/ja/files/pc_resou_main_jp.jpg/@@images/image
半導体と金属界面の接触抵抗の評価手法を一新

半導体と金属界面の接触抵抗の評価手法を一新

次世代半導体デバイスの利用環境に適応する界面材料の発見に期待

2025-3-26工学系
産業科学研究所招へい教授菅原 徹

研究成果のポイント

  • 半導体と金属材料の界面での接触抵抗を精密に測定する手法を開発し、異なる材料間の界面物性の比較に成功
  • 半導体デバイス駆動における各所温度条件によって、半導体と金属材料の界面での接触抵抗が異なることを発見
  • 半導体デバイスを利用する温度や使用環境によって、半導体ごとに最適な金属材料を選定するなど界面の組み合わせを探索する技術開発に期待

概要

京都工芸繊維大学 菅原 徹 教授(兼:大阪大学産業科学研究所 招へい教授)らの研究グループは、大阪大学産業科学研究所、トリノ工科大学らと協力し、異なる材料間の界面での接触抵抗を直接比較できる界面物性評価手法を開発し、半導体デバイスの利用条件に適した界面材料を提案できることを明らかにしました。

これまで半導体/金属界面の接触抵抗は、伝送長法(Transfer Length Method: TLM)を用いて測定されてきました。しかしながら、TLMは、測定サンプル(デバイス)に使用する半導体の厚みを考慮しておらず、半導体や金属、サイズなどの条件が異なるサンプル間で接触抵抗を直接比較し、評価することが困難でした。

今回、研究グループは、測定サンプルのサイズ設計条件に依存することなく、異なる材料間の界面での接触抵抗を直接比較できる新たな評価手法(拡張伝送長法:Advanced TLM)を提案しました。本手法により、半導体/金属界面の接触抵抗値がデバイスの動作温度条件によって変化することを発見しました。また、その各温度条件での接触抵抗値は、半導体と金属材料の組み合わせによって大きく異なることを明らかにしました。本研究成果によって、次世代半導体デバイス開発において、デバイスの利用条件に適した半導体と金属材料など材料間の界面の組み合わせを提案できることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「AIP Advances」に、3月26日(水)0時00分(日本時間)に公開されました。

研究の背景

半導体デバイスは、半導体材料と、電極などの導体材料や絶縁体材料の積層により作製されています。電流信号を増幅・変換・制御する機能を持ち、スマートフォンやパソコンなど、現代社会の根底を支える電子機器の頭脳や機能を担う重要部品です。次世代半導体デバイスは、高速かつ精密な計算を実現するための微細・集積化技術が注目され、積極的な開発が進められています。しかし、超微細・集積化した際、異なる材料(半導体/絶縁体/金属導体)を積層した構造を有する半導体デバイスは、『半導体と金属材料の界面での接触電気抵抗により発熱し、変換効率や信頼性を損失する』という問題が指摘されています。そのため、半導体デバイスに内包される半導体/絶縁体/金属導体などの各材料の界面での接触抵抗値を低減し、発熱による熱暴走を抑える必要があります。

これらの背景から、次世代半導体デバイスの永続的な利用を担保する高い信頼性や変換効率に資する堅牢な半導体と金属材料の界面を実現するため、各デバイス動作環境下での最適な半導体と金属材料の界面での材料構造を明らかにし、堅牢な界面を構築する技術開発が必要でした。従来、半導体と金属材料の界面での接触抵抗の計測には、Transfer Length Method (TLM)が用いられてきましたが、この手法は半導体の厚みを考慮しておらず、得られる接触抵抗値がサンプルのサイズ設計条件によって左右されるという欠点がありました。また、この値はサンプルサイズ、界面材料、温度条件、計測誤差など多くの要素を内包するため、異なる条件のサンプル間で精密に評価しても、デバイスを構成する核材料の界面設計に反映することが困難でした。

研究の内容

菅原教授らの研究グループは、異なる材料間の界面での接触抵抗を直接比較するため、サンプルサイズの設計条件に依存することのない新たな接触抵抗評価手法『Advanced TLM』を開発しました。これにより、半導体と金属材料の界面での接触抵抗を精密に測定し、同じ半導体と金属の組み合わせでも、温度や使用環境に依存して、接触抵抗値に差異が生じることを明らかにしました。この評価手法を用いることで、半導体/金属材料間の界面での接触抵抗を物性値(物理量)として比較することができます。

