生命科学・医学系

2020年6月3日

研究成果のポイント

・オートファジーの大きさ調節に関わるタンパク質ERdj8を発見。
・ERdj8はオートファゴソーム形成の起こる場所の近傍に存在し、オートファゴソームの大小に寄与することが判明した。
・オートファゴソームの大きさを調節することで、オートファジー量を変えられる可能性を示したものであり、オートファジー関連疾病の克服へ向けた新たな方向性の研究開発につながることが期待される。

概要

大阪大学大学院歯学研究科の野田健司教授および京都産業大学の永田和宏名誉教授らの研究グループは、オートファゴソームの大きさ決定に関わるタンパク質を発見しました。

オートファジーとは細胞が自分自身の成分を分解する作用のことであり、ヒトを含む動物や植物など(真核)生物が普遍的に備えているものです。分解される標的は、ミトコンドリアなどの細胞内小器官※1や細胞内に存在するタンパク質です。これらの標的がオートファゴソームという膜構造によって包まれ、それが分解場所であるリソソームに運ばれることで、最終的に分解されます。細胞内のタンパク質を包むとき、オートファゴソームの大きさはほぼ均一(直径1μm程度)ですが、それより大きなミトコンドリアを包むときにはオートファゴソームは大きくなります。今回、本研究グループの山本洋平助教(大阪大学大学院歯学研究科)は、新規タンパク質ERdj8を同定し、細胞内でのERdj8の量を増やすと、オートファゴソームが大きくなり、減らすと小さくなることを見出しました(図1)。これによりオートファジーがどのように調節されているのかについての理解が深まり、オートファジー関連疾病対策につながるものと期待されます。

図1

研究の背景

生命は階層性を持った存在ですが、その各階層の要素は一定の大きさを持つという特徴があります。ヒト個体の身長はおよそ一定の範囲内にあります。心臓や脳などの臓器の大きさも同様です。細胞の大きさもおよそ一定で、その中の構造である細胞内小器官の大きさもある程度決まっています。しかしながらオートファゴソームをはじめとする細胞内小器官の大きさがどのように決まるのか、その仕組みはわからないことが多く残されています。

小胞体※2において様々な役割を担うERdjとよばれる一連のタンパク質ファミリーを解析する中で、今回新たなERdjファミリーメンバーであるERdj8に注目しました。高解像度の顕微鏡を用いて細胞内での局在を観察したところ、ERdj8は小胞体のなかでも特異的な領域に集積していました。オートファゴソームは小胞体の近くで作られますが、ERdj8はオートファゴソームが作られる場所の近傍に存在しました。細胞内のERdj8量を人為的に増やすとオートファゴソームのサイズが大きくなりました。ERdj8の量を減らしたり、それが存在しない状態ではオートファゴソームのサイズが小さくなり、ミトコンドリアやタンパク質凝集体のほか、直径3μmのラテックスビーズなどの大きな標的を包むことができなくなりました。これらのことから、ERdj8は小胞体の特異的な領域において、オートファゴソームの『大きさ』の調節に寄与していることが明らかになりました。

本研究成果の意義

オートファジーは自分自身の構成成分を分解するため、もし過剰に起こると自らの死に直結します。すなわち必要な分だけ分解するために、その量の調節が緻密に行われていると考えられます。一方、オートファジー量の増減はガンや神経変性疾患など各種疾病の発症進行と密接に結びついています。本研究はオートファゴソームの大きさを通じてオートファジーの量が調節される可能性を示したものであり、オートファジー関連疾病の克服へ向けた新たな方向性の研究開発につながることが期待されます。

用語説明

※1 細胞内小器官
細胞内部にある膜で囲まれた様々な構造体の総称。オートファゴソーム、ミトコンドリア、小胞体、リソソームなどをいう。それぞれ固有の役割がある。

※2 小胞体
細胞内小器官の一種で、タンパク質の合成やカルシウムイオンなどの貯蔵庫として機能する。

特記事項

本研究成果は、2020年6月3日(水)に米国科学誌「Journal of Cell Biology」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“ERdj8 governs the size of autophagosomes during the formation process”

著者名:Yo-hei Yamamoto#, Ayano Kasai#, Hiroko Omori, Tomoe Takino, Munechika Sugihara, Tetsuo Umemoto, Maho Hamasaki, Tomohisa Hatta, Tohru Natsume, Richard I. Morimoto, Ritsuko Arai, Satoshi Waguri, Miyuki Sato, Ken Sato, Shoshana Bar-Nun, Tamotsu Yoshimori, Takeshi Noda* and Kazuhiro Nagata*
*は共同責任著者
#は同程度貢献した

本成果は、以下の事業・研究領域によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究代表者:京都産業大学 永田和宏
科学研究費補助金研究代表者:京都産業大学 永田和宏
研究代表者:大阪大学大学院歯学研究科 野田健司

なお、本研究は、群馬大学生体調節研究所の佐藤健教授、福島県立医科大学大学院医学研究科の和栗聡教授、大阪大学微生物病研究所の大森弘子技官、大阪大学大学院生命機能研究科の吉森保教授、国立研究開発法人 産業技術総合研究所生命工学領域の夏目徹研究センター長、テルアビブ大学のShoshana Bar-Nun 教授、ノースウエスタン大学のRichard Morimoto 教授らの協力を得て行われました。

研究者のコメント

モノにはその役割に応じてそれぞれの『大きさ』があります。今回はそのごく当たり前のことに焦点を絞り研究をおこないました。この研究により、細胞内のゴミ袋であるオートファゴソームの『大きさ』の制御に重要な因子が同定されたことによって、そのゴミ袋の『大きさ』をうまく調節することが可能となれば、細胞内に溜まった癌や神経変性疾患の原因となる異常なゴミ(異常タンパク質や異常ミトコンドリアなど)を入れるゴミ袋の『大きさ』を変えるという新しいアプローチに基づく治療法の確立に繋がることが期待されます。

参考URL

大阪大学 大学院歯学系研究科 口腔科学フロンティアセンター 先端口腔生物学教室HPhttps://web.dent.osaka-u.ac.jp/cfos/

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