量産化への一歩!家畜ふん尿由来バイオガスからメタノールとギ酸の製造に世界で初めて成功!

量産化への一歩!家畜ふん尿由来バイオガスからメタノールとギ酸の製造に世界で初めて成功!

2020-7-15工学系

ポイント

・家畜ふん尿由来のバイオガスからメタノールギ酸の製造に世界で初めて成功した。
・大阪大学先導的学際研究機構(機構長:尾上 孝雄)と、北海道興部町(町長:硲 一寿)は、バイオガスの有効活用技術の開発を目指して2019年6月26日に連携協定を締結し、興部町の興部北興バイオガスプラント及びオホーツク農業科学研究センターにて協議・試験を重ねてきた。
・家畜ふん尿の嫌気性発酵で得られるバイオガスには約60%のメタンガスが含まれている。
・同機構大久保敬教授らの研究グループが開発した、二酸化塩素を用いた光反応はメタンと空気からメタノールとギ酸に変換する技術がバイオガスにも適用できることに着目。
・これまで100%輸入に頼っていたメタノールの国内生産が可能に。
・乳牛の飼料であるサイレージを生産する際に添加剤として使用するギ酸がバイオガスより生産可能に。

興部北興バイオガスプラントについて

北海道興部町は、北海道オホーツク海側に面する人口約3,700人の農業・漁業を基幹産業とする町です。特に農業については、冷涼な気候であることから酪農専業であり規模拡大や近代的な設備導入により生乳生産量で約5万トンを誇っています。生乳生産の拡大には、良質な飼料生産と適切なふん尿処理が必要であり、それを実現するためにバイオガスプラントの導入を町として進めてきており、様々な実証するプラントとして町営の興部北興バイオガスプラント(以下「興部北興BGP」という)を建設・運営しているところです。

興部北興BGPでは、家畜ふん尿の処理の他、町内で発生する下水汚泥・生ごみ・食品加工残渣の受入を行い、バイオマス資源の有効活用を行っています。

また、メタン 発酵により発生するバイオガスについてはバイオガス発電を行い、固定価格買取制度(FIT) を活用して売電(以下「FIT売電」という)を実施しています。

連携協定に至った背景

北海道は一大生乳生産地であり、生乳生産量は400万トンを超え全国の約半分を誇ります。適切なふん尿処理による良質な飼料生産の為、北海道中でバイオガスプラントの建設が計画されています。FIT売電での運営モデルを主としているバイオガスプラントですが、FIT売電期間終了後の運営方法について検討する必要があり、バイオガスの有効活用モデルの検討を行ってきました。

バイオガスは液化が困難であるため、直接気体のまま活用するのか、その他の物質への変換等により活用するのかの検討を行っていたところ、大阪大学で開発したバイオガス中に約60%含まれているメタンガスを空気酸化する技術の活用がバイオガスプラントの普及に寄与するのではないかと考え、2019年6月の連携協定の締結に至りました。

バイオガスから液体燃料製造技術の開発、量産化へ

メタンからギ酸やメタノールへの変換方法については、金属触媒存在下、過酸化水素を使用した反応系などいくつか知られていますが、既存の方法では高温・高圧が必要でした。またバイオガス中には40%の二酸化炭素が含まれており金属触媒を被毒するので、事前に二酸化炭素とメタンガスを完全に分離する必要があることが課題でした。この分離には多大なエネルギーを必要とします。

大久保敬教授らの研究グループは、常温・常圧で空気とメタンからメタノール とギ酸 を作り出すことに世界で初めて成功し2018年2月に発表しています (図1) 。これまでメタンガスからメタノールへの酸化反応は、化学反応のため最も高難度で、世界中の化学者が挑戦してきた夢の反応でした。これは、空気中でメタンを酸化させると、二酸化炭素や一酸化炭素を与える燃焼反応が優先して起こってしまうためであり、これまで当該研究の開発は困難を極めていました。

大久保教授らの研究グループは、二酸化塩素 に光照射 することによって得られる化学種をフルオラス溶媒 中でメタンガスと空気を作用させることにより、ほぼ100%の収率で液体燃料であるメタノールとギ酸へCO 2 排出無しで変換できることを発見しています。興部町と大阪大学の連携協定締結後、約1年間の研究の結果、バイオガスに含まれているメタンガスから産業的に有用な液体燃料(メタノールとギ酸)を簡便に製造できることに成功しました。今後量産化技術の開発へ向けて進め、早期の社会実装を目指します。

図1 二酸化塩素によるバイオガス中に含まれるメタン酸化の反応式

本技術を活用したまちづくり

北海道興部町は、2013年度にバイオマス産業都市 に認定されて以降、バイオマスを活用した持続可能なまちづくりに関する取組みを進めており、下水汚泥等のバイオマスの有効活用、興部北興BGPによるエネルギー生産、興部町を中心とした北オホーツク地域6市町村で取り組む北オホーツク地域循環共生圏 の構築など様々な取組みを行っています。

