自然科学系

2019年5月13日

研究成果のポイント

・高強度レーザーによる固体の高速加熱(レーザー等積加熱)で加熱された固体内部の非平衡プラズマ状態を把握するための、新しいX線計測法を提案した。
・レーザー等積加熱のメカニズムを理論的に解明し、固体の加熱はレーザー照射が終了後、時間遅れで起こることを明らかにした。
・レーザー等積加熱により、金属チタンが温度数100万度、圧力100テラパスカル級の高エネルギー密度状態になった兆候を得ることに初めて成功した。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)の千徳靖彦教授と米国ネバダ大学リノ校の澤田寛准教授と、理研Spring-8(日本)、欧州XFEL(ドイツ)、イエナ大学(ドイツ)ヘルムホルツ研究所イエナ(ドイツ)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)、ローレンスリバモア国立研究所(米国)の国際共同研究チームは、超高強度レーザーによる固体の等積加熱※1のメカニズムを新しいX線計測手法により明らかにするとともに、レーザー照射された金属チタン内部が数百万度の高エネルギー密度状態になった兆候を、世界で初めて捉える事に成功しました(図1)。本成果はレーザーにより金属内部のエネルギー状態を制御する指針を与え、高輝度X線源など将来応用が期待される新量子線源の開発につながるものです。

本研究成果は、Physical Review Letters 誌に4月18日16時(日本時間)に掲載されました。

図1 レーザー実験で捉えたレーザー加熱のイメージとレーザープラズマ相互作用シミュレーション
中心に穴の空いたドーナツ状の輻射が見られる。
0.5ピコ秒の短パルスレーザーの照射後、遅れること1ピコ秒ほどして、固体のチタンのイオン化が進む様子が分かる。

研究の背景

極短パルスレーザーは物質をサブピコ秒という短い時間で、数百万度から一千万度まで一気に加熱できる能力を持っています。加熱時間が短いため、物質は固体密度を維持したままプラズマへ変異し、太陽内部と同等な高エネルギー密度状態になります。このような超高速加熱を等積加熱と呼び、密度の値が既知の非平衡輻射プラズマを作ることができます。そのようなプラズマは状態方程式や熱伝導、X線吸収過程(Opacity)などの原子過程の研究やレーザー核融合の基礎研究のプラットフォームとして利用されます。また、コンパクトなX線源や中性子線源などの新量子線源としての応用も期待されています。

しかし、高強度赤外レーザーによる加熱現象は、現象の時定数の短さと、加熱領域がミリメーター以下と小さいため、現象の詳細を捉えることが難しく、加熱過程の詳細は実験では明らかになっていませんでした。特に、ターゲット前面にレーザー相互作用で生じる低密度の超高温プラズマが形成されるため、従来のX線計測では、X線が固体内部からのものなのか、固体前面にある超高温の低密度プラズマからのものなのか区別がつかない状態でした。

今回、加熱された固体内部で発生する特性X線(Kα線)のターゲット裏面からの発光を、狭バンド幅2次元イメージング※2(バンド幅5eV※3、空間解像度10μm)して計測したところ、レーザー照射中心部でKα線の欠損が確認されました。これはターゲットを構成するチタン原子がイオン化し、16価以上に電離した結果、Kα線がシフトし2次元イメージングの計測幅からずれたことを示します。すなわち、固体内部でチタンが16価以上に電離するほど加熱されたことが明らかになりました。

一方で、高強度レーザーと物質の相互作用を、衝突過程・イオン化過程を組み入れたプラズマ粒子シミュレーションコードにより行ったシミュレーション結果は、実験データを説明するとともに、高価数への電離が起こる高温状態は、レーザー照射後、ピコ秒以上の時間遅れで達成されることがわかりました。この結果は、レーザー等積加熱が、高速電子の作る電流による加熱という従来の考え方と異なり、レーザー照射中にターゲット前面に形成された超高温低密度プラズマからの熱拡散過程によることを初めて明らかにしました。

