縞模様をつくりだす色素細胞間相互作用を解明

縞模様をつくりだす色素細胞間相互作用を解明

動物の模様形成メカニズムの全容解明に期待

2012-2-7

<リリースの概要>

大阪大学大学院生命機能研究科パターン形成研究室(近藤 滋 教授)では、このたび、ゼブラフィッシュの体表模様を構成する色素細胞を培養下で観察し、色素細胞同士の接触によって起こる膜電位の変化が縞模様形成に寄与することを明らかにし、動物の多様な模様(縞や斑点など)を作り出す基本原理の解明に期待がもたれる成果が得られました。

<研究の背景>

シマウマの縞やキリンの網目など動物にはさまざまな体表模様が見られますが、その形成メカニズムは良く分かっていません。我々の研究室では動物の模様形成メカニズムを解明するため、ゼブラフィッシュという小型の熱帯魚を使って研究を行ってきました。ゼブラフィッシュはその体表に黒と黄色の縞をもち、それらは黒色の色素細胞(メラノフォア)と黄色の色素細胞(ザンソフォア)の集団から構成されています(図1)。今までの研究結果から、縞をつくるにはこの2種の色素細胞が互いに生存や運動性を調節しあうことが重要であるとされてきましたが、その詳しいメカニズムはほとんど分かっていませんでした。

<研究の内容>

今回我々は、模様形成の分子メカニズムの解明のため、縞形成が異常となるjaguar変異体を使って研究を行いました。正常なゼブラフィッシュの縞では、メラノフォアとザンソフォアはきれいに分離し、その境界もはっきりしています。一方jaguar変異体では分離が不完全で、不明瞭な縞となります(図1)。我々はそれぞれの魚から色素細胞を回収し、培養シャーレの上でその様子を観察しました。その結果、正常な魚ではザンソフォアがメラノフォアに接触した瞬間に、メラノフォアの膜電位が変化しザンソフォアから反発するように移動することが判明しました。それに対してjaguar変異体では、メラノフォアの膜電位が異常となり、接触による電位変化も反発運動も観察されませんでした(図2)。以上の結果から、膜電位によって制御される色素細胞の反発的な運動が明瞭な縞模様形成に重要であることが分かりました。

<今後の展開>

今回我々は、初めて色素細胞間の相互作用の様子を視覚的に捉えることに成功しました。今後、相互作用の詳細を調べることによって、動物の多様な模様(縞や斑点など)を作り出す基本原理が明らかにされ、動物が多様な模様を獲得していった進化の過程も明らかになるかもしれません。

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図1:ゼブラフィッシュの縞模様 黒い細胞はメラノフォア、黄色の細胞はザンソフォア。正常な魚においてメラノフォアとザンソフォアはきれいに分離する。それに対してjaguar変異体では混ざってしまう。青の破線はそれぞれの色素細胞集団の境界を示す。

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図2:培養下における色素細胞の相互作用
上段の写真では正常なゼブラフィッシュの細胞の時間経過を示す。単独でいる場合(-1 h)、メラノフォア(M)の膜電位は深いが、ザンソフォア(X)が接触すると(0 h)急激に浅くなる。その後、メラノフォアはザンソフォアから反発するように移動した。下段の写真はjaguar変異体の細胞の時間経過で、単独でいる場合もメラノフォア(M)の膜電位は浅く、ザンソフォア(X)が接触しても電位変化や反発運動を見せず、接触したままであった。写真の下に細胞の輪郭を描写した。なおこの実験では電位変化を見やすくするため、メラニン色素が欠損したメラノフォアを使用した。

<参考URL>
http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/skondo/