自然科学系

2018年8月30日

研究成果のポイント

・奄美大島の海底に突如出現する直径約2mのミステリーサークル。これを、わずか10cmあまりのアマミホシゾラフグが、道具も使わず、どうやって作るかを、行動解析とシミュレーションにより解析した。
・面白いのは、極めて幾何学的な構造が、フグの単純な行動の繰り返しにより出現するロジック。
・動物行動学者と、分野の異なる大学院生の共同作業が生んだ成果。

概要

大阪大学ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラムの履修生(博士後期課程学生)を主とした、同学研究者ならびに千葉県立中央博物館分館海の博物館の川瀬裕司主任上席研究員との共同研究グループは、アマミホシゾラフグが幾何学模様を形作る原理の一端を、行動解析を基に計算機シミュレーションにて解明しました。

本研究成果は、8月17日(金)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)にて公開されました。

背景

奄美大島の海底に、謎の模様(右図)が発見されたのは1995年頃のことです。全長約2m。迷路模様の中心部とその周りの放射状の溝からなる、極めて幾何学的な形状から、海底のミステリーサークル※1※2と呼ばれ、一躍有名になりました。その後、2011年に、この幾何学構造を作っているのが、わずか10cmの新種のフグ(アマミホシゾラフグ※3)であり、この構造は、メスをおびき寄せるための産卵床であることが解りました。

しかし、それで一件落着とはなりません。小さいフグが、どうやってこんなに巨大で、しかも正確な形状の構造物を作ることができるのか、さっぱりわからないからです。本家のミステリーサークルの場合、人が、棒とロープをコンパスの様に使いながら作ることが明らかになっています。しかし、フグの場合、ロープもコンパスもありません。制作中の行動を見ると、フグは海底近くを、砂を巻き上げながら放射状に移動し、溝を作っていくのですが、掘る順番もランダムで、そもそも、常に海底近くに居るため、制作過程を上からチェックすることもしないのです。にもかかわらず、手品のような鮮やかさで、恐ろしく正確な幾何学模様ができていく。見事というほかありません。しかし、どうやって?

5年ほど前、アマミホシゾラフグによるミステリーサークル形成研究の第一人者である千葉県立中央博物館分館海の博物館の川瀬裕司(ひろし)主任上席研究員は、この謎を解明するために、研究協力者を探してしていました。この研究には、動物行動学の他に、3次元形状の正確な測定、シミュレーション、水流中の砂礫の動態、などの専門知識が必要です。一方、ちょうどそのころ始まった大阪大学博士課程教育リーディングプログラム『ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラム』※4では、生物学、情報科学、基礎工学の学生が一緒に取り組める課題を探していました。フグのミステリーサークル形成研究は、理想的なテーマであったため、川瀬主任上席研究員との共同研究がスタートしました。

図1 奄美大島の海底に出現するミステリーサークル。
この、直径2mの幾何学模様を、体長わずか10cmのフグが建築する。

本研究成果の内容

本研究は、奄美大島でのビデオ撮影、その行動解析を基に、計算機シミュレーションにより行いました。今回特に着目したのは、サークルの外側を構成する放射状の溝パターンです。ビデオを解析すると、初期には、溝の方向性はかなりあいまいです。フグは、前回掘った溝にあたっても、気にせず、直線的に掘り進みます。にもかかわらず、次第に正確な放射構造ができていくのです。

シミュレーションでは、フグの掘削のエントリー地点、掘削角度、掘削長さ、さらにそれらのバラつき具合をビデオから取得し、その条件で、正確な構造を作るかどうかを試しました。その結果、フグがエントリー地点を選ぶときに、低い場所(堀跡)を好むと、あいまいな掘削行動からでも、正確な放射構造ができることが解りました。言い換えると、フグは、ちょっと低めの場所を選び、大雑把に中心方向に向かって掘るだけで良い、という意外な結果となりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、一見不規則でランダムな過程が、規則的な構造を生成する原理の一つを提示しており、(かなり遠い)将来的には、もしかすると、工業技術として応用できる可能性もあります。しかしながら、現時点でもっと確実に言えることは、そもそもこれほど興味深い現象は、めったになく、しかもそれが、フグの気まぐれに見える行動から、必然的に生まれるなどという「おもろい」発見は、エンタテインメントとして十分に成立しているだろう、ということです。

研究者のコメント

今回の論文では、計算機シミュレーションまでですが、将来的には、ロボットフグによる自然環境でのミステリーサークル形成まで行いたいと思っています。とても楽しみです。

特記事項

本研究成果は、2018年8月17日(金)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Simple rules for construction of a geometric nest structure by pufferfish”
著者名:水内良1,川瀬裕司2,進寛史3,岩井大輔4and近藤滋5
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-30857-0

1.Ryo Mizuuchi:(現所属)Portland State University・Postdoctoral Researcher
(成果報告時)大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻D3(ヒューマンウェアイノベーション博士課程ブログラム1期生)
2.Hiroshi Kawase:千葉県立中央博物館分館海の博物館・主任上席研究員
3.Hirofumi Shin:(現所属)株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン・サイエンティスト
(成果報告時)大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻D3(ヒューマンウェアイノベーション博士課程ブログラム1期生)
4.Daisuke Iwai:大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻・准教授
5.Shigeru Kondo:大阪大学大学院生命機能研究科生命機能専攻・教授

本研究は、科学研究費助成事業『新学術領域(研究領域提案型)研究領域名:生物の3D形態を構築するロジック』と、大阪大学博士課程教育リーディングプログラム『ヒューマンウェアイノベーション博士課程ブログラム』における活動の一環として行われました。

用語説明

※1 ミステリーサークル
田畑で栽培している穀物の一部が円形(サークル形)に倒される現象、あるいは、その倒された跡。謎の現象として注目され、宇宙人説をはじめとするさまざまな原因仮説が示されたが、近年、製作者自身による告白により人為的なものと判明した。

※2 海底のミステリーサークル
直径2mほどの円形の幾何学的な模様が海底に存在することは1995年頃から知られていたが、誰が何のために作っているのかは長らく謎のままであった。後に、この海底の模様は本種のオスが作った巣(産卵床)であったことが判明した。

※3 アマミホシゾラフグ
フグ目フグ科シッポウフグ属に分類される魚類。2011年に発見され、ミステリーサークルの製作者であることが明らかになった。

※4 大阪大学博士課程教育リーディングプログラム『ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラム』
文部科学省が推進する博士課程リーディングプログラムの1つとして、大阪大学の情報科学研究科、生命機能研究科、基礎工学研究科の3研究科の連携のもと、新たな融合領域を開拓し、イノベーションを起こすことのできる「ネットワーキング型」の博士人材を育成する5年一貫の学位プログラム。

参考URL

大阪大学 ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラム
http://www.humanware.osaka-u.ac.jp/

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