発電と農作物栽培を両立する有機太陽電池!

発電と農作物栽培を両立する有機太陽電池!

太陽光を選択利用するソーラーマッチング技術でエネルギー地産地消を

2024-8-28工学系
産業科学研究所教授家 裕隆

研究成果のポイント

  • 発電と農作物栽培の両立を実現する有機太陽電池(OSC)を開発
  • 太陽光に含まれる青色および赤色光を農作物の光合成に、緑色光を発電にそれぞれ利用可能
  • イチゴを用いた光合成速度評価で農業利用の可能性を実証
  • 有機太陽電池は軽量かつ柔軟であるため、農業用ハウスへの搭載に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の家裕隆教授は、公立諏訪東京理科大学の渡邊康之教授、石原産業株式会社、デザインソーラー株式会社らと共同で、農作物の生育に必要な青色光と赤色光を透過し、光合成への寄与が少ない緑色光を発電に用いる緑色光波長選択型有機太陽電池(OSC)の高性能化に成功しました(図1)。これは、OSCが有する波長選択性といった特徴を活かし開発されたものです。OSCは軽量かつ柔軟であるため、農業用ハウスなどへ搭載できれば、同一農地での発電と農作物栽培の両立が可能になります。

本研究成果は、8月20日(現地時間)にElsevier誌 『Materials Today Energy』 (オンライン)に、公開されました。

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図1. 本研究で開発した緑色光波長選択型OSCの概要

研究の背景

二酸化炭素に代表される温室効果ガス(GHG)の大幅削減が大きな課題となっています。国内では農林業分野で約5,000万トンのGHG排出があり、このうち約35%を占めている燃料燃焼が問題となっています。国内農業のエネルギーは、重油等で約94%を占める「化石燃料漬け」の状況です。この現状を打開するためには、再生可能エネルギーを活用したエネルギーシステムの構築が不可欠です。一方で、食料安全保障の観点では、地域紛争による農作物輸入リスクや災害による食料需給の不安定要素が存在していることから、国内の農業生産の増大を図ることが急務であり、農作物の収穫量増加やスマート農業による生産性向上等、新たな農業システムの確立が不可欠です。

太陽光を発電と農作物栽培の両方に利用する技術として、シリコン太陽電池を用いたソーラーシェアリングが挙げられます。これは、作物を育てている農地にシリコン太陽電池のソーラーパネルを設置して発電する取り組みです。しかし、ソーラーパネルは重量が大きく、設置用の架台設備等のスペースが必要なことに加えて、太陽光パネル自体が日陰を作ることによる周辺の農作物への悪影響も懸念されています。これらの点から、ソーラーシェアリングの農業用ハウスへの利用は適材適所とは言えない状況です。

研究の内容

シリコン太陽電池と比べると、OSCは軽量性、柔軟性の特徴を有することから農業用ハウスへの搭載が比較的容易な太陽電池です。OSCの発電層はドナー材料とアクセプター材料の二成分の混合薄膜で構成されます。高い発電効率を目指した通常のOSCでは、幅広い可視光領域の光吸収が不可欠であるため、異なる大きさのエネルギーギャップ(Eg)をもつドナー材料とアクセプター材料を組み合わせることが一般的な設計指針です。これに対して、緑色光波長選択性を得るためには、約2.00-2.50 eV程度、かつ、同じ大きさのEgをもつドナー材料とアクセプター材料の組み合わせが必要となります。

本研究では緑色波長選択的な吸収を示す安価なドナー材料のポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)と大阪大学で見出した緑色光波長選択的なアクセプター材料(FNTz-FA)を組み合わせることで、緑色光波長選択型OSCの高性能化を実現しました。さらに、イチゴを用いた光合成速度評価やトマトを使った予備的な農業評価で、緑色光波長選択型OSCの農業用途の可能性が期待できる結果が得られました。

青色と赤色光を農業、緑色光および近赤外光を発電に用いる「ソーラーマッチング」に基づく波長選択型OSCにより、農作物生育に悪影響を与えることなく農業用ハウスに電力を供給できる、エネルギー地産地消の新しい営農型太陽光発電技術の確立が期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果によって、①同一農地における発電と農業の完全両立 ②太陽光エネルギーを活用した地産地消型発電技術の実現が視野に入ります。高性能化した緑色光波長選択型OSCは、国土への悪影響を与えることなく、エネルギーと食料、両方の持続可能な生産拠点を実現する革新的なエネルギー源であり、我が国の社会課題である「GHG削減と食料供給の安定確保」の解決に貢献します。

特記事項

本研究成果は、2024年8月20日(現地時間)にElsevier誌 『Materials Today Energy』(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Green-light wavelength-selective organic solar cells: module fabrication and crop evaluation towards agrivoltaics”
著者名:Shreyam Chatterjee, Naoto Shimohara, Takuji Seo, Seihou Jinnai, Taichi Moriyama, Morihiko Saida, Kenji Omote, Kento Hara, Yohei Iimuro, Yasuyuki Watanabe, Yutaka Ie
DOI:https://doi.org/10.1016/j.mtener.2024.101673

なお、本研究は科学研究費補助金(20H02814, 20H05841, 20KK0123, 23K17947, 20K15352, 23H02064, 23K04913, and 24H00482)、科学技術振興機構(JPMJMI22I1, JPMJSF23B3, JPMJCR20R1)、NEDO (21500248-0), 三菱財団研究助成の一環として行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 02 飢餓をゼロに
  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

有機太陽電池(OSC)

Organic Solar Cell。既に社会実装に至っている無機半導体材料のシリコン太陽電池と異なり、有機半導体材料(主として芳香族化合物)を利用して太陽光エネルギーを電気に変換する太陽電池です。有機半導体材料で構成されるため、軽量かつ柔軟な太陽電池を作製でき、プリンタブルな方法で大面積化できることが特徴です。

光合成

植物が太陽光エネルギーを利用して二酸化炭素と水から有機物(主にグルコースなどの糖)を合成し、酸素を放出するプロセス。光合成により太陽光エネルギーを吸収するためにはクロロフィルa, b等の光合成色素が必要です。これらの色素は青色、赤色光を選択的に吸収する特性を有しています(図1参照)。