アンドロイドの「顔の表現力」に新評価法
アンドロイドの顔の表現性能はどこまで人に近づいたか?
研究成果のポイント
- 皮膚の変形によって感情や性格、あるいは意図の情報を表示するディスプレイ装置であるアンドロイドロボットの顔の機械性能を厳密評価し、設計改良の指針を得る新手法を提案
- 特定の顔の動きのみに焦点をあてる従来の評価法では効果的な機械設計改良の指針を得ることは難しかったが、皮膚各部が運動しうる空間範囲を「表現力」の数値指標として採用する方法により可能に
- 本手法によって、人ほどに高い表現力を備えるアンドロイドの開発競争の加速が期待
概要
大阪大学大学院工学研究科の石原尚講師は、皮膚の変形によって感情や性格、あるいは意図の情報を表示するディスプレイ装置であるアンドロイドの顔の表現性能を厳密評価する新手法を提案し、この手法によって、アンドロイドの表現性能が「顔のどの部分にどの程度備わっているか」および「人と比較してどのように不足しているか」の詳細を明らかにできることを示しました。
従来、アンドロイドの顔に対しては、皮膚を動かす力を生み出す機械装置が皮膚と繋がる位置(皮膚駆動点)の一部の動きを組み合わせた場合に生じる、喜びや悲しみを表す「皮膚全体の動きの特定パターン」に焦点をあてた限定的な評価に重点が置かれ、顔という装置が備える「皮膚の各位置を多様に動かす」という総合的な観点での機械性能の評価は不十分でした。今回、石原講師は、皮膚の駆動点を最大限に動かした際に生じうる顔皮膚各部の多様な3次元運動のバリエーションを精密計測し、皮膚が運動しうる空間範囲を「表現力」の数値指標として採用する方法を提案しました。そして、最近開発されたアンドロイドを実際に評価し、表現力のレベルは顔の上部と下部で大きく異なることを示すとともに、表現力の分析によってそれぞれの部分に効果的な設計改善指針を見出しました。この手法により、今後、より表現力の高いアンドロイドの開発競争の活性化が期待されます。
本研究成果は、日本ロボット学会の欧文誌「Advanced Robotics」に、8月13日(土)に公開されました。
研究の背景
アンドロイドの顔は、柔らかい皮膚の内面に搭載された機械装置の動かし方を変えて作り分けた皮膚の変形によって、感情や性格、あるいは意図の情報を表示するディスプレイ装置です(図1左)。従来、アンドロイドの顔に対しては、機械装置と皮膚が繋がる位置(皮膚駆動点)の特定の動きの組み合わせで生じる、喜びや悲しみを表す「皮膚全体の動きの特定パターン」に焦点をあてた限定的な評価に重点が置かれ、顔という装置が備える「皮膚の各位置を多様に動かす」という総合的な観点での機械性能の評価は十分ではありませんでした(図1右上)。そのため、アンドロイドの顔の設計改良においては、設計者の経験や勘に頼らざるを得ない状況でした。
図1. アンドロイド性能評価の従来手法と提案手法の違い
研究の内容
今回、石原講師は、皮膚の駆動点を最大限に動かした際に生じうる顔皮膚各部の多様な3次元運動のバリエーションを光学式モーションキャプチャで精密計測し、皮膚が運動しうる空間範囲を「表現力」の数値指標として採用する方法を提案しました(図1右下)。この指標においては、より大きな強度で様々な方向に皮膚が動く場合に、「この顔においてはその部分の表現力は高い」と評価されます。そして、最近開発された2体のアンドロイドと3名の成人男性にこの手法を適用し、これらのアンドロイドの三次元的な表現力は、人と比較して、顔の上部においては概ね1桁、下部においては2~3桁低いレベルにあることを確認しました(図2上)。一方で、皮膚各部においてもっとも幅広く動く単一の運動方向に限ってみれば、顔の上部における表現力は人とほぼ同等レベルまで達しており、下部における表現力の低さも1桁程度に留まることも確認されました(図2下)。このような表現力レベルの違いは、皮膚の運動範囲の近似八面体表示(図3)によっても容易に把握することができます。これらのことから、これらのアンドロイドの表現力を今後人ほどに高めていくためには、顔の上部においては、従来実現されていなかった方向への運動を可能にするような改良が効果的である一方で、顔の下部においては、従来実現されていた方向への運動についてもさらに強度を増すような改良が必要であると判断することができます。
図2. アンドロイドおよび人の顔における表現力分布の比較
図3. 表現力の八面体表示の比較
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
提案手法により、アンドロイドの設計改善のための個別評価だけでなく、異なる方式で開発されたアンドロイドの間での表現性能の公平な比較や、人の表現力を基準とするアンドロイド技術の到達度の定量把握が可能になるため、より表現力の高いアンドロイドの開発競争が活性化されることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2022年8月13日(土)に日本ロボット学会欧文誌「Advanced Robotics」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Objective Evaluation of Mechanical Expressiveness in Android and Human faces”
著者名:Hisashi Ishihara
DOI:https://doi.org/10.1080/01691864.2022.2103389
なお、本研究は、JSPS科研費特別推進研究、若手研究、および株式会社A-labとの共同研究の一環として、株式会社A-labのアンドロイドの提供を受けて行われました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- アンドロイド
人に似た外見を有するロボット。柔軟な皮膚を情報伝達の手段として積極的に用いることが特徴。
- 光学式モーションキャプチャ
光線(主に赤外光)を利用して計測対象の空間位置を推定する技術。計測対象に貼り付けた光反射マーカに光線を照射し、その光線のみを透過するフィルタ越しに様々な角度から計測対象を撮影して得られた画像に基づいて光反射マーカの空間位置を計算する。