さりげないエレクトロニクス。

さりげないエレクトロニクス。

世界で最透明・最薄の電位センサシートを実現!

2020-12-11工学系
産業科学研究所関谷毅教授/荒木徹平助教/竹本明寿也さん(博士後期課程)

研究成果のポイント

・柔らかくて・目に見えにくい世界最薄・最透明な電位センサシートを実現。
・これまでのセンサには、硬くて不透明な素材である電極や半導体が利用されておりエレクトロニクスの存在感があった。今回、センサの材料・プロセス技術を開発し、柔軟な極薄膜基板上に透明性と柔軟性を示す電極や半導体を集積化した。
・将来、生体、食品、社会インフラ、家、自動車などのあらゆる対象物の表面に貼りつけた状態で、外観を損ねることなく、さりげない計測を可能とするセンサ構築が期待できる。

概要

大阪大学産業科学研究所の荒木徹平助教、大学院生の竹本明寿也さん(博士後期課程)、関谷毅教授らの研究チームは、世界最薄・最透明な電位センサシートを開発することに成功しました(図1)。

従来のセンサは、金属や半導体などを硬い素材を用いて集積化されています。そのため、生体(人、動物、植物、食品など)へ接触して電位信号計測する際には、生体組織の炎症や損傷を引き起こすリスクが高いと認識されていました。そこで、機械的柔軟性を備える素子が必要になり、フレキシブル有機エレクトロニクスの研究開発が活発になされています。しかし、どの素子も不透明であるものが多く、エレクトロニクスの存在感がありました。

今回、柔軟性や透明性に富む銀ナノワイヤ材料を用いて、配線特性を損ねることなく微細化できるプロセス技術を構築しました。その結果、1μm厚基板上の透明ポリマー基板へ、高い透明性(96%)と高い導電性(シート抵抗 25Ω/sq)を示す微細電極(25μm幅)を実現しました。この配線技術をもとに、単一細胞計測やトランジスタ回路内臓を可能とするフレキシブルな電位計測センサが実現しています。

この成果により、将来、生体だけでなく社会インフラや家、自動車などのあらゆる対象物において、ユーザビリティを高めたセンサシステムとして広い展開を期待できます。

本研究成果は、独国エレクトロニクス誌「Advanced Intelligent Systems」に、2020年11月23日(月)に表紙付公開されました。また、2020年11月17日(火)英国エレクトロニクス誌「Flexible and Printed Electronics」での総説論文には、世界最薄・最透明を示す特性比較図がまとめられています。

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図1 世界最薄・最透明な電位センサシート

研究の背景

従来、透明電極(透明配線と同意)は、ディスプレイや太陽電池などの光電子デバイスにおいて重要な役割を果たしており、酸化インジウムズズ(ITO)などの材料で作製されていました。近年、硬い材料であったITO透明電極の代替材として、カーボンナノチューブ、グラフェン、導電性ポリマー、金属ナノワイヤなどが検討されていました。これらの新規材料は、フレキシブルディスプレイやフレキシブル太陽電池などの次世代の光電子デバイス創出にむけて注目されています。

特に、銀ナノワイヤを用いた透明電極は、金属的な性質から導電性に優れており、さらに柔軟性を発現できるなど、高性能化が容易な材料系であると認識されつつあります。これまで、銀ナノワイヤ電極は、スピンコート、ドロップキャスト、スプレーコートなど湿式プロセスを利用して形成されていました。しかし、電極中において、銀ナノワイヤのメッシュ構造がランダムとなりやすく、不均一な電気伝導パスを形成していました。その結果、電極パターンを微細化する際に、メッシュ構造の伝導パスが途切れる課題が発生していました。つまり、透明性、導電性、柔軟性、微細パターンを同時に達成することは、これまで実現されていませんでした。

今回、湿式プロセスである親水撥水パターニングにより銀ナノワイヤ電極の微細化技術を開発し、透明性、導電性、柔軟性、微細パターンの4つを同時達成する透明電極を実現しました(図2)。銀ナノワイヤ配線は、十字配向を利用する構造を適用した場合、最小20μm幅(単一細胞と同等のサイズ)のパターンサイズを実現しました。銀ナノワイヤ電極の特性は、例えば25μm幅において、25Ω/sqのシート抵抗、および96%の高い可視透過率を示しました。これら特性は、大面積な銀ナノワイヤ透明電極と同等の特性であり、開発した微細化手法の有用性を示唆するものであります。

