新発見!次世代半導体GaNは高純度で光りにくさの理由が変わる
GaNデバイスの高性能化につながる、高純度GaNの新たな光学特性の発見
研究成果のポイント
- 非破壊・非接触な手法を用いて、高純度窒化ガリウム(GaN)の品質を評価
- GaN中の炭素が少ない程、GaNはよく光ることが明らかに
- 炭素を含む割合が2.5億分の1以下になると、GaNの“光りにくさ”の主要因が炭素から原子空孔に切り替わることが判明
- GaNデバイスの信頼性向上に寄与する成果
概要
大阪大学大学院工学研究科の大学院生 佐野 昂志さん(博士前期課程)、市川 修平准教授、小島 一信教授は、住友化学株式会社 藤倉 序章氏、今野 泰一郎氏、金木 奨太氏と協力し、全方位フォトルミネッセンス(ODPL)法を用いて、高純度な窒化ガリウム(GaN)結晶における“光りにくさ”の主要因が、従来のGaN結晶とは異なることを明らかにしました。
持続可能な社会の実現にむけて、世界の総エネルギー消費量を削減する高効率な光・電子デバイスの開発が不可欠です。例えば、照明や太陽光発電などの分野においては、電気エネルギーと光エネルギーを相互に変換する発光ダイオードや太陽電池といった光デバイスの高効率化が重要です。また、電気自動車をはじめとする、電力を動力に変換するパワーデバイス応用においては、高耐圧かつ低損失な電流の整流素子や電圧の変換素子が不可欠です。これらの高性能な半導体デバイスの材料として、優れた物性値を持つGaNが大きな注目を集めており、国内外におけるGaNデバイスの開発競争が激化しています。
GaNデバイスの性能を低下させる要因の一つに炭素不純物が挙げられます。一般に、GaN中に炭素が混入すると、GaNが光りにくくなることが知られています。今回、小島教授らの研究グループは、ODPL法を用いて、GaNの“光りにくさ”を計測することで、炭素不純物の高感度かつ非破壊・非接触検出を行いました。その結果、住友化学社が開発した、8.8億分の1以下の濃度でしか炭素を含まない高純度なGaN結晶でも、炭素濃度を計測可能であることが分かりました。さらに、炭素を含む割合が2.5億分の1以下になると、GaNの“光りにくさ”の主要因が炭素から原子空孔に切り替わることを示しました。本研究は、微量の炭素を簡便に計測できることを示すものであり、GaNデバイスの信頼性向上に寄与します。
本研究成果は、米国科学誌「Applied Physics Letters」に、6月3日(月)に公開されました。
図1. 照明および紫外線レーザー照射時の試料の写真
研究の背景
世界的な人口増加や経済活動に伴う気候変動など、地球規模で解決を図るべき社会課題が数多く存在する現代において、持続可能な社会を実現し、安心・安全な生活環境を構築することは大きな意義があると考えられます。このような社会の実現にむけた一つの方策として、世界の総エネルギー消費量を削減できる高効率な光・電子デバイスを開発することが挙げられます。例えば、照明や太陽光発電などの分野においては、電気エネルギーを光エネルギーに変換する発光ダイオードや、逆に、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池といった光デバイスの高効率化が重要です。また、電気自動車をはじめとする、電力を動力に変換するパワーデバイス応用においては、高耐圧かつ低損失な電流の整流素子や電圧の変換素子が不可欠です。これらの高性能な半導体デバイスの材料として、優れた物性値を持つGaNが大きな注目を集めており、国内外におけるGaNデバイスの開発競争が激化しています。
GaNデバイスの性能を支配する結晶欠陥の一つに炭素不純物が挙げられます。窒素原子を置換した炭素不純物はバンドギャップ内に特有のエネルギー準位を形成し、光・電子デバイスの性能を低下させます。このような性能低下は、炭素不純物濃度が低くても生じるため、炭素を高感度に検出する手法が望まれています。しかし、一般に半導体における不純物検出技術は、試料を物理的に破壊したうえで測定を行う破壊検査であったり、もしくは試料に対して電極を形成する必要があるなどの制限がありました。そこで小島教授らは、これまで培ってきた半導体結晶の高精度な発光効率測定法であるODPL法を応用することにより、高純度(低炭素濃度)GaNにおける炭素不純物の高感度かつ非破壊・非接触検出を行いました。
