工学系

2018年10月31日

研究成果のポイント

・革新的エネルギー源の一つとして、室内外を隔てる窓ガラスの温度差を利用した熱電発電が期待されている。
・安価で環境に調和した高性能の透明熱電材料が必要とされている。
・安価・無毒な透明ZnO材料にナノワイヤを入れるだけで、熱電変換出力因子を3倍増大することに成功した。
・世間にありふれるガラス・透明デバイスに貼り付けることで未利用熱を電気として回収できる透明熱電変換素子の開発が期待できる。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の中村芳明教授らの研究グループは、表面処理したZnO※1ナノワイヤ※2を薄膜中に導入することで、材料の透明性を維持したまま、熱電変換出力因子※3を3倍増大し、かつ熱伝導率を低減することに世界で初めて成功しました。

これまで、廃熱を電気エネルギーに変換可能な熱電材料の開発には、高価・有毒な重元素材料が用いられてきたため、社会利用が困難なものとなってきました。

今回、中村教授らの研究グループは、安価・無毒なZnOに注目し、ZnOナノワイヤをZnO薄膜中に導入した独自ナノ構造を世界で初めて開発しました。そのナノワイヤ界面のエネルギー障壁を意図的に制御することにより、熱電変換出力因子の増大が可能となり、さらに、ナノワイヤの界面でのフォノン※4散乱により、熱伝導率を低減することに成功しました。

これにより、可視光領域で透明で、環境調和性の高いユビキタス元素※5として知られるZnOを用いた高性能透明熱電材料の実現が期待できます。我々が暮らす社会には、窓ガラスや透明電子デバイスなどの透明材料が至る所に使用されているため、そこから得られる熱を電気エネルギーに変換可能な透明熱電材料は、社会利用価値の高いものと言え、広範な利用が期待されます。

本研究成果は、2018年10月10日(水)(米国時間)に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に公開されました。

研究の背景と経緯

社会の未利用熱からエネルギー回収する方法の一つとして熱電発電が注目されています。その中で室内外の温度差を有する窓ガラスを熱源とした透明熱電発電デバイスの実現が期待されており、高性能な透明熱電材料の開発が必要とされています。熱電材料には、高いゼーベック係数※6と電気伝導率、低い熱伝導率を有することが求められますが、それぞれの物性値に相関があるため、熱電性能の高性能化は困難でした。従来、低い熱伝導率を有する重元素材料を用いた高性能熱電材料開発が進められてきましたが、重元素は高価で有毒であるため、社会利用が困難でした。近年、ナノ構造導入による熱伝導率の低減技術が報告され、重元素を用いず高性能化できる可能性がでてきました。そのため、従来低い性能のため注目されていなかった、安価・無毒な軽元素材料が熱電材料の候補となりました。しかしながら、ナノ構造導入は、熱伝導率の低減には効果的ですが、電子伝導にも影響を及ぼすため、熱電変換出力因子を低下させてしまうという課題がありました。

研究の内容

中村教授らのグループは、安価・無毒なZnOをターゲット材料として、ZnOナノワイヤをZnO薄膜中に埋め込んだ構造を世界で初めて作製しました(図1)。このZnOは、可視光領域で透明であるため、透明材料の熱を電気に変換可能な透明熱電材料としての応用が期待できます。本構造において、ZnOナノワイヤの作る界面のドーパント※7濃度を変化させることによって、界面に高いエネルギー障壁を設けます。これにより、低いエネルギーの電子を散乱し、高いエネルギーの電子を選択的に通過させることで、ゼーベック係数の増大が可能となります。また、その界面の結晶方位をそろえて作製しているため、高いエネルギーの電子をスムーズに輸送することで、高い電気伝導率が期待できます。一方、その界面ではフォノンの散乱が促進されるため、熱伝導率の低減も期待できます(図2)

