わずか5つの質問で簡便にフレイルを判定可能に。
年齢と4つの自覚症状から分かる診断尺度 「Japan Frailty Scale(JFS)」
研究成果のポイント
・介護前段階を意味するフレイル判定を5つの質問項目で判定できるスケールJapan Frailty Scale(JFS)を開発した。
・これまで、フレイルの判定には握力や歩行スピードなどを測定し、25項目の質問を使って、医療者が判断するものだったが、 JFSにより年齢と4つの自覚症状(夜間頻尿・腰痛・下肢の冷え・体のだるさ)でフレイルとプレフレイル状態を判定できるようになった。
・簡便な質問に答えてもらうだけでフレイルとプレフレイルが判定でき、対象患者を容易に拾い上げることで、フレイル予防対策に大きく貢献できる。
概要
大阪大学大学院医学系研究科先進融合医学共同研究講座(共同研究講座:株式会社ツムラ)の、江頭隆一郎 特任助教(常勤)、萩原圭祐 特任教授(常勤)らの研究グループは、この度、患者さんに負担のかからない簡易な質問で、フレイルまたはプレフレイル状態を判定できる診断尺度の開発に成功しました。
これまで、フレイルやそれに類似する状態の判定には、握力や歩行速度の測定や、25項目に及ぶ基本チェックリストと呼ばれる問診等が使用されてきました。
今回、萩原特任教授(常勤)らの研究グループは、漢方の腎虚(図1)の考え方を基にした新たな評価尺度を作成し、奈良県生駒郡三郷町の65歳以上の高齢者433名、吹田市の65歳以上患者さん276名、合計709名を対象にその検証を実施しました。その結果、これまでのフレイルの診断で用いられてきた25項目からなる「基本チェックリスト」の代わりに、わずか5項目の質問からなるJapan Frailty Scale (JFS)で、簡便にフレイルまたはプレフレイルの判定ができることを明らかにしました。
本研究成果は、米国科学誌「GENE」に、9月5日(月)(日本時間)に公開されました。
研究の背景
超高齢社会を迎える我が国では、介護・寝たきりの対策が急務の課題となっています。フレイルとは、介護前段階を意味し、加齢による筋力・筋肉量の低下を意味するサルコペニアなどを特徴とする身体的フレイル、うつや認知症などの精神的フレイル、孤独や閉じこもりからなる社会的フレイルからなり、適切な介入を行えば改善すると考えられています。フレイルの判定には、厚生労働省の開発した25項目からなる基本チェックリスト(KCL)など、国内外でいくつかの指標が用いられていますが、多くの判定指標は専門家の判断や、握力や歩行スピードなど身体能力を測定し、筋肉量を評価する体組成を用いたりする必要があるために、診療時間が十分に取れない日常臨床においては、簡便に使用できないという問題点があります。
研究の内容
研究グループでは、漢方医学の腎虚の概念に基づいた8個の候補となる質問(図2)を使って、新たな評価尺度を作成し、国内外で用いられている様々なフレイルの診断指標を対照に、開発尺度の妥当性を検討しました。日本で標準的に用いられるフレイルの判定指標であるKCLに加えて、ロコモ5や日本語版フレイル基準(J-CHS)、高齢者うつ尺度、握力や歩行スピードなどの身体機能など、フレイルに関するデータを網羅的に採取し検討を行いました。結果として4つの質問(夜間頻尿・腰痛・下肢の冷え・体のだるさ)と年齢(75歳以上)からなる質問により、KCLで判定したフレイルまたはプレフレイルの状態を、奈良県三郷町の65歳以上の高齢者433名において、感度86.9%、特異度53.3%、陽性適中率62.8%、陰性適中率81.7%で診断できることを明らかにしました。吹田市の65歳以上患者さん276名においても、ほぼ同様の結果が得られたことから、その妥当性が確認されました。(図3、図4)
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
研究グループが開発したJapan Frailty Scale (JFS)により簡便にプレフレイルやフレイルに該当する患者を一定の精度で判定できることが期待されます。JFSの使用により詳細な診断により利益を受ける可能性の高い患者を見分けることができ、効率的なフレイル対策に結びつく可能性があると考えられています。
特記事項
本研究成果は、2022年9月5日(月)(日本時間)に米国科学誌「GENE」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:The Japan Frailty Scale is a promising screening test for frailty and pre-frailty in Japanese elderly people
著者名:Ryuichiro Egashira1, Tomoharu Sato2, Akimitsu Miyake3, 4, Mariko Takeuchi1, Mai Nakano1,Hitomi Saito1, Misaki Moriguchi1, Satoko Tonari1, and Keisuke Hagihara1, *
1. 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座
2. 大阪大学大学院医学系研究科 医療データ科学共同研究講座
3. 東北大学大学院医学系研究科
DOI:https://doi.org/10.1016/j.gene.2022.146775
本研究は、「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業(AMED事業)、2019年度採択課題の一環として行われました。
用語説明
- フレイル
加齢に伴う様々な生理系に関連する予備能力の低下として特徴付けられ、介護前段階を意味する。このような状態では、障害や死亡などの健康上の重大な変化が比較的軽いストレスで引き起こされることがあるとされるが、早期に介入すれば健康な状態に戻ると考えられている。
- 基本チェックリスト
Kihon checklist、すなわちKCLは、要介護度が高い、あるいは将来的に要介護になる可能性が高い患者を特定するために、日本の厚生労働省が開発した25項目の問診票である。