レーザー等積加熱のメカニズムが明らかになったことで、高エネルギープラズマ生成を制御する指針が得られ、高エネルギー密度科学※4の研究が一層進むことが期待されます。一方で、大阪大学レーザー科学研究所では、マルチピコ秒のパルス長で、数10ミクロンの大きなスポット径を持つLFEXレーザーによるレーザー等積加熱の実験が行われています。GEKKOレーザーで固体密度の10倍以上に爆縮した球ターゲットをLFEXレーザーで加熱した結果、温度1千万度以上、圧力1ペタパスカル※5、太陽コアと同等の高エネルギー密度状態を達成しました[S. Sakata et al.,Nature Communications 9, 93937 (2018)]。本研究結果が実験結果の解明に繫がると期待されています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

高強度赤外レーザーと物質の相互作用では、温度数百万度から数千万度の超高温のプラズマが生成されます。プラズマのエネルギー密度は太陽のコア周辺と同程度のエネルギー密度状態に達するため、プラズマ中では非常に強いX線輻射が起こります。そのためコンパクトなサイズで高輝度X線源を発生することが可能であり、また、太陽のコアで起こっている核融合過程を研究するために、レーザープラズマ相互作用は世界中で活発に研究が行われています。本研究で確立した計測方法とレーザー等積加熱のメカニズムの解明により、レーザー駆動高輝度X線源など高エネルギー密度科学の一層の発展が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2019年4月18日16時(日本時間)にアメリカ物理学会が発行する学術雑誌「PhysicalReview Letters」誌に掲載されました。

タイトル:"Monochromatic 2D Kα Emission Images Revealing Short-Pulse Laser Isochoric HeatingMechanism"
(日本語訳「狭バンド幅二次元イメージングが解き明かす短パルスレーザーの等積加熱機構」)
DOI:10.1103/PhysRevLett.122.155002
著者名:澤田寛1,千徳靖彦(大阪大学レーザー科学研究所教授)2, T. Yabuuchi3, U. Zastrau4, E.Forster5,6, F N. Beg7, H. Chen 8, A. J. Kemp8, H. S. McLean8, P. K. Patel8, and Y. Ping8

所属
1 ネバダ大学リノ校、アメリカ
2 大阪大学 レーザー科学研究所、日本
3 理研 Spring-8、日本
4 欧州 XFEL、ドイツ
5 IOQ、フリードリッヒ・シラー、イエナ大学、ドイツ
6 ヘルムホルツ研究所イエナ、ドイツ
7 カリフォルニア大学サンディエゴ校、アメリカ
8 ローレンスリバモア国立研究所、アメリカ

国際共同研究の実施に際しては、日本学術振興会の国際共同研究加速基金(帰国発展研究 JP15K21767)等の助成を頂きました。

用語説明

※1 レーザー等積加熱
極短パルス超高強度レーザーを用いて金属など極薄ターゲットを、固体密度を保った状態で、数百万度以上に急速に加熱しプラズマ状態にする。高温プラズマ中では原子過程・輻射過程が活性化され大量のX線や、核融合反応による中性子などを発生させることができる。

※2 狭バンド幅2次元イメージング
X線はエネルギーごとに反射角度が異なることを利用し、特定のX線のみを取り出し発光の空間分布を計測する手法。今回の実験ではチタンの特性X線(Kα線)4.51keVの発光分布を計測した。

※3 電子ボルト(eV)
粒子等のエネルギーを示す単位。1電子ボルトは、1ボルトの電位差で加速された電子が得るエネルギーに等しい。約1.602x10-19ジュール。1メガ電子ボルトは1電子ボルトの100万倍。

※4 高エネルギー密度科学
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、星の内部に匹敵する高い圧力(=高いエネルギー密度)を有する物質・プラズマを生成し、その内部状態の挙動や内部で起こる反応を観測することで、プラズマから放出されるX線や粒子の利用を目指す学際的な研究領域。レーザー核融合や実験室宇宙物理も、高エネルギー密度科学に含まれる。

※5 パスカル
圧力の強さを示す単位。大気の圧力1気圧は101,325パスカル。

参考URL

大阪大学 レーザー科学研究所 非平衡輻射プラズマ理論グループ(THR)
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/thr/index.html

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