本研究では、異なる厚みの代表的な化合物半導体(Bi2Te3系)と拡散バリア金属(Ti, Cr, Ni)を接合した189種類のサンプルを作製しました(図1, 図2)。この異なる界面材料のサンプルを常温(25℃)から高温(105℃)までの温度範囲で調節し、接触抵抗の温度依存性や熱的信頼性を評価しました。

その結果、拡散バリア金属の種類に関わらず、半導体/金属界面の接触抵抗値は温度上昇とともに増大しました(図3)。この結果は、どんな半導体/金属界面でも温度が増大すれば、接触抵抗が増大する可能性を示しています。また、拡散バリア金属のチタン(Ti)と比較して、ニッケル(Ni)は、温度の増大に対する接触抵抗の増加率が小さくなることが明らかになりました。これは、電子デバイスの拡散バリア金属として、Tiと比較してNiが高温での使用に適している可能性を示唆しています。

この結果は、半導体材料の違いや温度条件、使用環境などに従って、最適なバリア金属の組み合わせが存在することを示唆しており、本手法(Advanced TLM)を活用することで、さまざまな半導体を使用した次世代半導体デバイスの最適な拡散バリア金属を提案することが可能であり、変換効率や熱的信頼性に優れた半導体デバイスを実現できる可能性を示しています。

20250326_2_1.png

図1. 熱電半導体と金属材料間の界面での接触抵抗を評価するためのサンプル(外観写真)。

20250326_2_2.png

図2. 接触抵抗評価用サンプルの設計図。(a)膜厚方向の材料と各膜厚設計条件。(b)平面方向の設計サイズ条件と半導体の膜厚。

20250326_2_3.png

図3. (a)Advanced TLMを用いて測定した抵抗率プロット(界面における材料と温度特性が顕著に現れている)。(b) 図3(a)から得られた接触抵抗値の温度依存性。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で開発したAdvanced TLMは、従来の接触抵抗の評価手法が抱えていた課題を克服し、異なるサイズ条件・材料の接触抵抗を直接比較することを可能にしました。また、半導体と金属材料の界面での材料特性や温度依存性を精密に評価することにより、半導体デバイスの各利用環境に最適な界面材料の組み合わせの探索を可能にし、材料の界面における電流輸送が効率化され、高い信頼性を有する次世代半導体デバイスの開発につながると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年3月26日(水)0時00分(日本時間)に米国科学誌「AIP Advances」(オンライン)に掲載されました。

・タイトル:“Interface Optimization for Low-Contact Resistance between Bismuth Telluride and Barrier Metals in Thermoelectric Generation Devices”
・著者名:Akihiro Katsura1,2, Maki Tsurumoto1,2, Aiji Suetake2, Yukiko Hirose1, Daniele Micucci3*, Tohru Sugahara1,2
・著者所属:1. 京都工芸繊維大学, 2. 大阪大学産業科学研究所, 3. トリノ工科大学
* Daniele Micucci 氏は、トリノ工科大学Stefania Specchia氏の研究グループの修士課程の学生
・DOI:10.1063/5.0253218
https://doi.org/10.1063/5.0253218

なお、本研究は、科研費基盤研究(B)(21H01638, 22H03558)、基盤研究(C)(21K11994)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST(JP MJCR19J1)、物質・デバイス領域共同研究拠点などの支援を得て行われました。

● 特許出願に関する情報
出願番号:特願2025-047342
出願日:2025/3/21
発明名称:固有接触抵抗率の測定方法および半導体を有するエネルギー変換装置の設計方法

参考URL

京都工芸繊維大学 菅原 徹 集積材料・異相界面科学研究分野
https://kit-sugahara-lab.net

用語説明

Transfer Length Method(TLM)

半導体/金属界面の接触抵抗を評価する代表的な手法。

拡散バリア金属

隣接する材料間での原子やイオンの拡散を防止し、界面の安定性を確保するために用いられる金属。