2005年以来世界で2例目!哺乳類の受精膜融合に必須な精子膜タンパク質FIMPを発見

2005年以来世界で2例目!哺乳類の受精膜融合に必須な精子膜タンパク質FIMPを発見

いのちを繋ぐ精子タンパク質として15年ぶり

2020-4-7生命科学・医学系

研究成果のポイント

・哺乳類の受精膜融合に関与する精子膜タンパク質を発見(2005年に同研究チームがIZUMO1 を発見して以来、世界で2例目)
ゲノム編集 技術(CRISPR/Cas9 )を用いて膜貫通ドメイン欠損マウスを開発し、精子膜タンパク質FIMPの生体での機能解析に成功
・IZUMO1とは別経路(別段階)で受精膜融合に関与することから、受精膜融合の分子メカニズムの新展開に期待
・男性不妊の原因遺伝子として検査・診断法の確立や治療への応用に期待

概要

大阪大学微生物病研究所の藤原祥高招へい准教授(現在:国立循環器病研究センター室長)、伊川正人教授らの研究グループは、ベイラー医科大学のMartin M. Matzuk(マーティン M. マツック)教授らの研究グループとの国際共同研究により、哺乳類の受精膜融合に必須な精子膜タンパク質FIMPを世界で初めて発見しました。同研究グループは、2005年にIZUMO1を発見(Nature誌に掲載)して以来、世界との競争に競り勝ち2つ目の必須因子の発見に繋がりました。

これまで哺乳類の受精膜融合に関わる因子は3つ報告されており、卵子側ではCD9(Science, 2000年)とJUNO(Nature, 2014年)、そして精子側ではIZUMO1だけでした。最近の研究から、IZUMO1はJUNOと直接結合することで、受精膜融合の初期段階である精子と卵子の細胞膜接着に寄与するとされます。しかし、たった3つの因子だけでは、膜融合の分子機構を全て説明できないことから、さらなる融合関連因子の発見が待たれている状況でした。

今回、伊川教授らの研究グループは、CRISPR/Cas9を用いてKO マウスを開発・解析することにより機能未知の膜タンパク質としてFIMPを同定し、FIMPが受精膜融合に必須であること、IZUMO1とは別経路(別段階)で膜融合に機能することを解明しました。これにより、受精膜融合の分子メカニズム解明への新展開、そして男性不妊の原因究明や治療法・避妊薬の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, PNAS」電子版に、4月7日(火)午前4時(日本時間)に公開されました。

図1 哺乳類の受精膜融合に関わる因子群
これまで受精膜融合に必須な因子は、3つ報告されていました。卵子側はCD9,JUNO、精子側は同研究グループが2005年に発見したIZUMO1でした。今回の精子膜タンパク質FIMPはIZUMO1に次ぐ発見となりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

わが国では、約6組に1組の夫婦が不妊の検査や治療を受けており、不妊症は社会問題のひとつとなっています。本研究では、受精で最も未解明な部分である膜融合に関与する精子膜タンパク質FIMPをゲノム編集技術CRISPR/Cas9を駆使することで発見できました。本研究成果により、男性不妊の新たな原因遺伝子として診断・検査の対象となり、治療薬や避妊薬の開発へと繋がる事が期待されます。

図2 FIMP-KOマウス精子におけるIZUMO1の局在観察
野生型(上写真)とFIMP-KOマウス(下写真)を比べたところ、IZUMO1の局在(赤色)に違いは見られなかった。つまり、FIMP-KOマウス精子は、IZUMO1が存在するにも関わらず融合不全を示すことが明らかになった。オレンジ枠は先体反応前、緑枠は先体反応後の精子、*受精可能な先体反応後の精子

特記事項

本研究成果は、2020年4月7日(火)午前4時(日本時間)以降に米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, PNAS」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Spermatozoa lacking Fertilization Influencing Membrane Protein (FIMP) fail to fuse with oocytes in mice”
著者名:Fujihara Y, Lu Y, Noda T, Oji A, Larasati T, Kojima-Kita K, Yu Z, Matzuk RM, Matzuk MM, and Ikawa M.

なお、本研究は、科学研究費補助金、日本医療研究開発機構、National Institute of Health Grant、Bill & Melinda Gates Foundation Grant、公益財団法人武田科学振興財団研究助成、公益財団法人千里ライフサイエンス振興財団岸本基金研究助成、一般財団法人伊藤忠兵衛基金学術研究助成の支援を得て行われました。

参考URL

大阪大学 微生物病研究所・附属遺伝情報実験センター 遺伝子機能解析分野HP
https://egr.biken.osaka-u.ac.jp/

用語説明

IZUMO1

伊川正人教授・岡部勝名誉教授らの研究グループが、2005年に世界で初めて発見した受精膜融合に必須な精子膜タンパク質。名前の由来は、縁結びの神様として有名な出雲大社にあやかってつけられた。その後、IZUMOファミリー遺伝子や構造の似た遺伝子のKOマウスが解析されたが、現在までIZUMO1-KOマウスと同じ融合不全を示すKOマウスの報告はなかった。

ゲノム編集

ゲノム(遺伝子を含む遺伝情報)上の任意の場所で、欠失・挿入などの変異を導入できる遺伝子改変技術のひとつ。

CRISPR/Cas9

(クリスパーキャスナイン)/現在注目を集めるゲノム編集技術のひとつで、細菌の獲得免疫システムとして発見された機構。この機構を応用することで、ハサミの役割を持つCas9ヌクレアーゼによるDNAの切断・修復機構を利用して変異を効率良く導入できる。

KO

(ノックアウト)/遺伝子改変技術により特定の遺伝子に変異を導入して、その遺伝子の機能を破壊すること。KO動物を解析することで、生体内での機能を解明することができる。