有することを示しました(図a,b,d)。投与後の肝臓組織中のmiRNA-122の減少を確認するとともに、miRNA-122により制御を受けていた遺伝子への影響も確認できました(図c)。投与量は、従来型のtiny LNAの300-500分の1の量で同程度の活性が得られることが明らかとなりました。マイクロRNAは、ひとつで複数の遺伝子発現を制御しており、またその役割も各臓器や組織で大きく異なります。本技術が提供する臓器(組織)特異的なマイクロRNAの阻害は、治療効果を高めるとともに副作用の可能性を低減させ、抗マイクロRNA阻害剤の治療薬としての実用性を高める有用な技術と言えます。今後、本技術の臨床応用を目指し、さらなる技術の最適化を進め、国産の抗マイクロRNA核酸医薬の開発につなげたいと考えています。

発表論文

Yamamoto, T.; Mukai, Y.; Wada, F.; Terada, C.; Kayaba, Y.; Oh, K.; Yamayoshi, A.; Obika, S.; Harada–Shiba, M. Highly Potent GalNAc-Conjugated Tiny LNA Anti-miRNA-122 Antisense Oligonucleotides. Pharmaceutics 2021, 13, 817.
https://doi.org/10.3390/pharmaceutics13060817