本技術の実証により、バイオガスの売電以外の活用方法が見いだされ、バイオガスプラント (図2) の普及に大きく貢献するとともに、基幹産業の酪農業の基盤整備に寄与します。また、生産されるメタノールは常温・常圧下において液体であることから、メタノール燃料電池の燃料として常時・非常時にかかわらず利用が可能であり、バイオマス由来の低炭素な燃料源としての活用が可能です。さらに同時に生産されるギ酸は、現在水素キャリアとして注目されており、こちらも常温・常圧下において液体であることから、水素を活用したまちづくりにもつながります。加えて、酪農業では乳牛の飼料であるサイレージ 製造の際の添加剤としてギ酸が常に利用されていることから自給自足につながります。

このように、本技術の実証により、資源・エネルギーの地産地消につながるとともに、持続可能なまちづくりをさらに推進させてまいります。

図2 北海道興部町の興部北興バイオガスプラント

公開実験(バイオガスからメタノール・ギ酸を製造)

興部北興BGPより採取したバイオガスを用いて、二酸化塩素を用いたメタノール・ギ酸への光反応の公開実験を行います。バイオガスの主成分であるメタンガス(約60%含有)が、二酸化塩素添加後数分間の光照射によってメタノールとギ酸に変換されます (図3) 。当日はLEDライト(60W)を用いた簡易実験装置で反応の様子を実際に見て頂きます。

図3 バイオガス中のメタンからメタノールおよびギ酸を製造するプロセスの模式図と公開実験イメージ。メタンと空気、二酸化塩素からメタノールとギ酸が合成される。反応はフルオラス溶媒で起こり、その後生成物は水中に濃縮される。

参考URL

高等共創研究院大久保研究室HP
http://www.irdd.osaka-u.ac.jp/ohkubo/Ohkubo_Lab/Top.html

用語説明

バイオガス

バイオ燃料の一種で、生物の排泄物、有機質肥料、生分解性物質、汚泥、汚水、ゴミ、エネルギー作物などの発酵、嫌気性消化により発生するガス。

メタノール

別名メチルアルコール。燃料や溶剤などとして広く使用されている。また、フェノール樹脂、接着剤、酢酸などの基礎化学品の原料である。最近では、直接メタノール燃料電池の実用化が期待されている。しかし、その合成は高温・高圧を要することが問題となっている。

ギ酸

乳牛の飼料であるサイレージを生産する際に添加剤として使用されている。最近ではギ酸から水素へ変換する触媒の開発も進んでいる。

メタン

天然ガスの主成分。最近日本近海に大量のメタンハイドレートが存在することが判明し、その掘削技術の開発が政府主導で進められている。バイオマスの嫌気性発酵でも得ることができる。

二酸化塩素

塩素と酸素原子から構成される化学物質(ClO 2 )。市販の除菌・消臭剤の有効成分であることが知られており、亜塩素酸ソーダから容易に作り出すことが出来る。

サイレージ

家畜用飼料の一種で、飼料作物をサイロ(silo)などで発酵させたもの。一般には、青刈りした牧草を発酵させたもの(牧草サイレージ)をいう。それ以外の場合には、サイレージの前に穀物名を付けて呼ぶこともある。

固定価格買取制度(FIT)

「固定価格買取制度」とは、再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)で発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度をいう。高コストである再生可能エネルギー設備の普及を進めるため、2012年に開始した制度であり、この制度の後押しにより北海道内のバイオガスプラント普及が進んだ。

光照射

反応容器に光を当てること。光源は、太陽光、室内光、電灯、LED灯などが利用可能で有り、光の強さが大きいほど反応効率は上がる。

フルオラス溶媒

炭素とフッ素原子のみから構成される溶媒。電子機器の洗浄などに使用されている。

バイオマス産業都市

バイオマス産業都市とは、地域に存在するバイオマスを原料に、収集・運搬、製造、利用までの経済性が確保された一貫システムを構築し、地域のバイオマスを活用した産業創出と地域循環型のエネルギーの強化により地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち、むらづくりを目指す地域をいう。2013年度から、関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)により共同で選定を行い、興部町は2013年度第2次選定で認定された。

北オホーツク地域循環共生圏

「地域循環共生圏」とは、各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す、2018年4月に閣議決定された第5次環境基本計画で提唱された考え方をいう。興部町は2019年に周辺5市町村(雄武町・西興部村・紋別市・滝上町・湧別町)と北オホーツク地域循環共生圏構築協議会を設立し、本地域に存在する豊かなバイオマスを活用した北オホーツク地域循環共生圏構築に向けた取組みを進めている。