永久磁石を上手に使って埋もれた鉄筋を診断

永久磁石を上手に使って埋もれた鉄筋を診断

コンクリートに埋もれた鉄筋を瞬時に可視化する新手法

2020-9-24工学系

研究成果のポイント

・永久磁石と磁気センサを上手に活用し、コンクリートに埋設された鉄筋の位置・深さ・太さ・破断箇所などを瞬時に診断するシンプルな新手法を開発
・従来の手法では、鉄筋以外の非磁性金属や空洞なども検出してしまうが、本手法では目的とする鉄筋を確実かつ正確に捉え、診断することが可能
・非破壊で、瞬時に、正確に埋設鉄筋の位置や健全状態などを可視化する技術への応用に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の千葉大地教授は、コンクリートに埋もれた鉄筋を非破壊で瞬時に見つけ、その深さや太さ、破断状況などを診断する新しい手法を開発しました。また、その新技術を用いたコンパクトでシンプルな試験機を試作して動作実証しました。

コンクリートに埋設された鉄筋を非破壊で見つけるための手法はいくつかあり、鉄筋探査機も幅広く市場に出回っています。しかし、多くの手法では、鉄筋だけではなく電線やパイプなどの非磁性金属や空洞も同時に検出してしまいます。

今回、千葉教授は、永久磁石に鉄筋を近づけると、永久磁石からの漏れ磁束を鉄筋が吸い込む性質により、永久磁石周囲の磁界が変化することに注目しました (図1) 。永久磁石の近くに磁気センサを配置した装置を試作し、鉄筋が埋設されたコンクリートの壁をなぞると、この磁界の変化を高感度に検知し、埋設された鉄筋の位置・深さ・太さ・破断状況などを瞬時に診断することができます。この技術をさらに発展させることで、非破壊で、人間の勘に頼らず、瞬時に埋設鉄筋の位置や健全状態などを可視化する技術へ展開が期待されます。

本研究成果は、2020年9月28日より開催される「イノベーションジャパン2020」にて公開されました。

図1
コンクリートに埋もれた鉄筋を検出する原理。コンクリート表面を永久磁石とそのそばに配置したセンサでスキャンすると、鉄筋の接近により、永久磁石周囲の磁力線に変化が生じる。磁力線の密度が磁束密度であり、磁界の大きさに比例するため、その磁界の変化を磁気センサで検出する。

研究の背景

橋梁やトンネルなどインフラの老朽化が進む中、その維持管理は大きな課題です。例えば鉄筋の状況を把握するためには、埋設位置や深さ・太さ・破断個所を同定し、場合によってはコンクリートを破壊して腐食状況などを確認・補強後、再び埋めなおすといった手順が取られています。これらの手順のスピードアップとコスト削減のため、非破壊で瞬時に埋設鉄筋の健全状況を把握する技術はますます重要性が高まっています。

鉄筋の位置・深さ・太さを非破壊で同定するための代表的手法として、電磁波レーダー法、電磁誘導法、レントゲン法などが挙げられます。しかし、これらの手法では、鉄筋だけではなく電線やパイプなどの非磁性金属や空洞も計測してしまいます。一方、本研究と同じく、鉄筋が磁性体である特長を利用し、埋設鉄筋の破断個所からの漏れ磁界を検出する製品も存在します。しかし、鉄筋が破断している場合のみの検査に限られていました。また、外部から強いパルス磁界を鉄筋に与えて鉄筋を一時的に磁石化し、鉄筋から発生する磁界を検出する手法も提案されていますが、強力な電磁石が必要でした。

千葉教授は、永久磁石に鉄筋を近づけると、永久磁石からの漏れ磁束を鉄筋が吸い込む性質により、永久磁石周囲の磁界が変化することに注目しました。実際に、ネオジウム磁石の近くに磁気センサを配備したコンパクトな試験機を試作し、鉄筋試験片の上空をスキャンすると、この磁界の変化を高感度に検知できることを実証しました。

