磁気の力で鉄筋の透視に成功
新たな鉄筋探査技術の実用化へ道
研究成果のポイント
- 磁気の力を応用したセンサシステムによりコンクリートに埋設された鉄筋の様子を透視することに成功しました
- 2次元スキャンロボットにより、コンクリート内部の配筋状況を可視化する計測技術を確立しました
- 老朽化した建屋の検査や、施工確認などがより安価にスピーディーに行えるようになると期待されます
概要
大阪大学産業科学研究所の千葉大地教授らの研究グループは、磁気の力を応用したセンサによりコンクリートに埋設された鉄筋の様子を透視することに成功しました(図1)。
千葉教授らのグループは「永久磁石法」(図2)という手法を開発し、それが新たな鉄筋探査手法となりうることを昨年報告していました。永久磁石法では、センサシステムを非常にシンプル、かつ安価に構成可能であり、非磁性の金属などを感知しないため鉄筋のみを狙って検出することが可能です。また、電磁誘導法より深いところに埋設された鉄筋の観測も可能で、コンクリートの湿潤状況などに左右されないという特色もあります。
今回、千葉教授らの研究グループは、永久磁石法を用いたセンサを2次元スキャンロボットに搭載することにより、コンクリートに埋設された鉄筋の配筋状況を可視化することに成功しました。これにより、老朽化した建屋の検査や、施工確認などがより安価にスピーディーに行えるようになると期待されます。
本研究成果は、2021年12月14日-15日に開催されるイノベーションストリームKANSAI 2021にて発表されました。
図1. 永久磁石法を用いたセンサを搭載した2次元スキャンロボットをコンクリート外壁前に設置した様子(左)と、計測結果(右)
図2. 永久磁石法の説明(上)と、センサモジュールの概要(下)
研究の背景
コンクリートに埋設された鉄筋を探査するため、電磁波レーダー法、電磁誘導法、X線レントゲン法などが利用されています。電磁波レーダー法や電磁誘導法はコンパクトな機材で計測が可能であり、広く普及しています。しかし、例えば電磁誘導法では深いところに埋設された鉄筋を検出することは難しく、鉄筋以外の非磁性金属も検出してしまいます。電磁波レーダー法を用いれば、さらに深いところに埋設された鉄筋の検出も可能ですが、電磁誘導法に比べると精度の高い測定が難しく、コンクリートの湿潤状況や空洞等にも計測結果が左右される場合があります。また、X線は厚い壁は透過できないため、限られた場所でしか使用できません。
千葉教授らの研究グループは、永久磁石法という新たな鉄筋探査手法を昨年報告しました。永久磁石法とは、永久磁石と磁気センサの組み合わせからなるセンサモジュールを用いた新しい鉄筋探査手法です(図2)。永久磁石法を用いると、センサシステムを非常にシンプル、かつ安価に構成可能であり、非磁性の金属などを感知しないため鉄筋のみを狙って検出することが可能になります。また、電磁誘導法に比べ、より深いところに埋設された鉄筋の観測も可能で、コンクリートの湿潤状況や空洞の有無などに左右されないという特色もあります。
今回、千葉教授らのグループは、このセンサモジュールを2次元スキャンロボットに搭載し、格子状鉄筋の配筋状況の可視化を試みました。図3のように、まずは理想的な格子状鉄筋サンプルを準備し、実験室内で試験を重ねました。永久磁石法にとっては、コンクリートは完全に透明ですので、コンクリートで覆われたサンプルを準備せずに、様々な鉄筋太さや仮想的な被り深さ、配筋状況における計測結果のデータベースを蓄積することができます。
図1は実験室内ではなく、実際の建屋の屋外のコンサート外壁での実測結果です。コンサートに埋設された鉄筋の様子が透視できていることが良く分かります。
ちなみに、外壁を計測する際、2次元スキャンロボットが意図せず少し傾いており、左上が右下に比べて数ミリメートル程度壁面から離れていました。それに伴い、図1(右)では、左上側のコントラストが薄いことが分かると思います。このように鉄筋とセンサモジュールとの距離によってシグナル強度が敏感に変化するため、鉄筋のかぶり深さや太さの情報も明らかできるものと期待されます。また、図1では、3か所にスポット状の非常に強いシグナルが観測されていますが、これは壁面垂直方向に埋設された鋼材によるものと考えられます。
図3. 永久磁石法センサモジュールを搭載した2次元スキャンロボット(上)と、格子状鉄筋サンプルの計測結果(下)
図4. 破断や錆びなどの観測イメージ
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、老朽化した建屋の検査や、施工確認などがより安価にスピーディーに行えるようになると期待されます。また、図4のように、破断箇所には強いシグナルが検出され、錆びた箇所では鉄筋が周囲より細くなるためにシグナルが弱くなるなど、不健全箇所では、健全箇所とは異なるシグナルが検出されると予想されます。これらは、老朽化診断をアシストするデータをもたらすものと考えられます。
一方で、2次元スキャンロボットは1.5メートル角程度の大きさがあるため、より簡易に計測したいというニーズもあるものと考えられます。そのため、タブレッ トやスマートフォンなどとワイヤレス接続可能な小型のワイヤレスハンディセンサの開発も進めています。図5のように、プロトタイプ機の試作は完了しており、今後軽量化を進め、使い勝手を向上したいと考えています。
図5. 無線ハンディセンサによる簡易計測
特記事項
本研究成果は、2021年12月14日-15日に開催されるイノベーションストリームKANSAI 2021にて発表されました。
タイトル:“コンクリート埋設鉄筋のみの位置と太さ・深さを瞬時に同定 ~新非破壊検査手法~”
著者名:千葉 大地
なお、本研究の一部は、NEDO「官民による若手研究者発掘支援事業」の一環として行われました。また、大阪大学産業科学研究所の山下勝氏、冨田哲夫氏、董博瀚氏の協力を得て行われました。
参考URL
大阪大学産業科学研究所・千葉研究室
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/se/
SDGsの目標
用語説明
- 永久磁石法
永久磁石に鉄筋を近づけると、永久磁石からの漏れ磁束を鉄筋が吸い込む性質により、永久磁石周囲の磁界が変化します。この磁界の変化を磁気センサで観測することにより、コンクリート内に埋設された鉄筋の有無や埋設深さ、太さなどを測定する手法です。
- 電磁誘導法
コイルに交流電流を流すと交流磁界を発生させることができます。金属が近づくと、その表面に過電流が発生します。その過電流により磁界が逆方向に誘導され、コイルの電圧に変化が起こります。その変化を観測することで、鉄筋などの金属が埋設されていることを確認する手段です。
- 電磁波レーダー法
電磁波をアンテナからコンクリート内に入射すると、コンクリート内の鉄筋や非金属管、空洞などから電磁波が反射します。反射した電磁波を受信アンテナで受信し、その電磁波が戻るまでの時間から距離を算出することができます。