さらに、高性能かつ微細な銀ナノワイヤ透明電極を用いて、極薄膜で可視透過率の高いセンサシートを2つ実現しました(図1)。第一に、単一細胞から電気生理信号を検出するためのセンサシート。第二に、ソース、ドレイン、ゲートへ電極として利用した有機トランジスタの回路を搭載したセンサシート。これらのセンサは曲げ耐久性にも優れていることが実証されました。

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図2 湿式プロセスによる銀ナノワイヤ微細配線、および十字配向ナノワイヤ. Reprinted with permission from our achievement in AdvancedIntelligent Systems.

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、将来、生体だけでなく社会インフラや家、自動車などのあらゆる対象物において、ユーザビリティを高めたセンサシステムとして広い展開を期待できます。つまり、外観を損ねない計測系、対象物へ低負荷な計測系、従来の光学検査との併用手法などへ応用が可能になります。

特記事項

本研究成果は、独国エレクトロニクス誌「Advanced Intelligent Systems」に、2020年11月23日(月)に表紙付公開されました。

タイトル:“Printable Transparent Microelectrodes toward Mechanically and Visually Imperceptible Electronics”
著者名:Ashuya Takemoto, Teppei Araki, Takafumi Uemura, Yuki Noda, Shusuke Yoshimoto, Shintaro Izumi, Shuichi Tsuruta, Tsuyoshi Sekitani
DOI: 10.1002/aisy.202000093
論文誌動画 URL: https://youtu.be/3vmQTbCjKNU

また、2020年11月17日(火)英国エレクトロニクス誌「Flexible and Printed Electronics」での総説論文にも特性がまとめられています。

タイトル:“Flexible neural interfaces for brain implants—the pursuit of thinness and high density”
著者名:Teppei Araki, Lukas M Bongartz, Taro Kaiju, Ashuya Takemoto, Shuichi Tsuruta, Takafumi Uemura, Tsuyoshi Sekitani
DOI: 10.1088/2058-8585/abc3ca/meta

なお本研究は、日本学術振興会の科研費(領域番号 19H02199)、科学技術振興機構(JST) Center of Innovation (COI) Program、村田学術振興財団、大阪大学全学交換留学プログラム FrontierLab@OsakaU の一部として行われました。

参考URL

産業科学研究所 関谷研究室HP
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/aed/japanese/

用語説明

銀ナノワイヤ

直径20~100nm、長さ5~100μm程度の銀系ナノ材料。これまで、大阪大学産業科学研究所では、銀ナノワイヤに関して、化学合成、曲げ・伸縮耐久性のある透明配線、センサ等の開発を多く行ってきました。

参考文献)

独国材料誌「Advanced Materials」に、2019年11月29日に公開済の総説論文に銀ナノワイヤに関する研究動向詳細がまとめられています。

タイトル:“Wireless Monitoring Using a Stretchable and Transparent Sensor Sheet ContainingMetal Nanowires”

著者名:Teppei Araki, Takafumi Uemura, Shusuke Yoshimoto, Ashuya Takemoto, Yuki Noda,Shintaro Izumi, Tsuyoshi Sekitani

DOI: 10.1002/adma.201902684

親水撥水パターニング

銀ナノワイヤ分散液をコーティングする際に、予め用意した親水性領域と撥水性領域をパターニングした基板を利用し、分散液を親水領域へ選択的に形成する技術。

参考文献)

英国材料誌「Nanotechnology」に、2019年7月3日に公開済の論文に本技術がまとめられています。

タイトル:“ Fine printing method of silver nanowire electrodes with alignment andaccumulation”

著者名:Ashuya Takemoto, Teppei Araki, Yuki Noda, Takafumi Uemura, Shusuke Yoshimoto, Robert Abbel, Corne Rentrop, Jeroen van den Brand, Tsuyoshi Sekitani

DOI: 10.1088/1361-6528/ab2aad

有機トランジスタ

有機物から構成される半導体を用いた電界効果トランジスタ。