生命科学・医学系

2018年9月10日

研究成果のポイント

・ネオニコチノイド系農薬の一つであるイミダクロプリドの昆虫体内動態を可視化
・これまで昆虫体内での農薬分布を見た報告はなかったが、イメージング質量分析法により可能に
・農薬開発ならびに農薬が昆虫へ与える影響の解析への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の新間秀一准教授らの研究グループは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージング質量分析法(MALDI-IMS)※1を用いて、ショウジョウバエ中のネオニコチノイド系農薬※2の一つであるイミダクロプリド分布を可視化することに世界で初めて成功しました。

これまで行動学的実験からネオニコチノイド系農薬は、蜂群崩壊症候群(CCD)※3の1つの要因と推測されていましたが、昆虫体内における農薬自身の分布情報については報告されていませんでした。

今回、新間准教授らの研究グループは、モデル動物としてショウジョウバエを用い、イミダクロプリドを混合した餌を与えた後、ショウジョウバエの凍結切片標本を作製しイミダクロプリドをMALDI-IMSにより直接検出しました。イオン化の際、イミダクロプリドはグアニジン化※4することを証明し(図1)、分布情報可視化にはグアニジン化イミダクロプリドのシグナルを用いました。グアニジン化イミダクロプリドのシグナルは、摂食後に腹部周囲で拡散する様子が可視化され(図2)、90分後には脳をはじめとする全身で検出されることを示しました(図3)。本研究成果により、新しい農薬評価手法が確立されるとともに、今後、摂食前後での生体分子変化を観察することで、昆虫生理学研究の新たなツールとなることが期待されます。

本研究成果は、日本分析化学会英文誌「Analytical Sciences」に、9月10日(月)に公開されました。(6月29日オンライン公開済み)

図1 (A)イミダクロプリドの構造と(B)グアニジン化イミダクロプリドの構造

図2 ショウジョウバエ体内におけるイミダクロプリド分布.(A)イミダクロプリド摂食後,(B)イミダクロプリド未摂食

図3 90分後でのグアニジン化イミダクロプリドの検出。
(A)イミダクロプリドを摂取したショウジョウバエでは脳、骨格筋、腹部でグアニジン化イミダクロプリド由来の211.07のシグナルが検出されている.(B)未摂取ショウジョウバエでは211.070は検出されていない。

研究の背景

これまで、様々な農薬について、植物ならびに昆虫体内での分布はほとんど明らかになっていませんでした。また、昆虫体内での農薬や生体分子の分布情報を得るための標本作成方法が困難であるという課題がありました。今後、環境負荷を低減する農薬開発において、新たな農薬評価手法が求められており、その一つとしてMALDI-IMSが注目を集めつつあります。

新間准教授らの研究グループでは、ショウジョウバエ中のイミダクロプリド分布を明らかにするために、昆虫(本研究ではモデル動物であるショウジョウバエ)から測定用標本を作製するための手法を検討し、MALDI-IMS専用機であるiMSCopeTRIO※5(島津製作所)を用いて分布情報を可視化しました。

さらに、目的のイミダクロプリドをMALDI-IMSで検出する際、インソース分解※6によるグアニジン化が起きることも証明し、イミダクロプリドの分布情報を可視化するにはグアニジン化イミダクロプリドを対象にしなければならないことを証明しました。新しい装置、新しい手法、新しい試料を用いることでこれまで得られなかった分布情報を得ることができるようになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、新しい農薬評価手法が確立されることになります。また、今後農薬の植物体内での分布情報のみならず、植物と接触した昆虫体内においても農薬分布が可視化出来る可能性があります。さらに本手法では、イオン化ができればどのような分子も分布情報を得ることができるため、農薬分布と共に、昆虫体内での生体分子の変化をも明らかにすることが可能となると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2018年9月10日(月)に日本分析化学会英文誌「Analytical Sciences」に掲載され(6月29日オンライン公開済み)、当該号の表紙として採用されました。
タイトル:“Development of a visualization method for imidacloprid in Drosophila melanogaster via imaging mass spectrometry”
著者名:Ohtsu S, Yamaguchi M, Nishiwaki H, Fukusaki E and Shimma S.

なお、本研究は、京都工芸繊維大学、愛媛大学と共同で行われ平成 27 年度昆虫先端研究推進センター共同研究採択課題の一部として行われました。

用語説明

※1 マトリックス支援レーザー脱離イオン化イメージング質量分析法(MALDI-IMS)
イオン化補助剤であるマトリックスを試料表面に供給後、レーザーを照射することで発生したイオンを質量分析により検出し、試料内におけるイオンの空間分布情報を可視化する手法。

※2 ネオニコチノイド系農薬
分子構造としてニコチン様の構造を持つ農薬。植物体への浸透移行性が高いため世界で最も主流の殺虫剤として知られている。また、蜂群崩壊症候群の要因と推測されている。

※3 蜂群崩壊症候群(CCD)
ミツバチが巣から大量に失踪する現象の事。

※4 グアニジン化
イミダクロプリドの例では=N-NO2よりNO2が外れて=NHの形になること。

※5 iMScope TRIO
MALDI-IMS専用機。詳しくは以下、大阪大学工学部HPの「WEB OPEN CAMPUS」ページに掲載されている。
http://www.eng.osaka-u.ac.jp/ja/virtual/challenge10/index.html#&panel1-1

※6 インソース分解
MALDI によるイオン化と同時もしくは直後に、測定対象の一部が分解すること。

参考URL

大阪大学 工学研究科 生命先端工学専攻 生物工学コース 生物資源工学領域
http://www.fukusaki-lab.com/

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