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世界中が注目 ノーベル賞受賞の「オートファジー」

阪大に国際的な共同研究拠点を

生命機能研究科・医学系研究科 教授 吉森保

胞がたんぱく質を分解し再利用する「オートファジー(自食作用)」。 2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授と共にこの分野の第一人者と評される吉森保教授は、哺乳類のオートファジーの役割を明らかにし、さまざまな病気との関連を研究している。 大隅教授への思いやオートファジーの「これから」を語ってもらった。

世界中が注目 ノーベル賞受賞の「オートファジー」

◎大隅教授のノーベル賞受賞がさらなる研究の弾みに

大隅良典教授のノーベル賞受賞を知ったとき、「いつか受賞されると思っていた。私の夢でもありました」と、愛知県岡崎市の基礎生物学研究所で大隅教授と共に研究していた(ニューズレター67号掲載)吉森保教授は喜びをかみしめた。受賞決定後に初めて大隅教授と会ったのは、受賞の約3週間後。「取材対応が大変そうでした。でも、『受賞してもしなくても自分は変わらないよ』と普段どおり淡々としていました。研究の話はしませんでしたね」と笑う。

大隅教授の受賞理由について、「1993年に酵母で関連遺伝子を見つけたことが大きい」と指摘する。実はオートファジーの現象自体は60年代に発見されていたが、当時の手法ではそれ以上調べることが難しかった。しかし、大隅教授が酵母細胞のオートファジーの仕組みを世界で初めて解明し、研究が飛躍的に進んだ。今では、オートファジーがうまく働かなくなると、神経難病のパーキンソン病やアルツハイマー病、糖尿病などを引き起こすと考えられている。「受賞でさらに研究に弾みがつく」と顔がほころぶ。

◎基礎研究と臨床応用をまたぐオートファジーセンター設立

大阪大学でも次々と研究業績を重ねた吉森教授は、幅広い臨床応用を見据え、2015年に医学系研究科内に基礎研究と臨床応用をまたぐ「オートファジーセンター」を設立。センターでは、消化器内科や免疫アレルギー内科など多数の臨床研究の教室と連携し、オートファジーと病気との関わりを研究している。

2016年9月には、生活習慣病の脂肪肝が、オートファジーの働きを抑えるたんぱく質ルビコンの増加で引き起こされることを、マウスを使った実験で明らかにした。今後、ルビコンをコントロールすることで脂肪肝の治療への応用が期待されている。

◎メカニズム解明が次の課題

吉森教授は「オートファジーが関わる病気のメカニズムを明らかにすることが次の課題。オートファジーはどの細胞にもある基本的な機能なので、仕組みを見極めればいろいろな病気に有効な治療ができる可能性がある」と語る。センターの役割は一層重要さを増す。「基礎と臨床が連携してオートファジーを研究している組織は世界でも他にない。阪大がイニシアティブを取り、国際的な共同研究の拠点にしたい」と意気込んでいる。


●吉森 保(よしもり たもつ)
1981年大阪大学理学部卒業。同医学研究科博士課程中退。関西医科大学助手、基礎生物学研究所助教授、国立遺伝学研究所教授等を経て、2006年に大阪大学微生物病研究所教授。09年生命機能研究科、医学系研究科教授。15年東京大学の水島昇教授と共に「哺乳類オートファジーの分子機構と生理機能の研究」により上原賞。その他、文部科学大臣表彰科学技術賞、トムソン・ロイター「世界で最も影響力のある科学者 (高被引用論文著者)」等。


(2016年12月取材)

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