工学系

2020年4月30日

研究成果のポイント

・半導体カーボンナノチューブ(CNT)※1における光励起準粒子の超高速ダイナミクスを解明した。
・カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子で構成された1次元(1D)材料であり、量子閉じ込め効果から生じるユニークな特性のため、次世代光電子デバイス材料の1つとして注目を集めている。
・CNTは、シリコンのような従来の材料では見られないエキゾチックな光物性を有しているが、超高速光物性の解明は進んでいない。今回テラヘルツ波※2放射を用いることで、これまでのフォトルミネッセンス分析とは異なる、超高速な電子の相互作用過程を明らかにすることができた。
・この成果は、CNTの超高速デバイス応用および新たなオプトエレクトロニクス応用への道を切り開くものである。

概要

大阪大学レーザー科学研究所のBagsican Filchito Renee Gocong(バグシカン フィルチト レニ ゴッコン)特任研究員、斗内政吉(とのうちまさよし)教授、およびライス大学(アメリカ)、南イリノイ大学(アメリカ)、南洋理工大学(シンガポール)、ウィーン工科大学(オーストリア)、アルバータ大学(カナダ)の国際共同研究チームは、テラヘルツ波と極めて高純度なカーボンナノチューブ(CNT)を利用して、CNT内の準粒子が強い電界のもとでどのように相互作用しているか、その複雑な高速過程を解明することに成功しました(図1)

半導体CNT中では、光励起により主にエキシトン※3とよばれる準粒子※4が生成されますが、それらは電流を運びません。電界を印加した状態で、どのように電流を運ぶのか、その高速なキャリアの動きは不明でした。テラヘルツ(THz)波は、半導体などの電子材料内で発生する超高速の光電流プロセスによって生成されます。このTHz放射の振幅や位相を調べることにより、バルク半導体をはじめ、強相関電子系、メタマテリアルなどの先端材料といった、さまざまな電子材料の超高速な光励起キャリアの詳細について調べることができます。

今回、大阪大学のBagsican Filchito Renee Gocong特任研究員と斗内政吉教授らのグループは、このテラヘルツ技術と、ライス大学の河野淳一郎教授のグループが独自開発した真空濾過法により、ウエハースケールでほぼ完璧に配向のそろった純粋な半導体CNT薄膜を使って、CNTのテラヘルツ放射と光電流生成の測定を行うとともに、ウィーン工科大学と南洋理工大学チームの最先端シミュレーションにより、光励起時の準粒子の相互作用に関する主要な2つのメカニズムの特定に成功しました。

本研究成果により、CNT内の準粒子の物理学の解明に寄与するとともに、既存の技術よりも性能が優れる低次元材料をベースとした高度な光エレクトロニクスデバイスの実現に向けて大きな前進をもたらすことが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「ACS Nano Letters」に、3月31日(火)に公開されました。

図1 高配向CNTで作製した光伝導アンテナスイッチと実験装置の概略図。
CNTは、電界の方向に平行に配置。

研究の背景

カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子で構成された1次元(1D)材料であり、量子閉じ込め効果から生じるユニークな特性のため、その発見以来、次世代光電子デバイス材料の1つとして注目を集めています。低次元材料におけるエキシトンは一般に大きな力で束縛されているためその解離は難しく、光電子デバイス開発には不向きと考えられていましたが、最近の研究で、非常に弱い電界でも解離していることが示され、高い移動度を持ちながら非常に高い効率で光励起キャリアを発生させることができる可能性が示唆されるようになってきました。このような物性の解明に向けて重要なのは、準粒子(固体の観測可能な現象を記述するために使用される理論粒子)が1Dシステムでどのように動作し、相互作用するかを理解することです。これには、高純度なCNTサンプルと、超高速でその挙動を観測することが可能な測定技術、およびシリコンなどの従来の3D材料と比較して根本的に異なるモデルの開発が必要でした。

