モルフォ蝶に学んだ新たな光拡散シートを作製

モルフォ蝶に学んだ新たな光拡散シートを作製

省エネ型の採光窓から照明まで幅広い応用が期待

2023-9-5工学系
工学研究科准教授齋藤 彰

研究成果のポイント

  • 輝くモルフォ蝶をヒントにナノ構造を工夫し、新たな光拡散シートを作製。その機能を実証した。
  • 通常の光拡散材は、微小な散乱体を埋め込んで光を拡散するか、表面の微小凹凸による屈折で光を曲げることで光を拡散している。しかし、散乱体では「明るさ」と「角度広がり」が両立せず、屈折では角度広がりの不足、汚れ易い、等の欠点があった。
  • モルフォ蝶の光学原理を参考に、ナノ構造による回折と乱雑さの工夫により、明るく広角で、色が偏らず防汚性能ももつ光拡散シートを作製。さらに本シートは、拡散光の形状異方性も制御可能。
  • 省エネ型の採光窓や、各種照明用の光拡散板への応用に期待。

概要

大阪大学大学院工学研究科の齋藤彰 准教授、大学院生 山下和真さん(博士後期課程)らの研究グループは、ナノ構造を工夫することで「明るく広角で、色が偏らず、防汚機能もある」光拡散シートを世界で初めて実作しました。本シートは拡散光の異方性も制御できます。ヒントは、「明るく広角で色が偏らない反射をもち、撥水性もある」モルフォ蝶の翅(はね)です。原理の源を分析し、透過に応用することで、実作に成功しました。

これまで光拡散材は、微小な散乱体を埋め込んで光を拡散するか、表面の微小凹凸による屈折で光を曲げていました。しかし散乱体では「明るさ」と「角度広がり」が両立せず、屈折では「角度広がり」の不足、汚れ易い、等の欠点があり、全てを満たす窓はありませんでした。

本シートは、一昨年、採光窓として理論的に機能を証明し、昨年の試作から改良を経て、今回完成しました。

今回、本研究グループは、モルフォ蝶の特異な反射特性を透過に転用することで、「明るく広角で、色が偏らず、防汚機能もある」全条件を満たす構造を発案し、実作により機能を確認しました。これにより、省エネに役立つ採光窓や、各種照明に役立つ光拡散シートなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Advanced Optical Materials」(2301086)に、7月26日(日本時間)に公開されました。

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図1. 新たに作製されたモルフォタイプ光拡散シート

研究の背景

これまで光拡散材は、微小な散乱体を埋め込んで光を拡散するか、表面の微小凹凸による屈折で光を曲げていました。しかし散乱体では「明るさ」と「角度広がり」が両立せず、屈折では角度広がりの不足、汚れ易い、等の欠点がありました。

研究の内容

本研究グループでは、モルフォ蝶の微細構造が「狭い幅からの回折」で光を広角に広げ、「乱雑さ」で色の偏りを防ぐことを応用し、ナノ構造からの回折に基づく光拡散シートを作製しました。回折は表面だけで生じるので、高い透過率も得られます。また表面のナノの凹凸は、ハスの葉がもつ撥水性(ロータス効果)と同じ効果により、防汚機能があります。電磁場シミュレーションにより実作可能な構造を設計し、半導体技術で実作した結果、この構造が所定の特性を満たすこと(角度広がりは垂直方向から±40°、透過率~90%、色分散なし、防汚機能あり)を実証しました。さらに設計次第で、拡散光の形状異方性の制御もできます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、省エネに役立つ採光窓や、各種の照明・ディスプレイに役立つ光拡散シートへの応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年7月26日(水)(日本時間)に国際科学誌「Advanced Optical Materials」(2301086)に掲載されました。

タイトル:“Development of a High-Performance, Anti-Fouling Optical Diffuser Inspired by Morpho Butterfly's Nanostructure”
著者名:Kazuma Yamashita, Kana Taniguchi, Takuma Hattori, Yuji Kuwahara, Akira Saito

なお、本研究は、科研費の一環として行われ、応用に関わる検証部分はJST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)、また一部は積水化学 自然に学ぶものづくり研究助成プログラムの支援を受け、大阪大学 大学院 工学研究科 桑原裕司教授の協力を得て行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

モルフォ蝶

南米に産し、生きた宝石とも呼ばれる青く輝く蝶。その発色は一見、物理学的に矛盾し、シャボン玉と同じ光干渉なのに虹色でなく、広角で青い。その秘密は、乱雑さを含むナノ構造にある。

回折

波が波長程度の小さな構造に当たると、そこから広がって伝播してゆく現象。たとえば水面を進む波が、それを遮る板状の遮蔽物に当たるとき、板に小さな隙間があるとそこから波は広がってゆく。

ロータス効果

ハスの葉が泥水でも汚れずに光合成ができるのは、ナノスケールの凹凸構造による撥水性が効いているためであることがわかっている。この構造を応用し、化学処理を使わず構造だけで撥水や防汚ができるフィルムが開発されている(ヨーグルト容器の内蓋など)。