解明! 血管をふやす因子が殺菌能力を増強させていた

解明! 血管をふやす因子が殺菌能力を増強させていた

血管内皮細胞増殖因子の新たな役割

2022-8-2生命科学・医学系
歯学研究科教授野田健司

お読みいただく前に

  • 血管内皮細胞は血管の内側面を覆う細胞で、血管の障壁とともに血管機能の調節に働きます。
  • 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は血管の内皮細胞に働きかけ、血管の新生を促します。

研究成果のポイント

  • 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の新しい役割として「殺菌作用の増強効果」があることを発見
  • これまで血管内皮細胞はオートファジーなどによる殺菌作用が低いと考えられていた
  • 重篤な細菌感染症の治療にVEGF経路が標的となりうる可能性

概要

大阪大学大学院歯学研究科のShiou-Ling Lu(ル ショオリン)助教、野田健司教授らの研究グループは、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が血管内皮細胞においてオートファジーなどによる殺菌能力を増強する効果があることを発見しました。(右図) 本研究成果は、2022年7月5日(火)に米国科学誌「mBio」にオンライン公開されました。

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VEGF量が少ないと血管内皮細胞のオートファジーやリソソームによる殺菌能力が低く、細菌が細胞内で増殖する(左)。多いと、殺菌能力が増強し、細菌が殺菌される(右)。

研究の背景

オートファジーは、細胞自らの構成成分を分解するしくみですが、それに加えて細胞内に侵入した病原菌も分解することで感染防御に関わります。血管の内側面をかたちづくる血管内皮細胞は、血管内に侵入してきた病原菌のさらなる伝播に対する障壁としての役割がありますが、一方Lu助教等は以前、血管内皮細胞はそこに侵入してくる細菌に対して、オートファジーによる除菌能力が他の細胞に比べて極めて乏しいという奇妙な現象を報告していました (PLOS pathogens, 2017)。今回の研究では、その背景として血管新生の促進をはじめ様々な血管機能と関わるタンパク質である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に注目しました。

研究の内容

この研究では、上気道炎、化膿性皮膚感染症、さらには劇症型溶血性レンサ球菌感染症を引き起こすA群溶血性レンサ球菌が血管内皮細胞に感染した際、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を添加することで、TFEB転写因子を活性化し、オートファジーとリソソームの活性を増強し、細菌の効率的な死滅につながることを明らかにしました (下図)。

生体中では、A群溶血性レンサ球菌が皮膚などに局所的に感染した時に、血管内皮増殖因子(VEGF)が免疫細胞などから分泌されることで、血管内皮増殖因子(VEGF)は局所的に上昇します。しかし、マウスモデルとヒト患者において、全身に感染がおよぶ重篤な敗血症では、血中の血管内皮細胞増殖因子(VEGF)濃度が低いという逆の相関を示しました。そのとき血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を血中投与すると、敗血症モデルマウスの生存率が上昇しました。

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図. 血管内皮細胞内のA群レンサ球菌の電子顕微鏡写真
• 左:VEGF処理なし内皮細胞において、レンサ球菌が分裂して隔壁を形成し、細胞内で増殖する
• 右:VEGF処理した内皮細胞において、多数のリソソーム(L)は、レンサ球菌周囲に集まり、オートファジーを示す隔離膜(IM)やオートリソソーム(AL)に囲まれている

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

A群溶血性レンサ球菌感染時の治療として、内皮細胞自身の殺菌作用を増強させるVEGF信号伝達経路が新たな治療標的となりうる可能性が示されました。

特記事項

本研究成果は、2022年7月5日(火)に米国科学誌「mBio」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“VEGF-Mediated Augmentation of Autophagic and Lysosomal Activity in Endothelial Cells Defends against Intracellular Streptococcus pyogene
DOI:https://journals.asm.org/doi/10.1128/mbio.01233-22
著者名:Shiou-Ling Lua, Hiroko Omorib, Yi Zhoua, Yee-Shin Linc,d, Ching-Chuan Liud,e, Jiunn-Jong Wuf, Takeshi Nodaa,g *

a大阪大学 大学院歯学研究科 口腔フロンティアセンター
b大阪大学 微生物病研究所
c College of Medicine, National Cheng Kung University, Tainan, Taiwan
d National Cheng Kung University, Tainan, Taiwan
e College of Medicine, National Cheng Kung University, Tainan, Taiwan
f College of Biomedical Science and Engineering, National Yang Ming Chiao Tung University, Taipei, Taiwan
g 大阪大学 生命機能研究科(兼任)(*責任著者)

なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金(学振PD No. P16119;科研費Start-up,18H06308, 19K21395)のサポートで行われ、大阪大学微生物病研究所の協力を得て行われました。また、本研究は台湾国立成功大学(National Cheng Kung University) Ching-Chuan LiuとYee-Shin Lin 教授と台湾国立陽明交通大学Jiunn-Jong Wu教授の国際共同研究の成果になります。

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を