大阪大学大学院工学研究科の石原 尚 講師らの研究グループは、アンドロイドと人の間には、顔の上半部の皮膚の大局的な流れの複雑さにおいて顕著な差異があることを世界で初めて明らかにしました。

柔らかい連続面である人とアンドロイドの顔皮膚においては、瞼を閉じる、あるいは眉を挙げる、といった単純かつ局所的に思える運動であっても広範囲が連動し、大域的な３次元的流れが生じます。その流れは、皮膚および皮下の材質や構造に大きく依存して決まるため、表情筋あるいは表情機構が皮膚を駆動する向きだけからは予想がつきません。

これまで、アンドロイドの表情の人らしさは、主に心理印象や幾何学的特徴点の移動軌跡、あるいは皮膚表面の形状に注目して評価されるに留まり、表情を形づくる皮膚全面の流れの観点では評価されてきませんでした。

今回、石原尚講師らの研究グループは、２体のアンドロイドおよび３名の成人男性の顔の右半面に１００以上の位置計測用マーカを貼り付け、アンドロイドについては９および１６種、成人男性については４６種の顔動作に伴うマーカの３次元的な移動を計測し、大域的な流れの特徴を比較しました。そして、顔の上半部において、アンドロイドの皮膚の流れは概して直線的であるのに対し、人では曲線的であるという差異を明らかにしました（図１）。また、アンドロイドにおいては、皮膚が流れる先の皮膚が隆起し、流れる元が沈下するのに対し、人においては逆に、皮膚の流れる先が沈下し、流れる元が隆起する場合がある可能性を示唆する結果も得られました。これらの差異は、未だ残るアンドロイド表情の違和感の要因となっている可能性があり、今後アンドロイドの表情機構に曲線的な皮膚の流れを生じさせる工夫や、表面の隆起陥没を制御する工夫を施すことによって、違和感なく効果的に感情を表現可能なアンドロイドの実現に近づけることが期待されます。

本研究成果は、オンライン論文誌「Frontiers in Robotics and AI」に、3月22日（月）14時（日本時間）に公開されました。

図1. 内眉を上げる動作に伴う皮膚の流れのアンドロイド（左、中央）と成人男性（右）の比較。研究成果論文より一部改変。

これまで、一見人間そっくりに見えるアンドロイドであっても、表情を表出した際に違和感が生じることが知られていました。しかし、心理印象評価で違和感が報告されたとしても、その違和感がアンドロイドの顔のどの部分の不良に起因するものなのかは特定することはできません。また、少数の皮膚特徴点の移動軌跡や皮膚表面形状が人と一致していたとしても、強い違和感は残ったままでした。そこで、目立たない部分も含めた皮膚表面全体の動きをより高精度に捉え、アンドロイドと人の特徴を比較評価する手法による改善指針の把握が課題でした。

本研究成果に基づいた今後の設計改善によって皮膚全面の流れ方が人に近いものになることにより、アンドロイドの表情の違和感が低減され、より親しみやすくなることが期待されます。また、人がアンドロイドの表情の意味を解釈しやすくなることで、感情を表出して伝達するという、顔が持つ情報機能が向上し、感情の伝達が重要となる場面でのアンドロイドの利活用の効果が高まることも期待されます。

本研究成果は、2021年3月22日（月）14時（日本時間）にオンライン論文誌「Frontiers in Robotics and AI」に掲載されました。

タイトル：“Comparison Between the Facial Flow Lines of Androids and Humans”
著者名：Hisashi Ishihara、 Saneyuki Iwanaga and Minoru Asada
DOI：10.3389/frobt.2021.540193

なお、本研究は、科学技術振興機構（JST）戦略的創造研究推進事業 さきがけ 研究領域「新しい社会システムデザインに向けた情報基盤技術の創出」における研究課題「触れ合いデータを収集する子供アンドロイド高機能化」（研究者：石原 尚）の支援を受け、株式会社エーラボとの共同研究の一環として、株式会社エーラボのアンドロイドの提供を受けて行われました。

石原尚講師　研究者総覧URL
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=10000204