壊れにくい金属ナノ粒子の低温・簡便な合成に成功

壊れにくい金属ナノ粒子の低温・簡便な合成に成功

高活性・高温強度・高耐久性を兼ね備えた次世代触媒として期待

2021-6-23工学系
工学研究科産業科学研究所准教授森浩亮

研究成果のポイント

  • 5種類の金属元素(Co,Cu,Ni,Ru,Pd)から構成されるナノサイズの粒子(以下、ハイエントロピー合金(HEA)ナノ粒子)が、過酷な高温条件下や電子線照射下においても極めて安定であることを発見
  • これまでHEAナノ粒子の製造にはエネルギー多消費型の特殊プロセスが必要であったが、独自の技術を応用することで低温での簡便合成に成功
  • 二酸化炭素(CO2)を原料とし、化学工業で有用な一酸化炭素(CO)やメタン(CH4)の製造反応に高い活性を示す金属触媒として機能

概要

大阪大学大学院工学研究科の森浩亮准教授、大学院生の橋本直樹さん(博士前期課程2年)、小林久芳特任教授、山下弘巳教授らの研究グループは、大阪大学産業科学研究所の神内直人助教、吉田秀人准教授らと共同で、過酷な高温条件下や電子線照射環境下においても壊れないナノサイズ金属粒子の合成に成功しました。

金属ナノ粒子は様々な触媒反応に利用されますが、表面エネルギーが高いため、過酷な環境下では凝集や表面構造の変化が起こり失活してしまいます。この課題を克服するため、森准教授らの研究グループは高い比強度、破壊靭性、高延性、高温強度、耐食性を示すハイエントロピー合金(HEA)に着目しました。HEAは、5種類以上の元素がほぼ当原子組成比(5–35 wt%)で含まれ、単相の固溶体を形成する金属材料です。HEAを触媒材料として利用するためには、ナノ粒子化が必須です。しかしながら、これまでの報告では2000℃以上の瞬間加熱装置や、高温高圧装置が用いられており汎用性が低く、それゆえ触媒材料としての応用は未開拓でありました。

今回、二酸化チタン(TiO2)表面で顕著な水素スピルオーバー特性を異種金属の還元駆動力に利用すると、Co,Cu,Ni,Ru,Pdの5元素で構成される2ナノメートルのHEAナノ粒子がTiO2表面に400⁰Cで合成できることを見出しました。触媒性能を、環境・エネルギー分野で切望されている二酸化炭素の資源化反応にて評価したところ、400⁰Cで長時間利用してもその粒子径は変化せず、極めて高い耐久性を示しました。さらに透過型電子顕微鏡を利用したその場実験において、電子線照射によるknock-onダメージに対しても安定であることが見出されました。

森准教授らの開発した担持合金ナノ粒子は、調製が極めて簡便である、過酷な環境下においても安定性が高く分離・回収の容易な粉末状であるなど、実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備えています。また、CO2資源化反応において、単一金属から成る既存の触媒より数倍優れた性能を示しました。さらに本研究では、カクテル効果、遅い拡散効果が、触媒活性やナノ粒子の構造安定性に起因していることを、理論計算を用いて証明しており学術的な意義も極めて高いものです。

本件研究成果は、エネルギー資源の有効利用を目指した触媒分野のみならず、ナノテクノロジーを基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications (ネイチャーコミュニケーションズ)」(オンライン)に、6月23日(水)18時(日本時間)に公開されました。

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図1. 高温条件下や電子線照射下で安定なHEAナノ粒子触媒

研究の背景

HEAは、5種類以上の元素がほぼ当原子組成比(5–35 wt%)で含まれ、単相の固溶体を形成する金属材料であり、従来の合金とは異なる高い比強度、破壊靭性、高延性、高温強度、耐食性を示します。このような特徴は触媒材料としても非常に魅力的ですが、触媒材料としての応用は未開拓でありました。その要因としては、5種類以上の還元電位の異なる金属前駆体を、肥大化を抑制しつつ同時に還元する技術がそもそも無いためでした。2000 ºC以上の瞬間加熱装置や、高温高圧装置の利用でこの問題を解決している報告もありますが、汎用的な利用には程遠いという課題がありました。

