柔軟材料を用いて熱の流れやすさを自在スイッチ

柔軟材料を用いて熱の流れやすさを自在スイッチ

液晶性ブロックコポリマーにより熱スイッチング温度の 自在操作を可能とする新熱スイッチ~熱利用社会へ~

2022-7-27工学系
基礎工学研究科教授中村芳明

研究成果のポイント

  • 液晶性ブロックコポリマーに含まれるナノ構造の異方性の変化を用いて熱スイッチを実現した。
  • このナノ構造の変化温度が液晶分子構造により制御可能であることを利用して、熱スイッチにおけるスイッチング温度を自在に操作することに成功した。
  • これまで熱スイッチの研究では、熱伝導率変化比ばかりに注目が集まり、スイッチング温度の自在操作を実証した例は無かった。
  • 低コスト形成できる熱制御有機材料の開発を導く本研究は、持続可能な高度熱利用社会の実現に貢献すると期待される。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の中村芳明教授、石部貴史助教、同志社大学ハリス理化学研究所の彌田智一教授(研究当時)、沼津工業高等専門学校電気電子工学科の小村元憲准教授らの研究グループは、異方性ナノ構造を含有する液晶性ブロックコポリマーを用いて、ナノ構造変化に起因した熱スイッチの観測、及びそのスイッチング温度の自在変調に世界で初めて成功しました。

熱利用の重要性が高まる中、熱スイッチは、新たな熱制御デバイスの一つとして期待されています。これまでの熱スイッチ研究では、熱伝導率変化比の増大に関する報告はありましたが、スイッチング温度の自在操作に関する実験的事例はありませんでした。

本研究グループは、異方性ナノ構造を有する液晶性ブロックコポリマーの構造変化温度が、内部の液晶分子の構造に依存することに注目し、液晶分子構造を変えることで、熱スイッチのスイッチング温度を操作することに成功しました(図1)。この成果は、将来、低コスト形成できる熱制御有機材料の開発を導き、持続可能な高度熱利用社会の実現に貢献しうるものであると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Nano Letters」に、

2022年7月27日(水)午後3時(日本時間)に公開されました。

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図1. 異なる液晶分子構造を有する2種類の液晶性ブロックコポリマー(BC-1, BC-2)の熱伝導率の温度依存性.

研究の背景

高性能なフレキシブル、低コスト電子デバイスの実現に向けて、機能性有機材料の研究が進められてきました。これらのデバイスの微細化に伴い、デバイス内の発熱問題が顕著化し、この熱を有効利用するための熱制御デバイスに注目が集まっています。その一つとして、熱伝導の促進・阻害を切り替える熱スイッチは、ここ10年で精力的に研究されてきました。

これまでの熱スイッチ研究では、様々な外的トリガーを用いた機構の提案が行われてきました。特に温度変化に基づく熱スイッチは、外的トリガーの必要ない自立的な熱スイッチと言えます。先行研究では、熱伝導率変化比の増大ばかりが注目されてきました。しかし、あらゆる使用環境に適したデバイスの実現のためには、熱伝導率変化比だけでなく、自在にスイッチング温度を変える手法の構築が必要と考えられます。

研究の内容

中村芳明教授らの研究グループは、異方性ナノ構造を含有する液晶性ブロックコポリマーに注目しました。このブロックコポリマーは、温度上昇に伴い、内部のナノシリンダーが球へと構造変化します。さらに、この構造変化温度が液晶分子側鎖のメソゲン基の種類に依存します。当研究グループは、このメソゲン基の種類を変えることで、熱スイッチのスイッチング温度を操作可能であると考え、メソゲン基の種類を変えた、各々360K、390Kの構造変化温度を示す2種類のブロックコポリマーを用意しました。これらの熱伝導率を測定したところ、構造の異方性変化に対応してそれぞれ異なるスイッチング温度で、熱伝導率が変化することを両試料で観測しました。本成果は、分子構造制御によるスイッチング温度操作の新方法論を提示するものと言えます。

さらに、熱伝導率の絶対値変化比は、ブロックコポリマー内部のナノ構造の異方性、及びナノ構造界面での散乱現象に基づくことを理論的に明らかにしました。これは、有機材料中の熱輸送物理に新たな知見を与える成果と言えます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で実証した熱スイッチのスイッチング温度の自在操作法は、スイッチング温度が分子構造に依存すれば適用できるため汎用性が高く、今後の熱スイッチ研究に大いに活かされると予想されます。将来的には、本研究成果は、低コスト形成できる熱制御有機材料の開発を導き、持続可能な高度熱利用社会の実現に貢献すると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年7月27日(水)午後3時(日本時間)に米国科学誌「Nano Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Tunable Thermal Switch via Order-Order Transition in Liquid Crystalline Block Copolymer”
著者名:Takafumi Ishibe, Tatsuya Kaneko, Yuto Uematsu, Hideo Sato-Akaba, Motonori Komura, Tomokazu Iyoda, and Yoshiaki Nakamura
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.2c01100

参考URL

中村芳明教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/d005d615e4f0dfd1.html

中村芳明教授 研究室
http://www.adv.ee.es.osaka-u.ac.jp/

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

液晶性ブロックコポリマー

各モノマーが各々長く連続する複数の領域を持つポリマー(ブロックコポリマー)の一部が液晶分子から構成されたもの。ミクロ相分離により規則的なナノ構造体が自己組織化する。

熱スイッチ

ある閾値を境に熱伝導率の値が変化する熱制御素子。

メソゲン基

液晶性発現のもとになる剛直な部位。