ダッタン蕎麦の成分ケルセチンにより タンパク質凝集体のオートファジーによる分解が促進することを解明

ダッタン蕎麦の成分ケルセチンにより タンパク質凝集体のオートファジーによる分解が促進することを解明

2021-8-6生命科学・医学系
歯学研究科教授野田健司

研究成果のポイント

  • ダッタン蕎麦の成分ケルセチンによりタンパク質凝集体オートファジーによる分解が促進することを発見
  • 薬用酒にふくまれる生薬成分のオートファジーへの影響を調べることで見つかった
  • 肝障害やアルツハイマー病などへの応用に期待

概要

大阪大学大学院歯学研究科の碇純子元特任研究員(研究当時。現在は京都大学大学院医学研究科の特任研究員)、Lu Shiou-Ling(ル ショオリン)特任助教(常勤)、野田健司教授らの研究グループは、ダッタン蕎麦の成分ケルセチンによりタンパク質凝集体のオートファジーによる分解が促進することを明らかにしました。これまでダッタン蕎麦は、その健康増進効果に注目されてきましたが、その作用機序は未解明で多くの研究がされています。

今回、野田教授らの研究グループは薬用酒にふくまれる生薬成分のオートファジーへの影響を調べることでダッタン蕎麦の成分ケルセチンによりタンパク質凝集体のオートファジーによる分解が促進することを明らかにしました。

これにより、ダッタン蕎麦をはじめとするケルセチンを含む食品の健康増進への作用機序が明らかにされることが期待されます。

本研究成果は、スイス科学誌「Antioxidants」に、2021年7月29日に公開されました。

20210806_2_fig1.png

図1. ダッタン蕎麦成分ケルセチンがアグリファジーを亢進する

研究の背景

ダッタン蕎麦は、中国四川省の標高4000m近くに住む彝(い)族などが主食とし、いわゆる日本そばなどとともにソバ属に分類されます。日本そばと比べて苦味があり、別名、苦ソバとも呼ばれます。彝(い)族は生活習慣病の発症率が極めて低い健康な民族であることが知られていますが、その要因としてダッタン蕎麦に注目が集まっています。その機序に関して様々研究がありますが、その作用標的に関してはまだ議論が続いています。

研究の内容

野田教授らの研究グループでは、中国の薬用酒の一種、毛舗苦蕎酒の生薬成分のうちダッタン蕎麦のアルコール抽出液にオートファジー誘導活性があることを見出しました。特に日本そばに比べ多く含まれているポリフェノールの一種、ケルセチンにその作用があることを示しました。

さらに、それらにはタンパク質凝集体に対する選択的オートファジーであるアグリファジー促進活性があることを示しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、ダッタン蕎麦の健康増進作用のうち、少なくとも一部がオートファジー、とくにアグリファジーの亢進を担う可能性が期待されます。アルコール性肝障害や非アルコール性脂肪性肝炎の進行にはタンパク質凝集体の一種であるMallory-Denk 体の形成が伴うことが知られています。またアルツハイマー病やハンチントン病などでは、中枢神経細胞にタンパク質凝集体が蓄積します。ダッタン蕎麦やダッタン蕎麦茶の摂取により、これらの病気の克服に有効であることを示す研究の進展が期待されます。またケルセチンは玉ねぎやブロッコリー等多くの野菜にも含まれており、その効用も注目されます。

特記事項

本研究成果は、2021年7月29日にスイス科学誌「Antioxidants」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Quercetin in Tartary Buckwheat Induces Autophagy against Protein Aggregations”
著者名:Ikari, S.; Yang, Q.; Lu, S.-L.; Liu, Y.; Hao, F.; Tong, G.; Lu, S.; Noda, T.
Antioxidants 2021, 10, 1217. https://doi.org/10.3390/antiox10081217
DOI:10.3390/antiox10081217

本件の検証手法は論文をご覧ください。なお本研究は、Jin Brand(中国・酒造企業)との共同研究として行われました。

参考URL

野田健司教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/98ababf5d3e38d75.html

用語説明

タンパク質凝集体

タンパク質は殆どの場合、細胞の中で水に溶けた状態で存在するが、様々な刺激や生産過程での失敗により、本来の形を取ることができず水に溶けず多数が固まった状態で存在する状態

オートファジー

細胞内で起こる現象であり、様々なタンパク質や細胞小器官の分解を行う。