(図2) は、太さ19mmの鉄筋試験片上空を試験機で手動ラインスキャンしている際の状況を撮影した写真と、測定結果(専用ソフトウェアの画面)です。スキャン時間は10秒足らずですが、結果が視覚的に分かりやすく、計測終了と同時に鉄筋の位置や深さを専用ソフトウェアが瞬時に推定してユーザーに通知する仕組みとなっています。今のところ、診断可能な鉄筋の深さ(かぶり深さ)は100mm以上、鉄筋径は6-29mmですが、今後さらに診断性能を伸ばせる余地があると考えています。

(図3a) は建屋のコンクリート外壁を計測している様子を撮影した写真です。タブレットの画面に見えている計測結果のように、壁の中に格子状かつ周期的に埋設されている鉄筋の位置等の情報を瞬時に・正確に・視覚的に得ることができます。また、周囲の鉄筋との様子の違いなども再現性良く調べることができます。 (図3b) は十字に配置した鉄筋試験片上空を同装置で2次元スキャンした際の結果で、原理的にはコンクリートに埋設された格子状の鉄筋も同様に計測できます。 (図4) は、通常の鉄筋と、破断した鉄筋試験片上空を2次元スキャンした結果の比較です。破断鉄筋では、中央付近で明らかにシグナルが大きくなっていることが分かり、鉄筋が破断してしまっている箇所の診断も可能であることを示しています。

現状、2次元スキャンは自動計測ロボットを用いて行っていますが、今後はその高速化や、磁気測定以外の手法も組み合わせ、さらにはAI解析技術なども駆使することにより、鉄筋の埋設構造や腐食状態なども含む健全状態を3次元的に可視化する技術を構築したいと考えています。

図2
試験測定の様子(写真)と、計測結果(左下)。鉄筋試験片上空(センサと鉄筋中央の距離約70mm)で試験機を転がしてラインスキャンすると、左下のグラフが得られ、瞬時に鉄筋深さと位置などが表示される。

図3
a 屋外のコンクリート外壁を試験測定している様子。
b 十字に配置した鉄筋試験片上空を2次元スキャンした際の結果。

図4
通常の鉄筋と中央が破断している鉄筋の2次元スキャンの結果の比較。中央が破断している鉄筋は、中央付近で大きなシグナルが観測されている。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、コンクリートに埋設された鉄筋の計測がより正確かつ迅速に、そして鉄筋状態のよりリアルな可視化技術が発展すると考えられます。また、構造と原理がシンプルであることから、直近ではより安価な鉄筋探査機の実現が期待できます。これらの進歩により、人間の勘に頼らず、非破壊での橋梁やトンネルなどのインフラの老朽化予防保全がさらに進むと考えられ、経済効果や人手不足解消などにも貢献できると考えています。

特記事項

本研究成果は、2020年9月28日より開催される「イノベーションジャパン2020」にて公開されました。

タイトル:"コンクリート埋設鉄筋のみの位置と太さ・深さを瞬時に同定~新非破壊検査手法~"
著者名:千葉大地
イノベーションジャパン2020: https://ij2020online.jst.go.jp/

なお、本研究は、科研費基盤研究(B)「ナノテク計測技術を用いた既設鉄筋コンクリート構造物の非接触腐食診断法の開発」(代表:朱牟田善治)の一環として行われました。また、本研究の一部は一般財団法人電力中央研究所・朱牟田善治氏、小野新平氏、大阪大学産業科学研究所・界面量子科学研究分野(千葉研究室)の山下勝氏との共同研究です。

研究者のコメント

千葉大地教授

もともと私は、原子何枚分という薄さの膜を使ったナノサイエンスやナノテクノロジーの研究を行っておりました。そこでの計測技術からヒントを得て、桁違いに巨大な鉄筋をセンシングするということにチャレンジしました。とても基本的かつシンプルな原理で思いのほか感度よく計測ができましたので、私自身が驚いています。このようにナノからマクロまでを扱うことをトランススケールサイエンスと言うようですが、今後もサイズや分野を超えたアイデアの交換を通じて研究を発展させたいと考えています。

参考URL

産業科学研究所 千葉研究室HP
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/se/index.html