HPV ワクチン接種率の激減によって増加する子宮頸がん罹患・死亡者の推計人数

ワクチン接種の積極的勧奨の再開の必要性を提示

2020-10-21生命科学・医学系

研究成果のポイント

・HPV(Human papillomavirus:ヒトパピローマウイルス)ワクチン積極的勧奨の差し控えに伴い接種率が減少したことによる、生まれ年度ごとの子宮頸がん罹患者・死亡者増加数を推計した。
・すでに2000~2003年度生まれの女子のほとんどは接種しないまま対象年齢を越え、将来の罹患者の増加は合計約17,000人、死亡者の増加は合計約4,000人である可能性が示唆された。
・一刻も早いHPVワクチンの積極的勧奨の再開に加えて、接種率が減少している2000年度以降の生まれの女子への子宮頸がん対策の必要性を示した。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の八木麻未特任助教(常勤)・上田豊講師(産科学婦人科学)らの研究グループは、HPVワクチンの接種率が減少したことにより、2000年度以降生まれの日本女性の将来の子宮頸がん罹患者・死亡者数増加の可能性を具体的な数値として示しました。

日本では、副反応への懸念から、2013年6月以降、厚生労働省による積極的勧奨が差し控えられた状態が続いており、2000年度以降生まれのHPVワクチン接種率が激減しています。今回、研究グループは、2000年度以降生まれの日本女性の将来の子宮頸がん罹患・死亡相対リスクを予測し、生まれ年度ごとの罹患者・死亡者増加数を推計しました。その結果、接種率が低いまま定期接種対象年齢を越えた2000~2003年度生まれの女子においては、将来の罹患増加は合計約17,000人、死亡増加は合計約4,000人と推計されました (図1) 。これらは、定期接種対象年齢をこえたため、推計数値として確定したものです。また、本来HPVワクチンによって子宮頸がんを予防出来たはずが、ワクチン接種が行われていないために増加した数と言えます。仮に、積極的勧奨が再開される場合、勧奨差し控え期間に接種対象年齢であったにも関わらず接種を見送った女子にも接種の機会を提供することで、増加数を抑えることができます。ただし、勧奨再開までに性交渉を持ちHPVに感染してしまう女性の存在が想定されるため、増加数をゼロにすることはできません。そのため、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化なども必要と考えられます。ワクチンの安全性についてはすでに報告されているため、今回の研究により、一刻も早いHPVワクチン接種の積極的勧奨の再開及び接種を見送った女子への子宮頸がん対策の必要性が示されました。

本研究成果は、2020年9月29日に自然科学のオンラインジャーナル「Scientific Reports」で公開されました。

図1 積極的勧奨一時中止継続に伴う接種率の減少による生まれ年度ごとの子宮頸がん罹患者増加数(推計)
2019年度までに積極的勧奨が再開されなかったことにより、2000~2003年度生まれにおける子宮頸がん罹患者増加数が確定した。現在(2020年度)、2004年度以降生まれにおける子宮頸がん罹患者増加数が確定していっており、特に2004年度生まれで推計4387人の増加が確定しつつある。

研究の背景

子宮頸がんは女性特有のがんであり、若い女性に多く発症します。毎年約9,000人が新たに子宮頸がんと診断され、約2,000~3,000人が子宮頸がんで亡くなっています。この子宮頸がんの主な発症要因としてHPVの感染が挙げられ、感染を防ぐためには、HPVワクチンが有効であることがわかっています。日本では2010年度から13歳~16歳を対象とした公費助成が開始され、2013年4月からは12~16歳を対象とした定期接種となりました。しかしながら、副反応への懸念から、同年6月以降、厚生労働省による積極的勧奨が差し控えられた状態が続いています。HPVワクチンの安全性については、厚労省の祖父江班の調査にて、ワクチンを接種していない女子においても、接種者に見られる症状と同様の多様な症状が認められることが示され(厚生科学審議会資料)、また、名古屋市の調査では、ワクチン接種との関連が懸念された24種類の多様な症状が、接種者と非接種者で頻度に有意な差が認められなかったことが報告されています(Suzuki et al. Papillomavirus Res., 2018)。

研究グループは、日本における生まれ年度ごとのワクチン接種率を算出し、明らかにしています (図2) 。その結果、2000年度以降生まれのHPVワクチン接種率は激減していました。特に、2000~2003年度生まれの女子は接種率が激減したまま定期接種対象年齢を越えており、2004年度生まれにおいては今年度が定期接種の最終年度になっています。また、これまでに、HPVワクチンの積極的勧奨中止による弊害として、接種を見送った女子の将来のHPV感染リスク及び子宮頸がん発症リスクが高くなることを報告していますが、具体的な子宮頸がん罹患者・死亡者数を推計した報告はありませんでした。

図2 HPVワクチンの接種率(地域保健・健康増進事業報告および国税調査から算出)
第16回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成27年度第6回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の資料で公表されている推計方法においては市町村との実数調査と乖離しており、地域保健・健康増進事業報告および国税調査のデータをもとに再計算を行った。2000年度生まれの接種率は14.3%、2005年生まれ以降はさらに減少している。
Nakagawa S et al. Cancer Sci, 111:2156-2162, 2020.

