子宮頸がん予防ワクチンの接種勧奨一時中止の継続に伴うHPV感染の生まれ年度による格差

子宮頸がん予防ワクチンの接種勧奨一時中止の継続に伴うHPV感染の生まれ年度による格差

2016-7-19

本研究成果のポイント

・子宮頸がん予防ワクチンの接種勧奨の一時中止に伴う影響を、各年度でのワクチン接種率をもとに算出し、HPV感染リスクが生まれ年度によって大きく異なる可能性を明らかにした。
・日本では2010年度から公費助成、2013年4月から定期接種が始まったが、副反応とされる多様な症状の出現の影響でワクチン接種の勧奨が一時中止された状態が続いており、生まれ年度によってワクチン接種率に大きな差が生じていることが問題視されている。
・今後、ワクチン接種の勧奨再開をできるだけ早期に行うこと、および、再開の際に接種勧奨中止期間に接種対象年齢だった女性にも接種対象を拡げることで、感染リスクを抑えられる可能性がある。

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座(産科学婦人科学)の田中佑典医員と上田豊助教らの研究グループは、1993年度から2008年度生まれの日本女性の20歳時のHPV16・18型 感染リスクを生まれ年度ごとに算出し、勧奨再開が1年遅れるごとにHPV16・18型の感染率の著明に高い集団が生じ、HPV感染リスクが生まれ年度によって大きく異なる可能性があることを明らかにしました (図) 。

子宮頸がんの原因となるHPV16・18型の感染は、子宮頸がん予防ワクチンの接種により防ぐことができます。日本では2013年4月から12-16歳を対象とした定期接種が始まりました。しかしながら、同年6月以降、副反応とされる多様な症状の出現の影響で厚生労働省によるワクチン接種の勧奨が一時中止された状態が続いており、その結果、生まれ年度によってワクチンの接種率に大きな差が生じていることが、問題視されていました。

今後仮に勧奨再開を行う場合は、勧奨中止期間に接種対象年齢であったにも関わらず接種を見送った人にも接種の機会を提供することで、リスク上昇を抑えることができます。

本研究成果は、英医学誌「The Lancet Oncology」2016年7月号(6月29日オンライン版)に掲載されました。

図 生まれ年度とHPV感染リスクの分析結果

研究の内容

1993年度生まれの少女の20歳時のHPV16/18陽性率を1としてグラフを作成しました。各生まれ年度の少女の20歳時のHPV感染率(対1993年度生まれ)を算出するにあたり、以下のような仮定を行いました。

(1)HPV感染率は、各年度生まれの女性において、ワクチンを接種していない状態で性交渉を経験した割合に比例
(2)20歳・19歳・18歳・17歳・16歳・15歳・14歳・13歳・12歳における性交渉の経験率はそれぞれ65%・55%・42%・25%・15%・5%・2%・1%・0%
(3)ワクチン接種の勧奨がなされていた時期(2010年度・2013年度・勧奨再開年度を除く)においては、少女らは接種対象年齢のうち最も若い年齢でワクチンを接種
(4)2010年度の13歳・14歳・15歳・16歳のワクチン接種率はいずれも70%
(5)2013年度の12歳・13歳においてはワクチン接種率はそれぞれ1%・4%
(6)ワクチン接種勧奨再開後の累積接種率は70%
(7)ワクチン接種の有無と性交渉経験率との間に相関関係はなく、互いに独立
この結果、 図 の分析結果が得られました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果によって、子宮頸がん予防ワクチンの接種率の生まれ年度による違いから生じる、将来のHPV感染リスクの格差を最小限に留めるには、今年度中の勧奨再開が望ましいことが明らかになりました。もし、厚生労働省による勧奨再開が来年度以降になる場合には、勧奨中止期間に12-16歳であった女性を接種対象に含めることでその影響を最小限にできる可能性があります。

特記事項

本研究成果は、英医学誌「The Lancet Oncology」2016年7月号(6月29日オンライン版)に掲載されました。

タイトル:Outcomes for girls without HPV vaccination in Japan
著者名:Yusuke Tanaka, Yutaka Ueda, Tomomi Egawa-Takata, Asami Yagi, Kiyoshi Yoshino and Tadashi Kimura
Lancet Oncol. 2016;17:868-869.

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の研究の一環として行われました。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学講座(産科学婦人科学)HP
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/gyne/www/index.html

用語説明

HPV16・18型

HPV(ヒトパピローマウイルス)の中でも特に子宮頸がんを引き起こす可能性の高い型。 子宮頸がんの6~7割に関与していると考えられている。