薄くて柔らかいシート型光センサが拓く“やさしい光分析技術”

薄くて柔らかいシート型光センサが拓く“やさしい光分析技術”

簡易な “非採取”液質評価や“非接触”イメージングへ

2024-1-23工学系
産業科学研究所准教授荒木徹平

研究成果のポイント

  • 測定対象物を傷つけない“薄くて柔らかい”シート型光センサを開発し、光だけでなく熱や分子などに関連する電磁波(光)を“簡便に”検知・イメージングできる無線計測システムを実現
  • カーボンナノチューブ光検出器と有機トランジスタを、極薄膜基材(5 μm以下)にアレイ集積実装し、シート型光センサを構築
  • シート型光センサは、室温・大気下で高感度と広帯域性、高い曲げ耐久性などを達成
  • シート型光センサを統合した無線計測システムは、簡易な“非採取”液質評価や“非接触”イメージングなどの非破壊検査手法の可能性を広げ、ウェアラブルデバイスやポータブル撮像機器などへの応用にも期待

概要

大阪大学 産業科学研究所の川端玲さん(日本学術振興会特別研究員/工学研究科博士後期課程)、荒木徹平准教授、関谷毅教授、中央大学 理工学部の李恒助教、河野行雄教授らの研究グループは、測定対象物を傷つけない“薄くて柔らかい”シート型光センサの開発に成功し、光だけでなく熱や分子などに関連する電磁波(光)を“簡便に”検知・イメージングできる無線計測システムを実現しました。

従来の光センサは、硬い半導体素子や厚く頑丈な実装基板を用いて構成されてきました。一方で、薄型で柔軟なシート型光センサは、対象物表面に密着しながら表面や内部を撮像できるため、ヘルスケアや非破壊検査への応用に向けた研究開発が増えつつあります(参考資料)。しかし、従来のシート型光センサの検出帯域は狭く、対象物の熱や化学分析に適した長波長(赤外~テラヘルツ)の電磁波(光)検出が困難でした。また、柔軟なシート型光センサの構築において、極めて高い柔軟性を発現できる有機トランジスタが候補となりますが、光照射下での不安定な動作や、無線アレイシステムの構築などが課題でした。

今回、カーボンナノチューブ光検出器と有機トランジスタを、極薄膜有機基材(5 μm以下)にアレイ集積実装することで、室温・大気下においても安定性・柔軟性・高感度を示すシート型光センサを開発しました(図1)。

カーボンナノチューブ光検出器は、薄膜基板上に印刷形成されることで高い柔軟性を示し、可視からテラヘルツまでの広帯域光を電気信号に効率的に変換します。有機トランジスタアレイは、柔軟性を損ねない遮蔽構造により光照射下においても安定動作し、光検出器から変換された電気信号を走査&読出しするアクティブマトリックス駆動を行います。さらに、シート型光センサの検出信号の制御・増幅を行うために、有機トランジスタ回路を内蔵することも可能です。シート型光センサを無線計測システムと統合することで、可視~赤外光源、熱源、内部溶液の濃度などを簡易に検知・イメージングすることを実現しました。本研究成果は、フレキシブルセンサによる広帯域光分析を可能とすることで、生体や生体代謝物の非侵襲モニタリング、インフラ構造物の非破壊検査、配管内部の非採取検査など、様々な検査技術へ貢献することが期待されます。

本研究成果は、1月11日(木)に独国科学誌「Advanced Materials」(オンライン, Early View)に公開されました。

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図1. カーボンナノチューブ光検出器と有機トランジスタを集積実装したシート型光センサの概要図
(Attribution 4.0 International (CC BY 4.0), Reprinted with permission from Advanced Materials)

研究の背景

光センサは、光を電気信号に変換して検出する素子であり、私達の日常生活から医療、産業、科学に至るまで、広範な分野で活用されています。一般的な光センサは、硬質な光検出器と回路が、厚く頑丈な基板へ実装されることで作製されてきました。一方で近年、薄くて柔らかい光検出器と回路からなるシート型光センサの開発が、ヘルスケアや検査分野において注目されています。シート型光センサは、測定対象物の形状に合わせて変形することで、複数視野のイメージングが可能です。この機能は、対象物表面や内部の分析において有効であり、光を用いたウェアラブルデバイスや非破壊検査機器への活用が期待されています。さらに、これらの分析に長波長の赤外光(中赤外光~テラヘルツ)を用いることで、対象物の熱や化学組成を分析することができます。しかし、従来のシート型光センサに搭載されていた半導体薄膜からなる光検出器は、可視光などの短波長検出に適している一方で、長波長の赤外検出が困難であるという課題がありました。同時に、曲げ変形時や広帯域の光が照射された際においても安定動作する柔軟な検出回路を実現する必要がありました。

