\アパレル界のリサイクルに革命を!/ 混紡繊維を分別・リサイクルする新技術

\アパレル界のリサイクルに革命を!/ 混紡繊維を分別・リサイクルする新技術

綿とポリエステルをマイクロ波で速やかに分別

2024-3-26工学系
工学研究科教授宇山 浩

研究成果のポイント

  • 綿/ポリエステル混紡繊維をわずか数分で分離し、綿はそのまま回収し(マテリアルリサイクル)、ポリエステルは前駆体にケミカルリサイクルする技術を開発。
  • 電子レンジの加熱と同じマイクロ波を利用し、簡便に分別するプロセスを構築。
  • 衣料品の大量生産・大量消費・大量廃棄から社会問題化しているアパレル産業で半分近くを占める綿/ポリエステル混紡繊維のリサイクル技術として、資源循環・環境負荷低減に大きく貢献。

概要

大阪大学大学院工学研究科の宇山 浩教授らは、綿/ポリエステル混紡繊維を分別・リサイクルする技術を開発しました。綿はマテリアルリサイクルされ、ポリエステルはケミカルリサイクルによりPET(ポリエチレンテレフタレート)の前駆体であるBHET(テレフタル酸ビスヒドロキシエチル)を高純度で回収しました(図1、特許出願済み)。

本技術では電子レンジと同じ原理であるマイクロ波による加熱を利用します。混紡繊維と触媒をエチレングリコールに入れ、マイクロ波で数分間加熱します。綿はそのまま残り、回収して再利用できます(図2)。反応液からの再結晶により、PET製造プロセスにおける前駆体であるBHETが高純度で回収されました。

アパレルファッション産業は石油に次いで第二位の環境汚染産業と指摘され、ファストファッションはそのシンボルとされます。衣料品の大量生産・大量消費・大量廃棄は環境破壊につながり、日本ではごみに出される衣料品(47万トン、環境省資料2022年)の95%が焼却あるいは埋立されている(手放した衣料品全体の約66%)ことから、リサイクル技術の開発が切望されています。衣料品のリサイクルが進まない原因として、衣料品の半分近くを占める綿/ポリエステル混紡繊維は従来技術では綿とポリエステルに分離できず、再資源化できないことが挙げられます。一方、今回の新技術は綿/ポリエステル混紡繊維を分別して、繊維等に再利用・再資源化できることから、アパレル産業の環境負荷低減を可能とします。

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図1. 本発表の技術概要

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図2. 綿/ポリエステル混紡繊維の革新的分別・リサイクル技術

研究の背景

世界全体のアパレル市場はコロナ後に拡大しており、市場規模は2023年で1.74兆米ドル、2027年では1.94兆米ドルと推定されています。国内のアパレル供給量・市場規模は2021年で36億点、10兆円です(環境省 https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/index.html )。一方でアパレル・ファッション産業は、大量消費・大量廃棄のビジネスモデルが広がったこともあり、環境負荷が極めて大きいと指摘されています。世界では毎年、9200万トンにのぼる衣料品が廃棄されており、焼却により多くのCO2が放出されて地球温暖化につながります(人間活動の10%相当)。また、繊維・衣料品の製造時には水を大量に使用し(930億m3、500万人分の生活水)、衣料品から50万トンのマイクロプラスチックが海洋に流出しています(海洋に流出するプラスチックの5~6%)。そのため、原材料調達から生産・流通、使用、廃棄に至る各段階での環境負荷やサプライチェーンの問題が指摘されるだけでなく、ネイチャーポジティブ(生物多様性)への配慮なども求められます。

日本では、2022年に年間70万トンの衣料品が使用後に手放され、その34%がリユース(19%)や産業資材としての利用(15%)がなされていますが、残り(66%)は廃棄されています。世界の衣料品リユース市場は急速に拡大していますが(2027年では約2倍規模(推定)、対2022年)、古着売買やシェアリングサービスによるものです。そのため、使用後の衣料品を原料とする繊維to繊維リサイクルを推進して、廃棄量や原材料調達・廃棄で発生するCO2排出量を削減し、環境負荷を低減することがアパレル産業に対して社会的に求められています。この世界的な動きに呼応して、世界のアパレル大企業は環境対策に積極的に取り組んでおり、2030年までに全使用素材の約50%をリサイクル素材に切り替えることを目標としている企業もあります。