研究の内容

これまで当研究グループでは、TiO2表面の水素スピルオーバー還元駆動力に利用すると、Ru-NiやRh-Cuなどの熱力学的に非平衡な固溶体合金ナノ粒子が、水素還元というシンプルな手法で、しかも300ºCという低温で生成することを世界に先駆け報告してきました。今回はこの技術を応用すると、Co,Cu,Ni,Ru,Pdの5元素で構成される2ナノメートルのHEAナノ粒子がTiO2表面に400⁰Cで合成できることを発見しました。

合成したHEAナノ粒子は、二酸化炭素の資源化反応において、単一金属から成る既存の触媒より数倍優れた性能を示すだけでなく、400⁰Cで長時間利用してもその粒子径は変化せず、高い耐久性を示しました。さらに興味深いことに透過型電子顕微鏡を利用したその場実験において、電子線照射によるknock-onダメージに対しても安定であることが見出されました。単一金属ナノ粒子はその表面エネルギーが高いため、過酷な環境下では凝集や表面構造の変化が起こり失活してしまいます。これに反しHEAナノ粒子では、配置のエントロピーが大きいために、高温状態でも結晶相が熱力学的に安定化されたためと考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回開発した担持合金ナノ粒子は、調製が極めて簡便である、過酷な環境下においても安定性が高く分離・回収の容易な粉末状であるなど、実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備えています。さらに本研究では、カクテル効果、遅い拡散効果が、触媒活性やナノ粒子の構造安定性に起因していることを、理論計算を用いて証明しており学術的な意義も極めて高いものです。本件研究成果は、エネルギー資源の有効利用を目指した触媒分野のみならず、ナノテクノロジーを基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年6月23日(水)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications (ネイチャーコミュニケーションズ)」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Hydrogen Spillover-Driven Synthesis of High-Entropy Alloy Nanoparticles as a Robust Catalyst for CO2 Hydrogenation”
著者名:Kohsuke Mori, Naoki Hashimoto, Naoto Kamiuchi, Hideto Yoshida, Hisayoshi Kobayashi, and Hiromi Yamashita
DOI: 10.1038/s41467-021-24228-z

なお、本研究は、科学研究費補助金、挑戦的萌芽研究「ハイエントロピー合金ナノ粒子の新規創成とその触媒機能発現に関する研究」の一環として行われました。

参考URL

森浩亮 准教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/c097a99a81f5db35.html

SDGs目標

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用語説明

金属ナノ粒子

ナノメートル(nm)サイズの大きさをもつ粒子であり、触媒をはじめ、医薬品、電池など様々な製品に応用されている。触媒反応は触媒表面で起こるため、触媒粒子をナノサイズにまで小さくすると反応が大幅に促進されたり、触媒の量を減らすことが可能になる。

ハイエントロピー合金(HEA)

5成分以上の元素がほぼ当原子組成比で含まれ、単相の固溶体を形成する合金と定義された、バルク金属材料科学の分野で2004年に提唱された新規材料である。以下に示す4つの特徴(core effects)の発現が知られている。

・ハイエントロピー効果…高い配置のエントロピーに由来する固溶体相安定化効果

・格子ひずみ効果…様々な原子半径を持つ元素が固溶することに由来する格子のひずみ

・遅い拡散効果…格子のひずみに起因する拡散原子のトラップ効果

・遅い拡散効果…格子のひずみに起因する拡散原子のトラップ効果

・カクテル効果…複数の元素による非線形的な相互作用

水素スピルオーバー

気相の水素分子が、酸化物表面上に吸着した金属を介して高活性な単原子として流れ出し、高速に拡散する現象であり、1964年にPt/WO3上で初めて観測された。

二酸化炭素の資源化反応

温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を炭素原料とし、水素(H2)などと反応させることで、化学工業で有用な一酸化炭素(CO)やメタン(CH4)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)などへと変換すること。

knock-onダメージ

電子線の照射による試料の構造劣化であり、入射電子に衝突された原子がその格子点からはじき出されて格子間原子となり、元の格子点が原子空孔となること。照射損傷ともいう。