Bagsican Filchito Renee Gocong特任研究員と斗内政吉教授らのグループは、CNT研究の第一線の研究者の1人であるライス大学の河野淳一郎教授のグループが独自開発した真空濾過法を使用してウエハーオーダーでほぼ完璧に配向のそろったCNT薄膜を利用することにより、このステップへの突破口を開きました。これらは、ウェアラブルオプトエレクトロニクス用途のフレキシブル基板を含む、事実上あらゆる種類の表面および材料に転写可能であるため、テラヘルツエミッターとして広く利用されている光伝導アンテナと組み合わせることで、THz放射と光電流生成の測定を可能としました。また、マルコ=バッティアート教授とマイケル=ワイス教授らが率いる南洋理工大学とウィーン工科大学の共同研究者と協力して、ボルツマン輸送および散乱方程式への新しい数値計算に基づいた理論シミュレーションを行いました。これは、励起子の複雑な散乱工程や現実的なバンド構造、分散関係を加味したモデルであり、励起子の解離の背後にある微視的なメカニズム、印加電場における自由キャリアのダイナミクス、および異なる準粒子間の変換メカニズムなどの詳細な議論が可能となりました。これらの実験より、2つの主要なメカニズムを特定し、CNTの強電界における準粒子相互作用を記述することに成功しました。

図2 順方向バイアスと逆方向バイアスで実験的に観測されたTHz放射波形。

図3 THz放射と光電流の計算されたピーク値と実験データの比較。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では5か国の共同研究者らがそれぞれの強みを生かし、様々な研究手法を組み合わせることで、CNTの複雑な準粒子の挙動を初めて正確に記述することに成功しました。これらの成果は、カーボンナノチューブをはじめとする低次元材料の光・電子物性に関する基礎研究の発展と、次世代の光エレクトロニクスデバイス開発などへの応用研究に大きく貢献することが期待されます。特に、励起子とキャリアの超高速ダイナミクスの解明や高効率で光励起キャリアを発生させるプロセスの開拓につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年3月31日(火)(日本時間)に米国科学誌「ACS Nano Letters」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Terahertz Excitonics in Carbon Nanotubes: Exciton Autoionization and Multiplication”
著者名:Filchito Renee G. Bagsican, Michael Wais, Natsumi Komatsu, Weilu Gao, Lincoln W. Weber, Kazunori Serita, Hironaru Murakami, Karsten Held, Frank A. Hegmann, Masayoshi Tonouchi, Junichiro Kono, Iwao Kawayama, and Marco Battiato

なお、本研究の一部は、科学研究費補助金(JP18KK0140、JP18K18861、JP19K15047)、大阪大学国際共同研究促進プログラムなどの支援にて実施されました。

用語説明

※1 カーボンナノチューブ(CNT)
炭素原子のみでできた直径0.4~50ナノメートルのチューブ状の1次元物質。炭素原子が蜂の巣格子の構造で結合されている。カイラリティと呼ばれる幾何学構造でバンド構造が変化し、金属から半導体まで、電気伝導が大きく変化する次世代のエレクトロニクス材料。

※2 テラヘルツ波
周波数が1テラ(1兆)ヘルツ前後、または波長0.01~1ミリメートル程度の電磁波の総称。光と電波の中間の周波数帯域に位置し、光の直進性と電波の透過性の双方の性質を併せ持つ。

※3 エキシトン(励起子)
半導体中で、伝導帯に励起される電子(負電荷)と価電子帯に励起された正孔(正電荷)がクーロン力により互いに引きつけられることで形成され、光に対する物質の応答に大きな影響を与える。エキシトンともいう。

※4 準粒子
光のエネルギーなどを吸収して、通常ではない状態に励起された粒子で、半導体中では、励起された電子、正孔、エキシトンなどの粒子がこれにあたる。

研究者のコメント

CNTに特定の方向に電界をかけて、光励起したところから発生される、テラヘルツ放射素子を開発することが難しく苦労した点です。また、光励起した電荷(準粒子)がどのような振る舞いをするかまだ未解明で、エネルギー状態の高いE22バンドに励起された電子・正孔束縛準粒子が、エネルギーの低いバンドに解離し、電気伝導を担うモデルを提案し、実験事実をうまく説明したことで、CNTの物性の解明につなげることができました。

参考URL

大阪大学 斗内研究室HP
https://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/thp/index.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top