ナノワイヤを埋め込んだ薄膜試料を透過型電子顕微鏡法※8を用いて観察した結果、戦略通り、ナノワイヤの作る界面で急激なドーパント濃度の変調を確認しました。熱電特性を測定した結果、4×109cm-2以上のナノワイヤ面密度を有する構造は、ナノワイヤを導入していない薄膜と比較して、約3倍の熱電変換出力因子を示すことを見出しました(図3)。この熱電変換出力因子増大の機構を調べるために、低温下においてゼーベック係数と電子移動度の測定を行った結果、界面でのエネルギー障壁に起因する特異な挙動を観測しました。電子輸送の理論を用いて解析した結果、数十meVのエネルギー障壁が界面に存在し、高いエネルギーの電子のみ選択的にその界面をスムーズに通過できるため、熱電変換出力因子が増大したということがわかりました。また、ナノワイヤ導入によりフォノン散乱が促進し、結果、熱伝導率が20%低減していることを確認しました。これらの結果は、これまで難しいとされてきた熱電変換出力因子増大と熱伝導率低減の同時実現に成功したことを意味します。さらに、本構造の可視光領域での光透過率は約60%に達することが確認され、これはビルの窓ガラスに匹敵する数値であることも分かりました(図4)

図1 ZnOナノワイヤを埋め込んだ薄膜の断面走査型電子顕微鏡像.
走査型電子顕微鏡法※9により観察した、直径約100nmのZnOナノワイヤを薄膜中に埋め込んだ構造.

図2 ナノワイヤを埋め込んだ透明薄膜における電子伝導とフォノン伝導の概念図.
透明材料において、低エネルギー電子、フォノンをナノワイヤ界面で散乱させ、高エネルギー電子を選択的に通過させることで、熱電変換出力因子増大と熱伝導率低減を実現.

図3 ZnOナノワイヤを埋め込むことによる熱電変換出力因子増大.
ZnOナノワイヤを埋め込むことで熱電変換出力因子を3倍増大.

図4 ZnOナノワイヤを用いた透明熱電材料.
ZnOナノワイヤを薄膜中に埋め込んだ構造の可視光領域での透明性を確認.

今後の展開

今後、本ZnOナノワイヤをZnO薄膜中に埋め込んだ構造におけるナノワイヤ面密度を増大させることにより、熱伝導率をさらに低減できる可能性があります。これにより、さらなる性能向上が実現されれば、本熱電材料は安価・無毒な環境にやさしいZnOのみで構成されているため、容易に社会利用ができるものと思われます。さらに、本“ドーパント濃度制御により、界面のエネルギー障壁を操作する”という独自概念は、材料に依存しないため、ZnOにとらわれず様々な材料への適用が期待され、熱電材料開発を加速することができると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2018年10月10日(水)(米国時間)に米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に公開されました。
タイトル:“Methodology of Thermoelectric Power Factor Enhancement by Controlling Nanowire Interface”
著者名:T. Ishibe, A. Tomeda, K. Watanabe, Y. Kamakura, N. Mori, N. Naruse, Y. Mera, Y. Yamashita, and Y. Nakamura

本研究は、大阪大学大学院基礎工学研究科石部貴史助教、同大学院工学研究科鎌倉良成准教授、同大学院工学研究科森伸也教授、滋賀医科大学成瀬延康准教授、目良裕教授、産業技術総合研究所山下雄一郎主任研究員、東北大学渡辺健太郎准教授の支援を得て行いました。

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製(研究総括:瀬戸山亨)」の研究課題「ナノ超空間を利用した熱・スピン・電界交差相関による高効率エネルギー変換材料の創製(研究代表:水口将輝)」の一環として行われました。また、その成果の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(A)(16H02078)の補助を受けて行われました。

用語説明

※1 ZnO
酸化亜鉛の化学式。

※2 ナノワイヤ
直径がナノメートルオーダーの物質構造。

※3 熱電変換出力因子
ゼーベック係数の2乗と電気伝導率を掛け合わせた値。値が大きいほど熱電変換効率が高くなります。

※4 フォノン
結晶中での格子振動を量子化した粒子。熱を運びます。

※5 ユビキタス元素
地球上にありふれた環境調和性の高い元素。

※6 ゼーベック係数
温度差が起電力に直接変換される現象をゼーベック効果といい、その際の単位温度あたりに発生する起電力。

※7 ドーパント
半導体に添加される不純物。

※8 透過型電子顕微鏡法
試料に電子線を照射し、透過してきた電子を用いて観察する電子顕微鏡法。

※9 走査型電子顕微鏡法
試料に電子線を照射し、放出される二次電子等を用いて観察する電子顕微鏡法。

参考URL

大阪大学 大学院基礎工学研究科 システム創成専攻 電子光科学領域
http://www.adv.ee.es.osaka-u.ac.jp/

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