本研究の成果

今回、本研究グループでは、HPVワクチンの積極的勧奨一時差し控えの継続による接種率の激減によって増加した、子宮頸がん罹患・死亡の推計人数を算出し、以下の知見を得ました。

まず、ワクチン導入前世代の1993年度生まれのリスクを1として、生まれ年度ごとの子宮頸がんの罹患・死亡相対リスクを算出しました。また、予備調査にて、接種率が激減している生まれ年度の女子において、健康意識や子宮頸がん検診受診の意向が高まっていなかったため、未接種で性交渉をもった時点で将来の子宮頸がん罹患・死亡のリスクが確定すると仮定しています。なお、ワクチンは日々均等に接種されていたものとしています。生まれ年度ごとのHPVワクチン累積初回接種率は地域保健・健康増進事業報告および国税調査から算出した値を用いました(Nakagawa S et al. Cancer Sci, 111:2156-2162, 2020)。接種世代である1994~1999年度生まれにおいて、リスクが下がっていることが確認できました (図3) 。一方で、2000年度以降生まれでは、リスクが増加していました。積極的勧奨の一時差し控えがなかった場合、リスクは1999年度生まれと同じままで推移していくはずでしたが、勧奨差し控えによって接種率が激減したためにリスクが増加しています。そのため、増加分は勧奨差し控えによって増加する(可能性のある)リスクと言えます。

次に、増加したリスクについて、どの時点で確定していくか検証した結果を示します (図1) 。2000~2003年度生まれはすでに計約17,000人の罹患者数増加が確定しています。2004年度生まれにおいては、昨年度までに274人の子宮頸がん罹患増加数が確定しており、今年度中に接種率が回復しない場合、4,387人増え、合計4,661人の罹患増加が確定します。

さらに、死亡者数においても同様に算出すると、2000~2003年度生まれはすでに計約4,000人の死亡者数増加が確定しています。昨年度までに、2004年度生まれの女子においては68人の子宮頸がん死亡者数増加が確定しており、今年度中に接種率が回復しない場合、1,086人増え、合計1,154人の死亡者数増加が確定します。

最後に、HPVワクチンが日々均等に接種されると仮定して、積極的勧奨差し控えにより今年度に確定しつつある将来の子宮頸がん罹患・死亡者増加数の増加について月日単位で算出しました (図4) 。今年度、2004年度生まれの女子は接種対象の最終年度であり、1日あたり12人の子宮頸がん罹患者数増加および1日あたり3人の死亡者数増加が確定していっています。積極的勧奨が2021年度にも再開されなければ、次は2005年度生まれにおいて2004年度生まれと同様の罹患者・死亡者数増加数が確定していくことになります。

図3 将来の子宮頸がん罹患・死亡相対リスクの予測
1993年度生まれの女子の子宮頸がん発症・死亡の将来リスクを1とした(これらの女性は、2010年度の公費助成開始時にHPVワクチン接種の対象年齢を超えていた(17歳以上)ため、接種率を0%とした)。

図4 積極的勧奨一時中止継続に伴う接種率の減少による生まれ年度ごとの年月日単位の子宮頸がん罹患・死亡者増加数(推計)
現在(2020年度)、2004年度生まれにおいて、1日あたり12人の子宮頸がん罹患増加および1日あたり3人の死亡増加が確定しつつある。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究にて、HPVワクチンの積極的勧奨一時差し控え継続の弊害が具体的に明らかとなりました。すなわち、HPVワクチンが広く接種された1994~1999年度生まれの女子に比べて、2000年度以降の生まれの女子においては子宮頸がん罹患者数・死亡者の著しい増加が見込まれます。これによって、日本における今後の子宮頸がん対策として望まれる施策も自ずと明らかとなりました。すなわち、一刻も早いHPVワクチンの積極的勧奨再開、接種を見送り対象年齢を越えた女子へのキャッチアップ接種の機会の提供や子宮頸がん検診の受診勧奨の強化などです。

特記事項

本研究成果は、9月29日(火)、自然科学のオンラインジャーナル「Scientific Reports」に公開されました。

【タイトル】 "Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan’s current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine."
【著者名】 Yagi A 1 , Ueda Y 1,* , Nakagawa S 1 , Ikeda S 2 , Tanaka Y 1 , Sekine M 3 , Miyagi E 4 , Enomoto T 3 , Kimura T 1 (*:責任著者)
【所 属】
1. 大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科学
2. 国立がん研究センター がん対策情報センター
3. 新潟大学大学院医歯学系研究科 産科婦人科学 4.横浜市立大学大学院医学系研究科 産婦人科学 生殖成育病態医学

なお、本研究は、厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)の一環として行われました。

研究者のコメント

八木麻未特任助教(常勤)

日本において増加している子宮頸がんは、本来、HPVワクチンと子宮頸がん検診によってそのほとんどが予防可能です。しかし、子宮頸がん検診の受診率は低く、またHPVワクチンも積極的勧奨差し控えによる接種率の激減による罹患・死亡増が生まれつつあることが示されました。オーストラリアでは、子宮頸がんの排除が近い将来達成されることが数理モデルによって示されています。今後諸外国においても同様の傾向が予想されますが、このままでは日本は取り残されてしまいます。一刻も早い子宮頸がん予防施策の改善が強く求められます。

参考URL

医学系研究科 産科学婦人科学教室HP
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gyne/www/