くも膜下出血患者での腸内細菌叢の特徴を明らかに

腸内細菌が脳動脈瘤破裂に関与する可能性

2021-11-8生命科学・医学系

研究成果のポイント

  • 未破裂脳動脈瘤患者とくも膜下出血患者との腸内細菌叢に違いがあることを明らかにした
  • Campylobacter、その中でもC. ureolyticusが破裂に関与していることが示唆された
  • 腸内細菌叢を用いた脳動脈瘤の破裂予測や、破裂予防の新たな治療法につながることが期待される

概要

大阪大学大学院医学系研究科の高垣匡寿助教、大学院生の川端修平さん、貴島晴彦教授(脳神経外科学)らの研究グループは、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を発症した患者の腸内細菌叢を調査し、その特徴を明らかにしました。

これまで、環境因子が脳動脈瘤の破裂に関わっていることが知られていましたが、腸内細菌叢がどのように脳動脈瘤の破裂と関係しているのかは不明でした。

今回、研究グループは、腸内細菌叢を調べる方法として代表的な16S rRNA解析を用いて、くも膜下出血患者と未破裂脳動脈瘤患者の腸内細菌叢を比較しました。その結果、くも膜下出血の発症と腸内細菌との間に関連があることがわかりました(図1)。

今後、腸内細菌叢を用いた脳動脈瘤の破裂予測や、破裂予防の新たな治療につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Stroke」に、11月3日(水)に公開されました。

20211108_1_1.png

図1. 研究結果の概略
くも膜下出血患者と未破裂脳動脈瘤患者の腸内細菌叢を比較し、Campylobacter属、その中でもC. ureolyticusが破裂に関与していていることを示唆した。

研究の背景

これまでに腸内細菌叢は全身の様々な疾患と関係していることが知られており、さまざまな脳神経疾患との関係も報告されていました。また、脳血管の病気である脳動脈瘤に関しても、少数ですが腸内細菌叢と関係しているとの報告がなされています。しかし、これまでは動物実験や未破裂脳動脈瘤患者を対象とした研究報告しかなく、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者の腸内細菌を調べ、その特徴を報告したものはありませんでした。

本研究の成果

研究グループは、腸内細菌叢を調べる方法として代表的な16S rRNA解析を用いて、くも膜下出血患者と未破裂脳動脈瘤患者の腸内細菌叢を比較しました。その結果、くも膜下出血患者に特徴的ないくつかの細菌株を同定しました(図2)。

さらに、他の疾患を対象とした研究では検出されていないCampylobacter属に注目し、種特異的なPCR法を用いてより正確な検査を行いました。その結果でもCampylobacter属がくも膜下出血患者に多く検出されることが確認され、また、その中でもC. ureolyticusの検出率が高いことが明らかになりました。

20211108_1_2.png

図2. 群間比較解析結果
赤がくも膜下出血患者に多い菌を表す。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、従来では年齢や性別、動脈瘤の大きさなどでしか予測しえなかった未破裂脳動脈瘤の破裂率に腸内細菌叢という新しい因子を加えることで、より高い精度で破裂予測ができるようになると期待しています。また、これまでは外科的治療しか効果的な破裂予防ができなかった未破裂脳動脈瘤に対して、腸内細菌叢を操作し破裂予防を行うという新しい治療法につながるものと考えています。

特記事項

本研究成果は、2021年11月3日(水)に米国科学誌「Stroke」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】 “Dysbiosis of Gut Microbiome is Associated with Rupture of Cerebral Aneurysm”
【著者名】 Shuhei Kawabata1, Masatoshi Takagaki1*, Hajime Nakamura1, Hiroya Oki2, Daisuke Motooka2, Shota Nakamura2, Takeo Nishida1, Eisaku Terada1, Nobuyuki Izutsu1, Tomofumi Takenaka1, Yuichi Matsui1, Shuhei Yamada1, Katsunori Asai3, Akihiro Tateishi3, Toru Umehara4, Yoshihiro Yano4, Yohei Bamba5, Katsumi Matsumoto5, Toshihiro Kishikawa6, Yukinori Okada6, Tetsuya Iida2, Haruhiko Kishima1
*責任著者
【所属】
1. 大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科学
2. 大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター感染症メタゲノム研究分野
3. 唐澤記念会大阪脳神経外科病院 脳神経外科
4. 錦秀会阪和記念病院 脳神経外科
5. 医誠会医誠会病院 脳神経外科
6. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
【DOI】 10.1161/STROKEAHA.121.034792

用語説明

くも膜下出血

多くの場合、脳血管に生じた脳動脈瘤が破裂することで発症する、予後不良の疾患である。年間の発症率は10万人あたり約20人と報告されており、本邦では諸外国よりも高い傾向にある。

腸内細菌叢

ヒトの腸内に定着している細菌群であり、その数は1000種以上に及ぶ。近年の研究により、腸疾患のみならず、脳やその他全身の疾患にも関与していることが報告されている。

Campylobacter属

グラム陰性桿菌。食中毒を引き起こすC. jejuniが有名だが、それ以外にも多くの種類が存在しており、2014年時点では26種、9亜種が報告されている。

C. ureolyticus

Campylobacter属の一種。急性下痢症の原因菌である可能性が指摘されている。

16S rRNA解析

細菌のもつリボソームRNAの塩基配列を判別することで細菌の種類を推定する解析手法。近年の細菌研究において頻用されている。