研究の内容

今回、研究グループは、長波長赤外光を含む広帯域光を検出可能なシート型光センサの開発に成功しました。

このシート型光センサは、カーボンナノチューブ光検出器と有機トランジスタからなる回路を搭載しています。広帯域の電磁波を吸収できるカーボンナノチューブ膜を光検出器として利用することで、波長が3桁以上異なる広帯域光(可視光からテラヘルツ)の検出が可能となりました。また、この光検出器は、厚さ5 μm以下の有機基板に印刷形成することで、厚い基板(厚さ500 μm以上)上に形成された場合と比較し、出力電圧は約21倍、応答速度は15倍以上へ向上しました。同様に薄膜基板上に形成された有機トランジスタは、チャネル直上への遮光層導入によって、光照射下における基本特性とスイッチング機能が安定化しました。いずれの素子も柔軟性を有しており、曲げ半径1 mm以下で1000回変形させた際においても、安定した特性を有していました。

シート型光センサは、カーボンナノチューブ光検出器と有機トランジスタからなるセルがアクティブマトリックスとして集積実装されることで作製されました。このシート型光センサは、無線計測システムによって駆動するため、携帯性に優れています。また、曲げられた状態においても安定したイメージングが可能です。このシート型光センサの機能実証として、赤外光照射の動画撮影に加え、長波長の赤外検出を活用した熱イメージングや液質検査に応用できることが示されました。(図2)

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図2. シート型光センサを用いた光・熱・分子の検知とイメージング
(Attribution 4.0 International (CC BY 4.0), Reprinted with permission from Advanced Materials)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で開発したシート型光センサは、柔軟・薄型・軽量であることから、装着感のないウェアラブルデバイスへの応用に適しています。広帯域光を同時撮像することで、生体代謝物、体温、脈波などの複数機能を非侵襲モニタリングする、マルチモーダルなウェアラブルセンサの実現に貢献できます。また、透過性の高い赤外光は、工業製品や建造物の非破壊検査での活用が進んでいます。従来の大型で重い赤外イメージング機器をシート型光センサに置き換えることで、小型・軽量でユーザーフレンドリーな検査システムの実現が可能となると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年1月11日(木)に独国科学誌「Advanced Materials」(オンライン, Early View)に掲載されました。

タイトル:“Ultraflexible Wireless Imager Integrated with Organic Circuits for Broadband Infrared Thermal Analysis”
著者名:Rei Kawabata, Kou Li, Teppei Araki, Mihoko Akiyama, Kaho Sugimachi, Nozomi Matsuoka, Norika Takahashi, Daiki Sakai, Yuto Matsuzaki, Ryo Koshimizu, Minami Yamamoto, Leo Takai, Ryoga Odawara, Takaaki Abe, Shintaro Izumi, Naoko Kurihira, Takafumi Uemura, Yukio Kawano, and Tsuyoshi Sekitani
巻号:未採番
DOI: 10.1002/adma.202309864

参考資料

フレキシブル・イメージャーの原理や最新動向が、2023年7月5日(水)に独国科学誌「Advanced Materials」(オンライン, Early View)の総説に掲載されています。

タイトル:“Broadband Photodetectors and Imagers in Stretchable Electronics Packaging”

著者名:Teppei Araki, Kou Li, Daichi Suzuki, Takaaki Abe, Rei Kawabata, Takafumi Uemura, Shintaro Izumi, Shuichi Tsuruta, Nao Terasaki, Yukio Kawano, Tsuyoshi Sekitani

巻号:未採番

DOI:10.1002/adma.202304048

参考URL

荒木徹平 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2d72e7728c9301e4.html

関谷毅 教授 研究室
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/aed/japanese/

中央大学 河野行雄 教授 研究室
https://sites.google.com/view/kawano-laboratory/ホーム

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

アレイ集積実装

センサやトランジスタなどの素子からなる1組のセルを格子状に配列し、基板上へ複数のセルを集約する方法。これにより、デバイスが処理する信号やデータの数量を増やすことができる。

アクティブマトリックス

アレイ集積実装したデバイスを制御する方式の1つである。スイッチ素子としてのトランジスタが各セルに配置され、スイッチを順にON/OFFしていく事で、セル内の信号やデータを逐次的に読み書きしていく手法。大規模なアレイ集積実装時には、配線数を削減できる利点が際立つ。