研究の内容
GaNは直接遷移型半導体と呼ばれ、外部光源などで励起されると特有の光を放出します。このとき、炭素不純物が少ないGaNほど強く発光するため、発光量や発光効率を指標とすることで炭素不純物の濃度を定量することが可能となります。一般に光計測は、短時間測定が可能かつ高感度であるという特徴を持ちますが、一方で、集光レンズの視野角に結合した光のみを検出するため、測定者の技量によって光強度が簡単に揺らぎ、再現性に乏しいことが知られています。そこで、小島教授らの研究グループでは、積分球内に結晶を配置することで結晶から放出された光を全方位に渡って検出する手法に着目し、発光量や発光効率の絶対測定に取り組んできました(ODPL法)。
本研究では、炭素濃度を意図的に変化させた複数のGaN結晶に対してODPL法による発光効率測定を行いました。その結果、図2(a)のように炭素を含む割合が数億分の1(炭素濃度では1014 cm-3台前半)でわずかに変化しても、発光効率が高感度に変化することが分かりました。また、図2(b)に示すような炭素濃度と非発光性再結合頻度の関係を考えると、炭素を含む割合が2.5億分の1(炭素濃度では3.5×1014 cm-3)以下になると、GaNにおける非発光(光りにくさ)の主要因が炭素から原子空孔に切り替わることが明らかになりました。
図2. (a)炭素濃度と発光効率の関係
(b)炭素濃度とキャリア再結合頻度の関係
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、結晶の破壊や電極の形成などの複雑な工程を必要とせず、GaN結晶に光を当てるだけで微量の炭素濃度が瞬時に定量できることを示すものです。この技術は、GaNデバイスの信頼性向上に寄与するだけでなく、計測結果をウェハ製造工程にフィードバックすることで、さらなる高純度GaN結晶の開発・製造を加速させるものです。
特記事項
本研究成果は、2024年6月3日(月)に米国科学誌「Applied Physics Letters」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Switching of major nonradiative recombination centers (NRCs) from carbon impurities to intrinsic NRCs in GaN crystals”
著者名:Koshi Sano, Hajime Fujikura, Taichiro Konno, Shota Kaneki, Shuhei Ichikawa, and Kazunobu Kojima
DOI:https://doi.org/10.1063/5.0207339
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- 全方位フォトルミネッセンス(ODPL)法
積分球を用いた分光法の一つ。結晶からの発光を全方位に渡って検出することで、発光効率を再現性良く測定できる。本手法を用いた結晶評価装置が、浜松ホトニクス(株)から2021年 8 月より発売されている。
- 物性値
物質の物理的な性質を定量的に表すためのパラメーターのこと。例えば、密度、融点、誘電率など。
- 原子空孔
結晶において、本来原子があるべきところに原子が存在しない状態のこと。
- バンドギャップ
電子が存在することのできないエネルギー領域のこと。
- 発光効率
入力したエネルギーのうち、発光に利用される割合のこと。
- 直接遷移型半導体
光を強く放出する半導体のこと。他には、光を放出しにくい間接遷移型半導体がある。
- 励起
対象となる材料を光エネルギーなどを用いて刺激し、活性な状態にすること。励起された直接遷移型半導体は、余分なエネルギーを光として放出し、励起される前の状態に戻ることが多い。
- 視野角
レンズ系により正常な結像が得られる範囲のこと。
- 積分球
内壁がスペクトラロンなどの拡散反射率の高い、真っ白な材料で覆われた球状の装置のこと。
- 絶対測定
標準試料との比較無しに、物理量を測定すること。