2014年4月22日

概要

大阪大学蛋白質研究所後藤祐児教授のグループは、福井大学医学部、ハンガリーのエトヴァッシュ・ローランド大学と共同で、さまざまな病気の原因となるアミロイド線維の形成が、発熱を伴う反応であることを発見しました。アミロイド線維は、アルツハイマー病やパーキンソン病、透析アミロイドーシス※1などのアミロイド病に伴って沈着する蛋白質の異常凝集体ですが、詳細な形成機構は不明でした。物質が溶解度以上に溶けた状態を過飽和といいます。何らかの刺激によって過飽和が解消されると物質は析出します。このときしばしば発熱反応を伴います。アミロイド線維の形成も、溶解度や過飽和によって支配される発熱反応であることがわかりました。アミロイド線維形成の基本原理が明らかになったことによって、アミロイド病の予防や治療の発展につながることが期待されます。

なお、本研究成果は米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)の電子版に4月21日(月)15時(米国時間EST)(日本時間22日(火)4時)に掲載されます。

研究の背景

蛋白質の異常凝集とアミロイド線維:蛋白質はアミノ酸が化学結合した鎖状で疎水性の高分子です。生命機能を担う生の蛋白質では、疎水性基が分子内で相互作用してコンパクトな立体構造を形成しています(図1)。蛋白質がコンパクトな立体構造を形成することをフォールディングと呼びます。他方、蛋白質が変性すると、蛋白質は分子間で相互作用してゆで卵の白身のように凝集物を生成します。蛋白質の凝集物の中でもアミロイド線維と呼ばれる幅が10ナノメータ-で長さが数マイクロメーターの針状の凝集物は、アミロイド病と総称される病気の原因となります。

アミロイド病には、アルツハイマー病、プリオン病、アミロイドポリニューロパチー、透析アミロイドーシス、Ⅱ型糖尿病、ALアミロイドーシス、パーキンソン病など、20種類以上があります。構造生物学研究により、蛋白質が変性して、一旦ほどけた鎖となり、これが次々と積み重なることによって、針状のアミロイド線維を形成することがわかってきています(図1)。しかし、何故、アミロイド線維が形成されるのか、その詳細は不明でした。

アミロイド線維形成は発熱反応:本研究グループでは、等温滴定熱量計※2を用いて、アミロイド線維の形成反応に伴う熱の出入りを測定しました(図2)。蛋白質として透析アミロイド病の原因となるβ2ミクログロブリンを使用しました。その結果、アミロイド線維の形成に伴い、熱が発生することがわかりました。発生した熱を定量的に解析することによって、アミロイド線維形成の熱力学的機構を確立しました。

過飽和解消による溶質の析出現象の一般性:このような熱の発生は、溶解度を越えて過剰に水に溶けた状態(過飽和と呼ばれます)にあった物質が、何らかの刺激によって過飽和を解消して析出する場合にも起きます(図3)。つまり、疾患に関わるアミロイド線維の形成は、「過飽和状態からの物質の析出」という、極めて基本的な物理化学現象であることが明らかとなりました。水の過冷却状態から氷ができる現象も同じ現象です。

参考図:酢酸ナトリウムの結晶析出(白)とアミロイド線維形成(赤)の類似を示すイメージ図。共に発熱を伴う。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

アルツハイマー病やパーキンソン病、糖尿病、白内障をはじめ高齢化社会の深刻な病気のほとんどに蛋白質の異常凝集が関わります。本研究では、蛋白質の異常凝集が、一般的な物質の結晶化や析出と同じ「過飽和」によって支配される反応であり、熱力学的に取り扱うことができることを示しました。自然界では物質の結晶化における過飽和現象、氷点以下での過冷却現象など、過飽和は極めて普遍的な現象です。そこで、生命においても過飽和が重要な役割を果たしていることは、極めて当然と考えられます。「過飽和とその解消」という新たな切り口で異常凝集を研究することによって、蛋白質の凝集が原因となる病気の治療や予防が大きく進展すると期待できます。

特記事項

情報解禁日:本研究成果は米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)の電子版に4月21日(月)15時(米国時間EST)、(日本時間22日(火)4時)に掲載される予定です。

論文掲載情報

Tatsuya Ikenoue, Young-Ho Lee, József Kardos, Hisashi Yagi, Takahisa Ikegami, Hironobu Naiki, and Yuji Goto(池之上 達哉、李 映昊、József Kardos、八木 寿梓、池上 貴久、内木 宏延、後藤 祐児)

Heat of supersaturation-limited amyloid burst directly monitored by isothermal titration calorimetry (過飽和に依存したアミロイド形成反応に伴う発熱の、滴定型熱量計を用いた直接測定)

参考図

図1 蛋白質のフォールディングとアミロイド線維形成のイメージ

図2 アミロイド線維形成の等温滴定熱測定。塩の滴下後、一定時間で発熱(下向きピーク)してアミロイド線維を形成する。

図3 過飽和の解消と発熱を利用した「エコカイロ」
使用前のエコカイロの中には、酢酸ナトリウムの過飽和溶液が入っている。溶液中の金属片をクリックして衝撃を与えると、過飽和は解消して結晶の析出が始まる。このとき凝固熱が発生する。エコカイロは繰り返し使える。今回、報告したアミロイド線維形成実験はこれと極めて類似した現象である。

用語説明

※1 透析アミロイドーシス
長期の血液透析を行う患者に発症するアミロイド病であり、蛋白質β2ミクログロブリンがアミロイド線維を形成する。

※2 等温滴定型熱量計
一定の温度と撹拌条件下で、試料溶液に添加溶液を少量加え、それに伴う熱の出入りを測定する。本研究では、蛋白質溶液に塩溶液を添加して過飽和状態を作り、一定時間後に爆発的に起きるアミロイド線維の形成熱を測定した。

参考URL

大阪大学蛋白質研究所蛋白質構造形成研究室
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/physical/yoeki.html

福井大学医学部分子病理学研究室
http://byouri2.med.lab.u-fukui.ac.jp/ja

ライフサイエンス領域融合レビュー「過飽和生命科学の開拓」
http://leading.lifesciencedb.jp/2-e002/>

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