衣料品の半分近くは綿/ポリエステル混紡繊維ですが、プラスチックと同様、リサイクルには同一素材であることが必要です。例えば、フリースは多くの場合にポリエステル製であり、リサイクルして再度、ポリエステル製衣料品が作れます。綿は肌触りが良く、吸水性や保湿性に優れ、通気性がある一方、ポリエステルはシワになりにくく、型崩れしづらく、加工もしやすく、さらに速乾性に優れます。綿/ポリエステル混紡繊維は綿とポリエステルの両方の特徴を有するため、ポロシャツ、シャツ、ズボン等に幅広く利用されています。

宇山教授らはマイクロ波照射に着目し、綿には作用せず、ポリエステルを選択的に分解してポリエステル前駆体に変換する触媒を見出すことで、綿はそのまま回収し(マテリアルリサイクル)、ポリエステルは前駆体のBHETにケミカルリサイクルする技術を開発しました。

研究の内容

ペットボトルやポリエステル繊維の原料であるPETはテレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、前駆体であるBHETを経て、BHETの重合により製造されます。本技術では、適切な触媒を用いてエチレングリコール中でポリエステル繊維を選択的に分解(解重合)することで、BHETに変換します。この触媒の選定が重要であり、安全性に優れる安価なケミカルが高効率な触媒として作用することを見出しました。この触媒は綿(セルロース)には作用しないため、反応液中に綿は繊維状で残り、回収できました(図3)。また、反応液から簡単な結晶化操作により、高純度のBHET結晶として取り出すことができ、これからPETを作ることができます。

マイクロ波照射は化学反応を迅速かつ効率的に進めることができ、本技術では溶媒、触媒の選定を含めた適切な分解条件を設定することで、ポリエステルの分解が速やかに起こり、数分でポリエステルが100%分解しました。綿の回収率は90%以上に達し、BHETの純度は100%でした。

現時点では大学設備の小スケールでの混紡繊維の分別・リサイクルであり、今後、回収率を向上させるさらなる技術開発とともに、アパレル企業等との産学連携により、実用化に向けたプロセス開発・改良に取り組む計画です。

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図3. 分解反応前後の繊維の電子顕微鏡写真

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、これまで困難とされてきた綿/ポリエステル混紡繊維の分別・リサイクル技術を開発したものです。アパレル産業はファストファッションで拡張してきましたが、大量生産・大量消費された衣料品のリサイクルがなおざりになり、大量廃棄されてきました。本技術にはマイクロ波照射装置を必要とするものの、溶媒や触媒は安価かつ安全であり、わずか数分の処理で分別されます。綿はそのまま回収されて使用でき、ポリエステルは前駆体を高純度で回収でき、重合により高品質のポリエステル繊維に戻すことができます。衣料品の半分近くを占める綿/ポリエステルの混紡繊維を再利用・再資源化できるため、多くの衣料品の循環を可能とします。この技術の社会実装には産学連携によるプロセス開発を必要としますが、簡便かつ高効率の混紡繊維の分別技術であるため、実用性が高いと考えています。

特記事項

本研究の一部は、大阪大学「大阪湾プラごみゼロを目指す資源循環共創拠点」(国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)【地域共創分野・育成型】、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「サーキュラーエコノミーシステムの構築」(独立行政法人環境再生保全機構)の一環として行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 06 安全な水とトイレを世界中に
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 14 海の豊かさを守ろう
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

PET(ポリエチレンテレフタレート)

ペットボトルの素材であるペットと衣料品のポリエステルは同じポリマー、PET(ポリエチレンテレフタレート)です。PETはテレフタル酸とエチレングリコールから製造されますが、工業的な製造ルートとして最初にBHETを前駆体として作り、これの重合によりPETを生産しています。本技術では、ポリエステル繊維からBHETを高純度な結晶として回収できますので、これを用いてPETを再合成できます。

マイクロ波

マイクロ波は電磁波の1つで、電磁波は波長や周波数によって特徴やその用途が異なります。電子レンジは電磁波を加熱対象にあてることで熱を発生させており、マイクロ波加熱は放射の1つです。加熱対象がマイクロ波の電界の中にあると、加熱対象を構成している分子が電波の影響を受けて激しく振動し、分子と分子がぶつかり合います。今回の新技術では、マイクロ波のこのような特徴を活かして、迅速な分解反応を引き起こしていると思われます。